⑦【鎮魂歌】


 この後はタイミングが問題だ。ゴーレムを召喚したら動くことが出来なくなる為、魔法陣そのものを守る者が必要になる。これはカレルトーナメントの時と何ら変わることがなく、あの時の経験が今“活きている”と言える。敵兵は直接魔法陣を狙ってくるだろうし、それがPT戦闘のセオリーでもある以上、そのケースを無視することは出来ない。


 ――だから、とにかくこの場は“次の一手の為に”距離を取る事を優先する。


 敵兵の武器の間合いを外し、自分の足元に乱気烈風エアリアル・ブラストを叩きつける。これは、“一点に集中させた大気を破裂させるように解放する”かなり強力な魔法だ。直接ダメージを与えられる魔法ではないが、その風圧はかなりのもので、敵の陣形を崩したり侵攻を止めたりと、使い方次第で応用の幅は広い。


 破裂し暴風となった大気は、近くにいた敵兵を全て吹き飛ばした。俺自身もその風圧を利用して、十数メートル後ろに飛び退く。降り立ったのはカドミ達と敵部隊の丁度中間辺りだ。着地と同時に魔法陣を発生させ、呪文詠唱を始めた。


「今です、一斉にかかりなさい!」


 山南・兄の指示が飛び、そこにいた何十人もの敵兵が俺に向かってくる。距離を稼いだと言っても、せいぜい十二~三メートルほどだ。重装した兵士でも数秒あれば剣が届く所まで近寄れるだろう。流石にこれだけの人数で突っ込んでこられたら詠唱中断どころか、生存すら危うい。


「だけどね……。読んでいるんだよ、そんなカビの生えた基本戦術は!」



 俺は“偽の魔法陣”をそのまま放置すると、自身を中心とした氷の陣フリーズ・ラインを発生させ、に寄ってきた敵兵どもの足を一斉に凍らせた。だが、かなり強引に広域展開させた為拘束力は弱い。これでは、魔力を持っていないローカルズでもすぐに抜け出てく来るだろう。


 しかし、それで十分だ。召喚の為の魔法陣は


 ――直後、俺の背後で魔法陣から、緑の風を纏って白い光が立ち上る。


魔装Expession!!」


 そう、ゴーレムを召喚していたのは俺じゃない。セイラだ。風の属性をまとったサベッジ・ペガサスが具現化する!


Expessionエクスプレシオンか。いい掛け声だな……。次から俺も使わせてもらおう」


「な、なんてことだ……」

 瞬時に自分の失策に気が付いたのだろう。山南・兄は明らかに狼狽うろたえ、声を震わせながら数歩、後ずさった。


「残念だったね、おっさん。アンタは眼中にないんだ。椅子に座ってぬくぬくと謀略巡らせていた人間と、戦場で死にながら鍛えられた人間の差なんだよ」


 この一手の為に、わざわざ敵が追い付ける程度に離れ、魔法陣を敷いて敵の注視を集めたんだ。間違ってもセイラの方に目が向けさせてはならない。その為、魔法陣発生と同時に雷光魔法フラッシュを重ね、魔法陣そのものが“派手に光っている”演出をしなければならなかった。……セイラのギャラプリ衣装あの格好、めちゃくちゃ無駄に目立つからな。

 

 しかし、それはそれとして……


「なんだこのゴーレムは!? 俺のサベッジ・ペガサスじゃねぇ……」

 セイラには、召喚に使う様にと俺の魔導書を渡しておいたのだが……。召喚者が違うと具現化する姿も変わるのか? でも、そうすると書き込んだイラストの意味っていったい……?



 炎を宿したサベッジ・ペガサスは手首や足首から炎が噴き出していた。そして、このゴーレムも同様に、数か所から渦巻いた風が噴き出していた。

 全体的に細身で女性的なフォルム。ホワイトグレーのフレームに、うっすらと緑がかった白い装甲。そして赤のラインが所々に入った、洗練されたデザイン。……ただし目つきがわるい。 


「サベッジ・ペガサス改め、レークヴェイムって所かしら」


 鎮魂歌レークヴェイムか。今の状況にピッタリな名前だな。って言うかさ……

「自分のゴーレムにはえらいカッコイイ名前つけやがりますのね」

「あら、妬かないで。キョウちゃん」


 敵側のゴーレムはまだ部隊の中団から動けないでいるみたいだ。なかなか前に出てこられないのはセイとイラが頑張っているという事なのだろう。しばらくはあの二人にまかせておいても大丈夫そうだ。



「セイラ、左のハーフデーモンは任せる」

 流石にゴーレムでならハーフデーモンごときは造作もなく倒せるだろう。

 

 俺が中央でフェイクを仕掛けている間に、右翼の方で動きがあった。ハーフデーモンが三体、カドミ達に近づいていたんだ。しかしそこには、いち早く気が付いたシルベスタが下がり、パティとレオンを守るように闘ってくれている。すでに全身血まみれになっていて、文字通り体を張って二人を守ってくれていた。 


「なあ、シルベスタ。あんた、どっちの味方だ?」

 多分本人も迷っているであろう質問をぶつける。それも血まみれで戦闘中の相手にだ。迷ったまま闘っていては事を俺としては、答えがどちらであろうと“今”覚悟を決めて欲しいと思った。


「誰に対して恩があり、誰に対して義理があり、誰に対して情があるのか? そしてあんたはどれを最優先とするのか? その答えが出せなければ犬死だぜ!」


「お兄さま、こんな時に……」


「こんな時だからこそ、だ。そもそも、あんたのその名前はセイラがつけたんだろ? いまだにその名前を使っていると言う事は、イギリスという国ではなく、セイラの部下というあかしじゃないのか?」


「厳しい事……言いますね」

「厳しかろうが何だろうが、今そこで何かあったらパティが悲しむだろ!」


 多少強引にでもシルベスタの答えを導きたかった……。しかし会話はここまでだ。

 中央から押してくる敵兵に対処しなければならない。左右に展開しているハーフデーモンと鎧兵デュラハンが邪魔になっており、中央を力押しするしかなくなっているからだ。しかしそれはこちらの思う壺だ。


「命の惜しい奴は下がれ。前に出てくる奴は容赦しねぇぞ!」


 まあ、無駄だろうけど一応言うだけ言っておいた。もっともこれは人道的なナントカとかそういうものではなくて……『警告はしたからな!』という、俺自身の罪悪感を軽減する為だった。



 そう、これから行う大量虐殺ジェノサイドに対しての……




次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑧ロリショタ?

是非ご覧ください

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