⑫【旅の空】


 スイートは名残惜しかったが、国家相手にあまり借りを作るのは好ましくない。 今後、色々と足かせになるのはごめんだからな。


 ひと言礼を述べて、早々に出立した。



 変わり映えのしない石畳の街道を進む。比較的しっかり舗装されていてメンテナンスも行き届いているのは、この辺りはモンスターがそれほどでないのだからだろう。

 『途中まで方向一緒だから』と、何故かセイラが同行している。諜報員の仕事というのも、西へ東へと結構大変そうだ。



「あ、そうだ、これ」

 と言ってセイラは胸ポケットから小さな入れ物を取り出した。


「日本の外交官さんが渡してくれって。頼んでいたんでしょ?」

「ああ、流石にこのままだとマズイからな。見つかって良かったよ」

 

 チューブ状の小さな入れ物に入った液体。これがあれば……

「タクマ、ちょっと目をつむっとけ」

「なんや? なにするんや?」


……ぶちゅ~~~~~~~~~~


「ちょ、キョウジおま、なに塗っとるんや!!」

「知らない? 瞬間接着剤ってイウモノダヨ!」

「そういう話やなくて、おい、こら」


「……うん、これで大丈夫だろう」

 例のひび割れをしっかりとガッチリとスキマなく接着できた。


「流石に魔力垂れ流しというのは危険だからな」


 もし何らかの事情で転生者と敵対する事になったら、相手にも魔力供給してしまう恐れがある。そうなると戦いは間違いなく泥沼化してしまう。それだけは断固として避けたいところだ。


「漏れてなさそうだね」

 何気なくセイラも確認する。


「流石、貿易の街だ。どこかで売っているとは思ったんだよ、瞬接。それも信頼のmade in japanだぞ!!」


「コラ! なにさらすねん、おケツが塞がってしまったやないか! ワイ便秘になってまうがな。どうしてくれんねん、このあふれる情熱をどこにぶつけろっちゅーねん!!」



 うん、大丈夫だ。いつもと変りないタクマだ。……つーかお前の情熱は尻から出るのか。アメリカ領まではまだかなり歩くが、もしかしたらカドミに再開できるかもしれないという期待が気分をいつも以上に高揚させていた。俺も、タクマも。


「じゃ、私はこの先の街に用事があるから~」

 そこが次の仕事の場所なのだろう。またどこかで。と付け加えて、街道の分岐点で別れた。


 ……まあ、当分会う事はないだろうな。 


 俺はと言えば、ちょっと寄り道しての”地鶏料理”が評判の村で舌鼓予定なのだから。なんにしてもこれでまた二人旅だ。気兼ねなくのんびり行こう。




 旅の空はどこまでも青かった。






【laughing Stone】-笑う石- 完





次回! 第二章【truth of Fault】-過ちの真実- ①異世界

飯につられて立ち寄った村で起こるひと騒動。 朝起きたらなんでこうなってる? 是非ご覧ください!




第1章【laughing Stone】-笑う石- まで読んでいただきありがとうございます。


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