第二章【truth of Fault】-過ちの真実- 

①【選別】


「ここだよここ、楽しみにしてたんだよな、地鶏料理!」


 ここの地鶏料理とワインは絶品! と、かなり遠くまで噂が広まっている村だ。その為、それなりに旅人が立ち寄る村なのだろう、宿屋は労せずに見つかった。すでに陽が落ちかけ、ぱらぱらと明かりがつき始めている。 


 いくつか並んだ宿屋の中、俺が選んだのは素朴だがちょっと小綺麗な宿だった。少しくたびれた感じの赤レンガ作りの宿で1階は酒場になっている。この世界では極々普通の宿屋の形態だ。とは言え、転生前の世界では“隠れ家”としてバズりそうな良い雰囲気である。……そこがなんか妙に琴線に触れたんだよな。 

 店主の親父さんはこれぞ職人気質と言った感じで不愛想。逆に奥さんが類稀たぐいまれなるコミュニケーション能力で酒場を見事に回している。




「……美味い!」


 村の畑で穫れたブドウを使った、渋みを抑えた極上ワインと地鶏のソテー。もも肉の皮目をパリッと焼き上げ、ガーリックバターにバジルを効かせたソース、添え付けに人参らしき野菜とフライドポテト。隠し味に醤油を二~三滴。

 食べなれた感じの味付けと豪快かつ繊細な盛り付けは、ここの宿の人も転生者なのだろう。醤油使うとか、ルーツは日本人かもしれん。


『お客さん、どこからいらしたの?』とほろ酔い加減で聞いてきたのは三十台半ばの宿屋のおかみさん。

 タクマなら「バブル期の乳」とか言い出しそうな美乳のスレンダー美人さんだ。 きっとここの主人の一番の自慢を聞いたら返事は間違いなく「嫁」と答えるだろう。うん、人妻だろうが何だろうが、俄然ワインが美味くなる。


「日本からですよ」

「遠かったでしょ~。ここは観光で?」

「まあ、そんな感じです。アメリカに友人を訪ねる途中なんだけど、ワインと地鶏料理が美味いって聞いたので。率先してより道ってとこです」

「それならうちに来て正解ね。自慢だけど、うちの人の料理はこの村一番なのよ!」

「自慢じゃないけど、じゃないんだ」

「もちろんよ。自慢だもの」


  心底、ご主人に惚れているのだろう。まったく嫌味に聞こえない。それにしても信じられん。この美乳スレンダーさんに二十歳の息子がいるなんて。


「なんか出来ちゃってさ~そのまま駆け落ちしてきちゃった」

 と、あっけらかんと話していたが、この宿屋を持つまで相当苦労しているだろう。



 その息子はというと、この宿屋でウエイターと雑用をやっている。名前はジョン。 母親が話しているのを見て、わざわざ俺のところに来て自己紹介してくれた。好印象。聡明な顔つきと清潔感。この親にしてこの子あり。モテるだろうね、美青年。親父に似なくてよかったな!

 ……とか考えていたら調理場から顔を出した親父さんと目が合ってしまい、冷や汗。


 ちなみにタクマはやかましめんどいので部屋に置いてきた。食わなくても死なないし。石やし。

 のんびりと、食事とスレンダーさんとの会話を満喫していたのでタクマが激怒しているかと思ったが、部屋に戻った時には叫び疲れて寝ていた。 

 騒ぐのが目に見えていたので、あらかじめ外に音が漏れないように布団で5重くらいにくるんでおいたのだが……開いてみたら布団にヨダレがべっとりと付いていた。


「石でもヨダレ流すのか……」


 転生してから半年、このタクマとなんとなく冒険してきたが、この世界の謎ってのが全くわからん。わかる訳がない。イメージしていた異世界転生って、神様が出てきて〇〇やりなさい的な事言われてステータスが見えてスキルがバンバン使えて……

ってのがまったくねぇ。 

 オマケにエルフやドワーフと言った亜人種にもまだ逢ったことがない。転生した時は『綺麗なエルフ姉ちゃんに逢ってみてぇ!』とかワクワクしていたのだが。

 さらには、ゴブリンやオークみたいな“人型”のモンスターもいないらしい。唯一、魔界に住むと言われるデーモンだけが、モンスターだと記録されている。


 ――転生者は“元世界”で死んだ人間が全て転生されてくるのではなく、何らかの条件で選別されている。そして殆どの者が前世の記憶がない。俺やタクマみたいに、死ぬ間際までの記憶を持っている転生者には未だ逢っていない。


 転生出来る条件とは何なのだろうか? 俺がこの世界で興味を引いたのはこの一点だった。とはいえ、答えがあるものならいくらでも推理するけど、こんな「神のみぞ知る」問いは考えるだけ無駄な気もする。


 ――そして、この世界でまずやらなきゃならない事は“はぐれた友人”を探す事。タクマは魔法が使えない分、魔力感知サーチを広域展開することが出来るみたいだ。その能力に頼らなければならないってのは、俺的には屈辱以外の何ものでもないが……


 等とつらつら考えていたら程よく眠くなってきた。


 酒も料理も美味かったし、今夜はいい夢見られそうだ。





※人間の記憶には意味記憶やエピソード記憶といった種類がいくつかあります。名前を忘れていても、技術を覚えていたり自転車に乗れたりするのは記憶領域が別にあるからなのです。



第二章MAP

https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817139555335343278



次回! 第二章【truth of Fault】-過ちの真実- ②問題は向うから

え?ちょっとおかみさん、それやばいって……なんで? 是非ご覧ください!


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