⑨【嵐】
挟み撃ちという戦術を奇襲で使えば、数で負けていても一気に劣勢をひっくり返す事も可能だ。単騎とは言え敵部隊の後に味方が現れたのなら、こちらも間髪入れずに前に出た方がいい。いや、むしろそうしないとどちらも生き残れないだろう。
タイミングは、イギリスの転生者達がギャラプリのゴーレムに反応した瞬間だ。
「セイラ、奴らを吹き飛ばすぞ」
「了解。今度はこちらが前にでればいいのね!」
「ああ、流石にゴーレム同士の戦闘は外でやってもらわないと。これ以上天井が崩れたら俺達まで下敷きになっちまう」
かなり強引だが風魔法で炎の壁と敵兵をまとめて吹き飛ばし、敵部隊中団のゴーレムまで一気に駒を進める作戦だ。ただしこれには条件とリスクがある。条件は
いくら敵兵を吹き飛ばすとは言え、たまたま吹き飛ばされずにその場に残る者がいるかもしれない。そうなると、敵部隊中団に突入したレークヴェイムとセイラの魔法陣の間に敵兵が残る事になる。その敵兵はまず間違いなく、魔法陣を潰しに来るだろう。そいつらをキッチリと抑え込めるかどうかがカギだ。
シルベスタとレオンは怪我の状況から見て実働戦力として計算は出来ない。だとすると……
「守りは俺とパティだけか……」
「あら、お兄さま、不満ですの? それとも不安ですの?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
不満でも不安でもなく、今更ながら少年少女に人殺しの手伝いをさせてしまっている事に、何ともいえない後ろめたさを感じてしまっていた。流石に『仕方がない』と簡単に割り切れるものではない。
「……そろそろ頃逢いだぞ」
突如として部隊の後方に現れたゴーレムに多くの敵兵が気付き、注視し始めた。敵ゴーレムも同様、七体全てが後ろを向き、戦闘の構えを見せている。明らかに統一感がなく、皆が勝手に動いている感じだ。
この状況、指揮系統がしっかりして居ればゴーレムが全部後ろを向くなんてことはありえない。まず間違いなく、指揮官がいないという事だろう。戦死したのかデーモン化したのか……。
「キョウちゃん、いつでも行けるよ。タイミング任せた!!」
セイラのかけ声とともに呪文の詠唱に入る。今撃てる最大級の風魔法を構築するためだ。魔力は地脈の影響で減ることはないので考慮する必要はなかったが、流石にこれだけデカい魔法は初めてな上、気を少しでも抜くとあらぬ方向に飛んで行ってしまう。
風系魔法のリスクとして、“撃ち出した時の反動”がある。氷や土・石みたいに物体を構築して撃ち出すのとは違い、風を直接操作する必要があった。つまり、発生させる風圧が強ければ強いほど、撃ち出した威力と同等の反動が術者にも返ってくる。
百人を吹き飛ばす威力があるのなら、術者はその威力を一人で受けてしまう諸刃の術だ。その為風魔法は扱いが難しいとされ、セイラみたいにメイン属性にする転生者は極少数だった。
だが今は、そんなリスクを考えずに最大限のパワーで吹き飛ばす必要がある。
「パティ、行けるか?」
「こちらはいつでも大丈夫ですわ」
俺が使える最大級の風魔法、
呪文を唱え、単語を繋げていく。徐々に目の前に風が集まり、その乱気流は視認出来るほどだった。風に吸い上げられ、小石や木の葉が目の前の渦の中で粉々になっていく。大気が圧縮された為かだろうか、水蒸気で白く濁った直径二メートルほどの玉が、俺の指先にある。
「みんな、俺の後ろに……」
セイラは少し離れているが、まあ大丈夫だろう。風魔法なら俺よりも上位の魔法を使える位だ、自分で何とかしてくれ。
皆が後ろに集まったのを確認し、真正面に狙いを定める。そして……
――魔力を、一気に解き放つ!
瞬間、パティが石床を隆起させ、俺と
「や……ば……」
横向きに打ち出したした
間髪入れずに踏み出すレークヴェイム。脚からは風を吹き出し、一歩一歩蹴りだす毎にホバー状態で一気に進んでいる。
「ふう、危ない所じゃったのう」
不本意だ……。俺が吹き飛ぶのを見越していたカドミは、背後に空気の塊を用意していた。その見えない空気のクッションに包まれ、その場に落ちた。言わばエアバッグみたいな状態だ。
「礼は小型ライトで良いのじゃよ」
「城の権利返せってか?」
カドミのヤツ、根に持ってやがったか……。
城内には、と言っても壁も天井も崩れていて内外の区別はつかないが、敵兵は一人も残っておらず、視界も開けている。歩兵が近づくことは出来ないだろうが、唯一、飛び道具にだけは注意が必要だ。
レークヴェイムは背負っているランスを構えると、振り返ったままの敵ゴーレムに一撃を浴びせ戦闘不能に追い込む。後ろからの攻撃だが、今はそんな事にかまっていられる状況じゃない。卑怯だろうが何だろうが、倒せる時に倒す!
中央にいたゴーレムが突然戦闘不能になり倒れる。左右に展開していた他のゴーレムがそれぞれ攻撃を仕掛ようとするが……。その時すでにレークヴェイムの膝蹴りが右のゴーレムの頭を潰していた。突進から一体目を貫くと同時にランスを手放し、着地からの反動を利用して右に間合いを詰め、蹴りに繋げるという連続攻撃だった。
「反応、遅いわね」
セイラの嬉しそうな呟きが聞こえる。
レーククヴェイムの連続攻撃は、ルキフェル達からも見えていたらしい。
「なあ、ディーン。あれって……サベッジ・ペガサスと違うよな~?」
「違う……よな。似てるけど。というかこのちっこいセイラ姉さんはなんなん?」
「ちっこい言うな! 無礼者!!」
「すりつぶすぞ! 無礼者!!」
さすがにひと目で
「まあ、とりあえずゴーレムを片付けなきゃだな~」
「おう、俺達プリティ・プリンスの初舞台だぜ!」
「壊滅的にダサい名前だな! 有象!!」
「所詮そんなもんだろ! 無象!!」
「う~ん、この口の悪さ。間違いなくセイラ姉さんだわ」
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑩奥の手
是非ご覧ください
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