⑪【足元】
巨大な鉈のデーモンが吠える! 異形の声とでもいうべきその金切り声は、正常な者には恐怖を、眷属と化してしまった黒武器所有の兵士には鼓舞を、それぞれ与えていた。
「ぐ……くっ……っ」
「シルベスタさん、大丈夫ですの?」
「嬢ちゃん、離れ……てくれ……」
満身創痍のシルベスタはその場から動く事が出来ず、デーモンの咆哮に
「何とか出来ないっスか!?」
「カドミ、タクマ、頼む!」
「おう、まかせときや!」
「仕方ないのう、やはり最後はワシの力が必要なのじゃな!」
「いいからさっさとやって!」
「もう……ひぃじいちゃん扱いがひどいのうセイラちゃんは」
大丈夫だ。カドミが余裕を見せているのは、対処する自信があるという事の裏返し! ……だと思いたい。
「セイラ、パティ、レオン、デーモンの動きに集中だ。シルベスタは二人……じゃない一人と一石に任せておけ!」
「そこ、言い直さんでええんやで!」
――巨大な鉈のデーモンは襲い掛かってきた二体のゴーレムをものともせずに、叩き割り、踏みつぶし、破壊した。
戦慣れしていないイギリス転生者とは言え、操るゴーレムはそれ一体で歩兵小隊を相手に出来るだけの力はあるはず。それを事もなくあっさりと破壊する様は、鉈のゴーレムが“いかに突出した力を持っているか”という証明でもあった。
その足元には、破壊されたゴーレムと頭から真っ二つに割られたハーフデーモン、そして原形無く踏みつぶされたエヴァンジェル家の兵士であった肉塊が、大量の血と共に散乱していた。
「あれ? 山南・兄の姿が見えないっスね……」
「またコソコソ隠れているのではありませんの?」
「あ~、あいつはね……あのデカいデーモンの足元にいるよ」
「セイラ姉さん、居場所が見えているんスか?」
「見えている、というか……まあ、そうね」
レークヴェイムの目を通して見えているはずだが……何か言いたそうなセイラ。普段なら傍若無人。唯我独尊。周りの空気を無視して毒づきそうなものなのに。……かなり珍しいものを見ている気がする。
「歯切れ悪いぞ。何があったんだ?」
「……るの」
「お姉さまらしくありませんわね。一体なんですの?」
「あのバカでかいデーモンに……踏みつぶされてるの」
「……」
「……」
「……聞くんじゃなかったっス」
多くの人を犠牲にし、改造を重ねた奥の手の結果が……誰にも気づかれずにデーモンに踏まれて死んでいたとか。
「ついでに言えば、踏みつぶされたまま地面にへばりついて脳味噌も内蔵も潰れて千切れて、砕けた骨と混ざって見分けが付きにくいわね。腸なんて丸々飛び出ているし、デーモンの黒い血とまだらに混ざり合った赤い血が一面に……ああ、朝食はベーコンエッグだったみたいよ」
「すまんセイラ、やめてくれ。頼む。聞いた俺らが悪かった……」
流石に気分悪くなってきた。皆が皆、聞くんじゃなかったと後悔している様だ。それにしても、そこまで細かく脚色を加えて説明しないでもいいだろ。
「セイラ、おまえ……」
「なに? キョウちゃん」
「自分だけが見えてしまった悔しさを俺らにぶつけてないか?」
「何言ってるのよ~」
「そうっスよね、いくらセイラ姉さんでも……」
「そんなの当たり前じゃない!」
……そうでした。こういう女でした。
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑫G
俺らの切り札は……
是非ご覧ください
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