⑤【影響】


「お兄さま、その……武器を使うのは危険では……」


「ああ、大丈夫だ。俺自身の魔力で黒武器こいつはコントロールできる。安心しな、俺もレオンもデーモンにはならないよ」

 

 何というか……理由はないが確信はある。自分の魔力で完全に抑え込めている感覚がしっかりあった。


「ただ、正直シルベスタはわからん。魔力を持たない者にどれだけの影響が出るのか……」

「そう……ですよね。何とかしてあげたいのですが」

「嬢ちゃん、気を落とすんやない。何とかするで! ……キョウジとカドミがな」

「丸投げかよ……」



 山南・兄は先ほどからずっと自問自答していた。なぜ敬助がこんな子供に負けたのか? なぜ目の前の彼等は、戦いの最中に無駄話をしているのか? そして、なぜ圧倒的不利なのに余裕の顏をしているのか? 計算とロジックの上で生きてきた山南・兄には、全てにおいて理解不能であった。


「そろそろ、動いてくるじゃろな」

「なあ、カドミ。流石にめちゃくちゃ不利なんだけどさ。あれ、動かしてくれねぇ?」

「もとよりそのつもりじゃ」


 この城に入った時セイラは言っていた。『大丈夫、私がいれば動かないから』と。


 通路両脇に並んでいる槍を持った鎧。

 侵入者を感知すると襲い掛かる鎧。


 ――これを城の主、カドミの権限で解放する!


 金属同士がこすれ合う鈍い音と共に、頭のない鎧兵デュラハン達が動き出す。一歩、二歩と進み出ると、槍を構え、臨戦態勢になった。左右合わせて三十体は並んでいるだろうか。鎧兵デュラハンが一糸乱れずに動き、整然と並ぶ様は圧巻であった。


「あのさ、カドミよ……」

「なんじゃ?」

「こいつ等さ……俺にも槍向けている様に見えるのだが?」

「おう、当たり前さね。意思のない人形じゃぞ? 侵入者の区別なんてつくわけないわ。ちなみにワシの周りは安全じゃよ」

「何でそんなもん動かしてんだよ!」

「キョウジ……お前が動かしてくれと言ったんじゃろ?」


 マジか~。確かに言ったけど……うわ、マジか~。鎧兵デュラハンは無差別に近くにいる者に襲い掛かるとして……。パティやセイラはカドミの近くにいるから安全だ。そうすると鎧兵デュラハンに襲われる対象は敵軍隊全員と俺一人。 


「敵軍の中に斬り込み……乱戦になれば俺に攻撃してくる可能性はほぼなくなるって事だ」

「その分、敵に攻撃される可能性高くなるで~」

「考え無しに突っ込もうというのですの?」

「キョウちゃん、脳味噌溶けてんの?」

「……ほっとけ!」



 その時、入口のすぐ外で爆発音が起こった! ザワつく敵兵。敵軍の後方からの攻撃らしいが……。


「セイとイラが再起動した様じゃの」

「そんな機能ついていたのかよ……」

「うむ、地脈から魔力を補充出来るようにしてあるのじゃ」


 なるほど、この廃墟内の警備を任せるには申し分ない機能だな。それでいて性格がセイラ準拠なら鉄壁じゃないか……


「前門の虎、後門の狼ってやつだな!」


「キョウジの奴、自分を虎に例えおったで」

「どちらかと言うと野良猫じゃな」

「あら、ペガサスではありませんの?」


「やめて……全俺が泣きそうだわ」


 セイが撃ったのかイラが撃ったのかはわからないが、敵部隊の後方、城の入り口付近にミサイルが当たり、轟音とともに壁が崩れ始めた。柱が折れ、必然的に天井も落ちてくる。突然の破壊に近くにいた兵は逃げる間もなく瓦礫に押しつぶされる。鎧兵デュラハンも数体潰されたようだ。一度倒れ始めると連鎖するドミノの様に、壁も天井も崩れ落ちる。そして十数秒の後……キョウジ達の眼前には、廃墟と瓦礫と敵兵の後で暴れている凶女のコピーが太陽の光に照らし出されていた。


「ワシの城が……」

「気にするな。半分は俺のだ――」


 このタイミングを逃さずに敵兵に斬り込む。呼応するかのように鎧兵デュラハンも動き出した。 



 ――そこにいる、を駆逐するために。




次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑥可能性

その先に見えるものは……

是非ご覧ください

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