④【衝突】


 陽は沈み、街頭や家々の明かりがつき酒場に人が集まる。毎晩繰り返される喧騒。楽しい酒もあればストレス発散の酒もある。夜が更け、灯りは消え、そして時間とともに静けさを取り戻す。


 昨日と同じ退屈な張り込みではあるが、もうすぐ答え合わせが出来るのという期待が俺を動かしていた。そして、他の冒険者達もこのポイント近くに待機する様に手配した。多くの目で見ておいてもらう必要があったからだ。


 今朝、一時間近く魔力留りが残ったのは、丁度この場所が“地脈の交流点”だからだ。地脈からはほんの少しだが魔力の補充が出来るという、冒険者にとってはありがたい場所だ。ましてや交流してる場所は結構レアで魔力の回復量が全然違う。


「急速充電器みたいなもんや」

 ――タクマ正解!



 これは俺の推測だが、多分犯人は魔法を使えない。そのため魔力が供給される地脈を読むことができず、探りながら何度も何度も魔法を使ってみて、供給量が多い場所を探し当てた。それが昨晩なのだろう。


 魔力を持たない人間が魔法を使う為には 魔道具アーティファクトを使う以外に方法はない。


 現存が確認されている魔道具アーティファクトは三十個もなく、誰が何のために作ったのかすら不明のままだ。形状は様々であり、武具であったり日用品であったりと、魔力感知ができない人にとっては“普段使っている道具”としか認識されない代物だ。


 転生者が現れ魔道具アーティファクトを探り当てるまでは、極々一部の魔力を継承している一族にしか見つけることができなかった。


 極端に少ない現存数のため、ローカルズの王族のみが管理し、一般社会に流通するような事はない。そんな貴重なものをどこで手に入れたのか? 盗まれたのなら大ニュースになっているはずで、そういった話は全く聞かない。


 そんな大それたものを保持しているかどうかなんて、犯人を捕まえてみないとわからない部分だが、もし王族が管理すべき魔道具アーティファクトを不法所持していたとなると、収監くらいではすまないだろう。


 もっとも、魔道具アーティファクトを隠し持っている転生者の国もありそうではあるが。



「来たで」

 タクマがぼそっと話す。


 俺の後方十メートル。 魔力を感じる。生物の魔力とは違い、肌にビリビリ感じる。これは魔道具アーティファクトで間違いないだろう。このまま気が付いていないフリをしつつタイミングを待つ。他の冒険者にも先走って飛び出さないようにあらかじめ話は通しておいた。


『俺の分の報酬はいらないので六人で分けてくれ。その代わり今夜は俺の合図があるまで動くな』 と。


「そろそろや」


 腰のタクマホルダーのボタンを外し、タクマを手に取る。


「五やねん」

 集中し、魔力の発生位置を出来るだけ正確に感知する。


「四ですがな」

 悟られないように静かに左足を引いて、振り向く体制を作る。


「三だっちゃ」

 後方で魔力の高まりを感じる。


「二郎ラーメン食いてえ」

 それ飯テロ!!


「一やで~」

 あ~語尾がウザイ!!


「――今や!!!」

 振り向きざま右手に持ったタクマを力いっぱい投げる!!


「よっし! 方向バッチリ……タクマ投げるのってこんなに気持ちよかったのか」

「ちょまっ、キョウジ! 転がすだけのハズだったろぉぉぉぉぉ」


 ……きっと鼻水たらしながら叫んでいそうだ。ああ、鼻はなかったか。


 超級無限大の魔力を持ちながら、一切魔法が使えないタクマだが、自身から全方向に向けて魔力放出をすることは出来る。放出できる量は微々たるものだが “交流点から魔道具アーティファクトへの魔力供給をタクマの魔力で切断する”という今回の作戦においてはそれで十分だった。



 犯人の足元、交流点に飛んでいくタクマ。


「アタイ、許さへん! 許さへんで! アタイ!!」

「タクマ、キャラ変わっとるぞ~」


 このまま犯人の足元に着弾し魔力を与えれば収束していた交流点は拡散し、魔道具アーティファクトへの魔力供給が停止する!


 ――だがここで予定外の事が起きた。


「なんか~気持ちええねん。ほっこりするというか~生きるエネルギー貰ってるというか」


 犯人が発動しかけていた魔法が、タクマが放出している微々たる量の魔力と融合していた。


「ああもう、アタイ弾けそうやねん!!」


 融合は相乗効果を生み、地脈の破壊どころか着弾点を中心として民家の五~六軒を吹き飛ばす大爆発になった!


 ――夜中の静けさの中、爆音が響く。


 さすがに待機している冒険者もこれには驚き出てきてしまった。まあ、今更隠れていても意味ないが。


 それにしても魔道具アーティファクトの魔力と融合するって、タクマ自身がアーティファクトかそれと同等なのか? と頭をよぎったが、そんなことはどうでもいい。石やし。

 それよりも犯人まで吹き飛ばしてしまっているとしたら少々厄介なことになる。事情を知らない人からしたら、不良集団が破壊活動をしただけだしな。

 

 しばらくして煙の中に薄い緑色の結界、言わばバリアみたいなものが見えてきた。どうやら死んではいなさそうだ。一安心。


 ……視界が少しづつ開けてきた。


 犯人の顔を見ようと冒険者達が歩を進めようとする。その脇を抜けて犯人に走っていく一人の男。昨日俺を睨みつけていた警官だった。



「あれ、奴が犯人じゃないのか……」


「ジョン!!!」

 警官が叫んだ名前に、一瞬思考停止した。あまりに予想外の犯人だった。

 

 ……宿屋の息子のジョン。


 爆煙の中、薄緑の魔力に守られているのは紛れもなくあのジョンだ。そして視界の悪い中、犯人がジョンだとわかっていた警官も、ある意味共犯者なのだろう。




次回! 第二章【truth of Fault】-過ちの真実- ⑤誘惑-その1

ジョンの回想回。これが事件の発端! 是非ご覧ください!

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