⑧【ロリショタ?】

 俺は自分の立ち位置を更に下げた。カドミ達まで七~八メートル位か。俺が後ろに下がるのを見て自分達が優勢とでも勘違いしたのか、敵兵が一斉に進んで来る。操られてさえいなければ、こんな単純なトラップには気が付く兵もいただろう。


「パティ、今だ!」


 俺が合図を出した時には、すでにパティの詠唱は完了していた。中央から突進してくる二十人程の兵士は、突然足元に開いた穴に吸い込まれるように落ちていった。石作りの床だからこそ出来た作戦だ。これがコンクリートみたいな“精霊が宿る事の出来ない人工物”であったらこの作戦は不可能だった。

 それでもかなり広範囲に展開した落とし穴の為、それほど深くはない。両腕を伸ばせばギリギリ這い上がれる位か。


 だが俺は、間髪入れずその穴の上に、炎の壁を発生させた。


 岩を掘った落とし穴の中で、上は劫火で蓋をされ……穴に落ちた敵兵の誰もが、這い出ようとして焼け死ぬか、とどまり窒息するかしかなかった。


 ――。それはよくわかっている。だがそれでも今回の戦術は褒められたものではないし、何より、パティやレオンにも加担させてしまっている罪悪感が半端ない。


 

 中央はこれでほぼ封じた。後続は一斉には侵攻出来ないはずだ。あとは俺一人で何とかなる。これでパティもシルベスタのフォローに専念できるだろう。


「なあ、結論は出たか?」

 と……聞くだけ野暮だった。


 ふっ切れた彼は“獅子奮迅”とでもいうのだろうか、ハーフデーモンの攻撃を受けながらも倒し、右翼の敵兵はほぼ制圧出来ていた。


 ――あとで聞いた話だが、シルベスタは過去に弟を病気で亡くしていたらしい。パティやレオン位の年頃の子に対して、弟の面影を重ねているのだろう。


「姐さんへの恩よりも、国への義理よりも、今はこの子達への情が勝る!」

 ふっ切れた表情で、吠えるように心情を吐いた大男はその場に仁王立ちしていた。


「シルヴィ、あんたロリコンだったっけ? ショタ属性もある?」

「姐さん……相変わらず口が悪いですぜ!」



 左翼のハーフデーモンはセイラのレークヴェイムが鎮圧した。鎧兵デュラハンも可動限界が来たためだろうか、沈黙している。

 そして正面には大穴と炎の壁。この状況から敵が取る戦術は一つしかないだろう。


 ――ゴーレムの一団を前面に押し出しての中央突破。


 防御を兼ねて発生させた炎の壁は“敵部隊の状況を把握しにくくしてしまう”という弊害があったが、それは向こうも同じ。こちらの動きを正確に把握出来ないだろう。それ故の、ゴーレムに頼った力押しで来るしかないと推測出来る。


「タクマ、状況はどうだ?」

「とりあえず敵ゴーレムは七体やな。一体はセイとイラが術師を倒したみたいや」

「凶悪ですわね。さすがお姉さまのコピーですわ」

「あと、援軍が来てるで」


 ヤバイな。これ以上敵が増えるとなると、城捨てて撤退も考えなきゃならなくなる……。


「援軍……どこの国だ。日本が動いたのか?」

「いや、そうやない……ワイらの援軍や!」

「俺達の……?」


 魔法を乱発しまくっているこの状況ではそこら中に“魔力溜り”がある為、魔力感知サーチはほぼ役に立たない。だから『援軍』と言われても全くわからなかったのだが……

 それでも凝視することで、炎の壁越しでもなんとか視認が出来た。そこにはゴーレム召喚の光が立ち上がっており、見覚えのあるあのゴーレム。



「あ~、カドミよ。あのゴーレムの術者を守るように自動人形オートマトンの配置頼むわ」


「うむ。あれも仲間なんじゃな?」

「もちろんだ。意外だったけどな」


 ところであの召喚されたゴーレムは、いまだに“ギャラクシーエンペラーレクイエム”という名前のままなのだろうか? まあ、何にせよナイス援軍!

 俺が彼らに依頼したのは、日本政府に対しての流言飛語だけだ。このタイミングでここに現れたという事は……これもエクエスが追加で指示を出しておいてくれたのだろうな。



次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑨嵐

是非ご覧ください

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