④【置き土産】
師匠の下で
『理論上は可能ってだけで、試す機会はありませんでした。タクマさんほどの魔力があれば可能かもしれないですけど』
以前エクエスが言っていた理論。言わばこの“置き土産”がヒントになって、
大量の魔力を一瞬だけ発生させるという使い方。今までのタクマでは、微弱な魔力しか放出出来なかったが、これも師匠の訓練のおかげだろう、ほんの一瞬とは言え百人分くらいの魔力を放出する事が出来る様になっていた。
仲間への瞬間的な魔力供給はもちろん可能だが、これにはもう一つの利用方法があった。
……タクマの“それ”は、その場における戦術を全て白紙にしてしまう程の可能性を秘めていた。
♢
「尻のとこ、穴開いとるで!」
これが攻勢に出る合図だった。レオンが、パトリシアが、瞬時に仕掛けられるように体制を整える。
「
タクマの合図とともに、レオンは飛び、山南の頭上から攻撃を仕掛ける。
単調な攻撃に、山南は完全に相手を甘く見ていた。この程度なのかと。レオンの拳が山南が立っていた床を割り、破片を飛び散らせる。半歩下がるだけで避けられる様な雑な攻撃だった。敵の方から目の前に、刀の間合いに飛び込んできた。『つまらん殺し方だ』と、攻撃に移ろうとしたその時……山南は身体が動かないのに気付く。
それは、レオンが山南の足元を叩き割った瞬間、タクマが大量の魔力を放出した為だった。
膨大な魔力は、山南が体中に巡らせていた魔力を一瞬止める。
これがエクエスが提唱していた理論だった。もちろん山南同様、魔力で身体能力の底上げをしているレオンの動きも止まる事になる。しかしそんな中、普通に動ける者がいた。
――パティだ。
もちろんパティも身体に魔力を流して身体能力を上げるスキルは習得している。だが今回、この一瞬の為に“最初から”身体に魔力を流していなかった。
パティはレオンの背中を踏み台にすると、山南の頭を両手で掴み顎に膝蹴りを叩きこんだ! 下顎の骨が砕け後ろにのけ反るが、パティは掴んでいる手を中心に山南の頭上で前方宙返りをすると、ひねりを加えた変則的な首投げに繋げ、石床に叩きつけた。
元々が柔術に長けていたパティだ、要点を押さえた強力な投げによって、受け身の取れない山南は全身を打ち痙攣していた。
「そのまま這いつくばっていなさいな!」
あっけにとられる偽外交官。目の前で何が起こったのかまったく理解できず、絶句するしかなかったのだろう。
「キョウジ、タクマ達は何をやったんじゃ?」
「じゃ、体育が苦手なカドミ君に解説しよう」
「いらぬ情報足すな!」
「ホースから出る細い水にバケツの水を一気にぶちまけると、一瞬流れが止まるだろ? タクマがやったのはそれだよ。山南が体中に巡らせていた微弱な魔力に大量の魔力をぶつけて流れを止めたんだ」
こんな作戦、普通は思いつかないだろう。魔法にも剣術にも
「常々体中に魔力を巡らせて動いている所に、突然魔力が止まったらどうなるか? って事だ。クセとでもいうか、むしろ依存しているのだろうな、魔力で補佐する事をさ」
「なるほど。意識では普段通り動いておるが、身体はついていかない。それで普段の動きが出来ず、防御にすら身体が動かなかった……ということじゃな」
「ああ、強者ゆえの弱点だ」
想像だが……山南の頭の中では、レオンを斬ってパティの蹴りを避けていたのだろう。まあ、実際は負けたと気付く事もなく倒されたのだが。今は夢の中で勝ち誇っているのかもな。
「強さの根本がそのまま弱点になってしまったのじゃな。しかしその理論でいけば、魔力で勝る事が出来ればどんな魔法も発動を封じる事が出来るって事にならんか?」
「それな。試してみたいんだけどさ……発動範囲はタクマ中心に半径二メートル程度なんだ」
「せますぎるのう……」
「だから魔法を封じたければ、呪文詠唱しているヤツに……」
「ああ、投げるしかないのじゃな」
「こらそこ、ワイを投げる相談やめや。呪われるで? いやむしろ呪われてまえ! ワイに呪われてまえ!」
しん……と静まり返っているエヴァンジェル・イギリス連合軍。
「まさか……敬助があんなガキ共にやられるなんて」
心底信じられないといった感じの山南・兄が呟いた。兄弟そろってレオン達を甘く見ていたという事なのだろう。
「……ガキじゃねぇよ。レオンもパティも、俺らの仲間で立派な戦士だ。見誤るな!」
「お兄さま……」
「二人ともよくやったな!……パティ、レオンを連れて下がっててくれ」
流石にレオンは休ませないとだ。黒武器出す時も、肩刺された時も、出血半端なかったからな。
「選手交代だ。セイラ、ひぃじいちゃんが前に出るから援護たのむ」
「キョウちゃん、実はその言い方結構気に入ってるでしょ……」
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑤影響
是非ご覧ください!
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