③【勝機】


「質問の意味が解らへんな。今それに応える必要があんのか?」


 山南は刀先をシルベスタに向け、かまわず質問を続ける。


「何故俺が奴みたいに魔道具アーティファクトで腕を直さないか判るか?」

「パティ、レオン、そいつの言葉に耳を貸すな!」


 ……あの野郎、何を仕掛けてくるつもりだ?


「兄貴、教えてやったらどうだ?」

「くくく……そうですねぇ。魔道具アーティファクトには意思があるのですよ。デーモンのね。やがてその意思は宿主の精神をのっとり、デーモンと化すのです! その瞬間がまた美しいのですよ。絶望と狂気に悶え苦しみ、生にすがりながら頭の中が食われるのです!」


「そんな……」

 絶句するパティ。しかしそれは仕方がない事だった。兄と慕う者、弟と可愛がる者、恩人と敬う者、全てがデーモンになると宣言されたのだから。 

 この場において真偽のほどは定かではない。それでも僅かな動揺が戦いへの集中を妨げ、敵に付け入る隙を与えてしまった。


 もちろんその隙を見逃す山南敬助ではない。間髪入れず踏みだし、パティめがけて突きを繰り出す! その剣先は寸分違わず、喉元を狙っていた。


「――そうはいかないっス!!」


 山南の刀がパティに到達する寸前、レオンが身を挺してその間に割り込んだ。鋭い突きは背中からレオンの左肩を貫き、パティの目の前で止まった。


ぅ……い、痛くないっス!!」

「ほう、兄弟そろって同じ事をするのですか。ならば、同じ死に方をしな!」

 山南はそのまま刀を斬り下ろそうとするが、レオンは咄嗟に右手で刃先を掴み、止める。 


 ――両手で切り下ろす山南。 

 ――片手で食い止めるレオン。

 当然の事ではあるが、両手で力を入れている山南に軍配が上がる。


 刀身が、少しずつ下がり始めた。レオンの顏が苦痛に歪むのが見える。咄嗟にパティは、刀の切っ先を素手で掴んだ。とにかく止めたいという一心で。


「ほう? お嬢、手が使い物にならなくなりますよ?」

「かまいませんわ! 目の前で仲間に死なれる事ほど、迷惑で厄介で悲しい事はありませんから!」


「パトリシアさん……やめて下さいっス……」

 鮮血がパティの腕を伝い流れる。一番守りたい者に守られ、その上自分の為に傷を負わせてしまった。その現実は、嫌でも自身の力不足を痛感させられる事となり、その悔しさはレオンを覚醒へと導いた。


「……情けねぇっス」

 レオンはパトリシアの目を見た。 



 ――攻撃のアイコンタクト!


 レオンの右手からいかづちが発生する直前、パティは刀から手を離し、姿勢を低くして前に踏み込んだ。刀に電気を流し山南を痺れさせ、そこにパティが攻撃を仕掛けるタイミングであったが……


「……読まれていたんスか?」


 すでに山南は刀から手を離し、飛び退く事で攻撃の間合いを外していた。


「読む必要なんざねぇ。遅いんだよ、お前らは。あの兄ちゃんの方がずっと速かったぜ?」


 肩に刺さった刀を右手で潰し砕きながら無言で睨み返すレオン。“ガチャッ”と重い音を立てて刀の柄が床に落ちる。

 左肩から流れ出した血は、すでに半身が真っ赤になるほどだった。かなりの出血量だ。当然、激しい痛みも感じているだろう。


「レオン、と言ったか。お前も身体に魔力を流す方法を知っているようだがまだまだ甘い。使い方がなってねえ!」

「それでも、アンタには負けないっスよ!」

「はぁ? やってみろよ!」


 ますます凶悪な目つきになる山南……すでに猛獣の“それ”と同じだった。



「おい、レオン」

「なんスか、お師匠さん」


「お前……尻のとこ、穴開いとるで!」

「マジっスか! 見る余裕ないっスよ……え~、マジで……」

「ホント、どうしようもない弟ですわ……」

「パトリシアさんまで……」



「……おい、そろそろお前ら殺していいか?」

 呆れ口調で山南が口を開く。口調とは裏腹にかなり頭に血が上っている様だった。 脇差に手をかけ、左足を引き、すぐにでも斬りかかれる体勢になっている。


「それは無理ですわね!」

「そうっスよ、自分とパトリシアさんのコンビは最強っスから! 愛の力っスよ!」

「そこは否定しますわ!」

「え~……マジっスか……え~……」



 一呼吸の沈黙。


 動いたのはレオンの方が僅かに早かった。つま先に魔力を集中し、床とのグリップを強め、踏み出す。足首、膝、そして全身へと、流れる様に身体の動きに合わせて各関節に“一瞬だけ”魔力を集中し、身体能力を高める。

 常人にはまず追いつくことが出来ない瞬発力とスピードだが、山南は更にその上を行っていた。


「遅いと言っている!」

「それが、どうしたんスか!」

 レオンは、右手の中に握ったままの刀の破片を山南に投げつける。破片とは言え鋭い刃物である以上、もし目にでも当たれば失明は免れない。


 山南はかわすと同時に、レオンの首を狙って脇差を横にぐ!


 当然レオンもその動きは読んでいた。刀の破片を投げた直後、右手の黒武器から雷を放出し、破片との間に電流を発生させていた。いわば電流の網だ。しかし一瞬の判断で攻撃を止め、雷の合間を見切って避ける山南。


勝機ここや!!」

 そう、ここがレオン達にとっての勝機だった。


 間合いを詰める様に飛び上がり、山南の頭上から拳を打ち下ろすレオン。しかし、そんな奇襲にも余裕を持って難なくかわす百戦錬磨の侍。眼前の足元に拳が打ち下ろされ、床が砕ける。ここでカウンター攻撃を仕掛けた。そのまま右手の脇差を払うだけで、目の前のガキの首は落ちる。 


 しかし、勝利を確信したその時……



 山南は、二人の足元に倒れていた。





次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ④置き土産

やっと出番が来る!……かも?(キョウジ談)

是非ご覧ください!

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