②【問題は、向うから……】
さわやかな朝! となるはずが、わけわからん悪夢に起こされてしまった。
……勘弁してくれ。
なんか頭が重い。酒が残っているのではない。そもそも良質のアルコールを嗜む程度飲んだだけだから酒が残るはずもない。
まあ、なんというか……うかつだった。寝付く前にタクマをバックパックに放り込んでおくべきだった。どうやらコイツは俺が起きるまでずっと、俺の耳元でずっと恨み節を囁いていたらしい。
「悪夢の正体はそれか……」
「小綺麗のコっておかしくね? ちょっとだけ綺麗って何割くらいの話なんや? 要は大半が汚いってことやろ。ほとんど汚いのやろ? なら小綺麗じゃなくて大醜悪というべきじゃね? なんや、マイノリティに配慮か? マジョリティは黙っとけってか? だがワイは黙らへんで。民主主義はマジョリティがパワーや! まあ、ワイの存在は唯一無二やからマイノリティ・オブ・マイノリティじゃがの!」
……とかなんとかもう一晩中。
あまりにむかついたので『昨夜はワンレンボディコン(死語)とずっと飲んでいたで~』と軽く盛りつつ言ってやったら本気で悔しがっていた。報復終了!
さて、今日は冒険者ギルドに顔を出して情報を集めてからアメリカ領に向かうとしよう。とりあえず朝飯のために一階に降りる。
――だが、そこで事件が起きた。
「あら、おはよう。昨夜はよく眠れたかい?」
と、おかみさん。
「おはよ……ん?おかみさん?」
見ると昨夜とは全然別人で、恰幅の良い田舎の豪快なおばちゃんになっていた。チョットマテ、あまりにこれはチガウ。
さすがに酔って見間違えるとかのレベルじゃない。だが朝食をとりながら探り探り話してみたが昨晩話をした本人に間違いなさそうだ。
「おい、キョウジ」
「……なんだよ」
「あれがお前の言うワンレンねえちゃんか? 話盛りすぎやろ。力士やんか。レスラーやんか。インド人もびっくりや~!」
いや、昨夜は違っててな……と言いかけたが、俺にも状況がさっぱりなので何をどう説明すればよいか解らぬ。解らないし、タクマに弁解したところで俺には何一つ利点はないのでここはひとつ放置プレイ。
食事の後『夕方までには戻る』と“昨晩と同じ顔の”宿屋の主人に伝え、安物の剣と“不本意だが”タクマを携帯できる革製のタクマホルダーを着けてギルドへ向かう。
――冒険者ギルドというものは総じて、歩くだけで埃が舞い上がり、獣臭がしているのが常だが、この村のギルドはどちらかというと清潔感があった。どちらかというと、ではあるが。
ここでは情報の売り買いを行う。基本的には情報同士のやり取りだ。副次的に金品や他国の珍しい物との交換も可能となっている。要はお互いが納得できればなんでも交換対象になりうる。
とは言え現金でやり取りするケースは
ただ、そこには一つだけ禁止事項がある。それは“身体や人間を交換対象にしてはならない”という事。その場、その依頼限りの労働力としての依頼なら問題はない。これはつまり、村や町移動の際の護衛依頼等が該当し、売春や人身売買は取り締まるという意味である。この辺りは、転生前にいた時代における法律の影響が強いと思われる。
掲示板に“求めている情報と提供できる情報”を簡単に記載する。マッチングアプリみたいなものだ。だからと言って男だけ有料とかではない。情報は平等である。
俺が探しているのはアメリカ領までのモンスター情報。ここからだと早くても十日ほど歩くことになるため、詳細な情報を得ることで安全に野営ができる。ちなみに俺が出すのは、ここから日本領までのモンスター情報だ。
通常は二人以上の複数人パーティーで移動し、寝る時も交互に行う等して安全確保するのがセオリーである。しかし、以前とある冒険者達と組んだ時、タクマのやかましさに皆一晩で音を上げて、翌日にはパーティーが解散するという憂き目に遭っていた。
それ故ソロで掲示板を見ている事が、もしかしたら“自信しかない凄腕冒険者”とでも思われたのかもしれない。ギルドカウンターの中から声をかけられた。
「仕事を依頼したい」と。
「一年ほど前から何度も発生している事件なんだけどな……」
と、ギルドマスター直々の仕事依頼だ。俺以外にも数人の冒険者が声をかけられてそこにいた。
「ひと月に数回、極端な“魔力溜り”がそこかしこに発生する様になった。その魔力を浴びた犬や猫、牛等が狂暴化して村人にけがを負わせるって事件が起きているんだ」
魔力溜りというのは、魔法を使った時に起こる“魔力の残りカス”が溜まったものを表す。……花火が消えた後、その場に煙とにおいが残る。それがその場にとどまる様な感じだ。
当然、行使した魔法が大きければ大きいほど、魔力溜りも濃く残る。先日みたいにゴーレム召喚なんてしたら、その場には相当濃いものが出来てしまう。
今回の事例では人が狂暴化する事例はない事から、野生動物としての本能等に働きかけていると思われる。今のところ大事には至っていないが、この先、女子供が狂犬にかまれないという保証はない。
真っ先に疑われたのは魔力をもつ転生者だが、この村には数えるほどしか定住しておらず、そのため村内で魔法が使われる頻度は極端に少ない。もちろんすでに警察により全員の調べはついている。
――アリバイあり。全員白。そのため捜査は暗礁に乗り上げてしまい、冒険者の手を借りる事態になっていた。
一番最近起きた魔力溜りは昨晩。俺が美乳スレンダーなおかみさんと飲んでいた頃だ。そもそも何か魔法を使わない限り魔力溜りなど起きない。そして、魔法が使われれば、魔力を持っている転生者は必ずと言ってよいほど気が付く。
しかし昨晩は静かなもので、どこかで魔法を使った小さな喧嘩ですら起きた気配はない。
まあ、一年前から何度も起きているのでさすがに小さな喧嘩ということはないだろうが
――この村にいる転生者が、 誰一人として全く魔力感知できない状態で魔法が行使されている。という謎がガッツリと俺の興味を引いた。
次回! 第二章【truth of Fault】-過ちの真実- ③おかみさん、またですか……
是非ご覧ください!
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