②【死闘】

「あの腕は、自動人形オートマトンに近い技術なんやろな」


「わかりますか、この素晴らしさ!」

 またもやしゃしゃり出る偽外交官。よほど自慢したいのだろう。 


「肩から下、二十四か所の各可動部には魔力石を仕込んでありましてね。敬助の魔力に反応して可動する優れもの。今迄と同じ様に、いやそれ以上に素早く動けるのですよ!」


 なんだろな……嬉々として話す様が非常に哀れに見える。自身では何ひとつ“成しえて”いないのに。この男は承認欲求の塊なのだろう。


「本来なら魔道具アーティファクトの腕を付けたかったのですがね」

「兄貴うるせえ! あんな気持ち悪いもんつけられるか!」


 ……うっさいわい。こっちはその気持ち悪いもんが手の中に入ってんだ。


「こいつら……兄弟やったんか」

「顏が似ていないのは整形? それとも性格と一緒に顏まで歪んだのかしら?」

「お姉さま、相変わらず毒舌ですわね!」

「ま、顏は似てなくてもあの狂った目はそっくりだ」


 性格の悪さもだな。兄が色々画策して、弟が手を下してきた。そんなとこだろう。しかしこの二人が転生者なら、デーモンになっていてもおかしくないと思うのだが……?


「いつまでグダグダ語ってやがる。さっさと剣構えろよ、その黒い剣は飾りか?」

 山南は俺に向き直ると、鈍く光る日本刀を正眼に構えた。今迄に一回も戦った事はないが、強敵なのはよくわかっている。 


「……やらねぇよ。お前とは戦わん!」

「はぁ? この期に及んで怖気づくとはな……」

「お前を倒すのは俺の役目じゃねぇ」


 レオンが前に進み出る。すぐに腰を落として両手を顔の高さで構え、奇襲に備えた。これは俗にいう“猫の構え”だった。上段からの攻撃を意識した構え。自分より背の高い相手に対しては特に有効だ。中段の防御が薄くなるがそもそも背の高い相手の攻撃が中段より下に来るケースは少ない。


「キョウジ兄さん、感謝するっス!」

「本気ですの? レオン……」

「パトリシアさん、止めないでください!」


「ガキが……舐められたものだな。……ククッ、お嬢、あなたも一緒に二人でどうですか?」

「あら、余裕を見せているつもりです? でも折角ですから、お言葉に甘えさせていただきますわ。後悔なさらぬように!」


 これはラッキーだ。レオンには申し訳ないが、一人では荷が重いと思っていた。もしどうしようもない危機に直面したら、ルールなんぞ無視して俺が突っ込むつもりでいたくらいだ。


「パティ、タクマを持っていてくれ。この戦い、三人の……じゃない二人と一石の連携がカギになる」

「そこ、一石とか言い直さんでええんやで!」


「セイラ、タクマはあれで闘えるのか?」

 カドミの疑問は当然の事だろうな。でもそれは今迄の“彼等”を見てきていないからだ。 


「ええ、紛れもなく“キーマン”よ! あの三人……じゃなくて二人と一石なら大丈夫」

「そこも! 言い直さんでええって!」


「ああ、それから……」 

 俺は正面にいる“敵”全員を見渡しながら、牽制の為に左手の黒武器を軽く振った。剣身から放たれた衝撃波が城の内壁を破壊し、派手な音を立てて崩れる。


「レオン達の勝負に手を出す奴がいたら、俺が相手するからそのつもりでいろよ」


「あぁ? お前の手は借りねえ。そんな奴はオレが斬る……てめぇら、一切手を出すんじゃねぇぞ!」

 振り返りながら後ろの軍勢に凄みを効かせる山南。味方も彼の狂気はよくわかっているのだろう。一言も発する事がなく、山南・兄ですら硬直している。


 この言動は“正々堂々”闘う。と言った意味のものではないと断言できる。目の前の獲物を自分だけで嬲り殺したい。という事だろう。



「さ、やるで、レオン。パトリシア。気を抜くなよ!」


「師匠よろしくお願いしますわ」

「お師匠、頼りにしてるっス!」



「ふう……さっさと斬らせろよ」

 その一言が終わるよりも早く、パティに斬りかかる山南。しかし、レオンもパティも相手のやり方は熟知していた。左に回り込むレオン。同時にパティはバックステップで刀の間合いを外す。


 山南は右腕の刀をレオンに向け、パティを正面に捉える。


 間髪入れずにレオンは攻撃の為に踏み出した! 山南はパティから視線を外さず、視界の端にレオンをとらえたまま刀を横に構える。 

 ――しかし、レオンの踏み込みはフェイントだった。


 一瞬意識がレオンに向いたそのスキに、パティが無詠唱魔法を放つ。無詠唱故、攻撃力と言う点ではほぼ役に立たない魔法だが、その指から放たれた小さい火の玉が山南の顔をめがけ飛ぶ。


「なんのつもりですかな?」


 これもフェイントと見た山南は、余裕を見せながら火の玉の軌道から自身を外し、レオンに再び注意を向ける。


 ――その瞬間、山南の視界が遮られた!


 パティの放った火の玉に、レオンは小さな水の玉を当てていた。もちろんこれも無詠唱魔法だ。瞬時に蒸発した水は山南の視界を奪い、そこにスキが生じる。



 山南の足元に向けて、レオンが拳を撃ち込む! もちろん、黒武器を纏った右拳だ。床は砕け、同時に発生した電撃が一瞬だけ右足の自由を奪う。そのチャンスをパティは見逃さなかった。砕けて飛び散る床石を魔術で操作し、山南の右膝に集中砲火を浴びせる。これには、流石の山南も無傷という訳にはいかなかった様だ。


小癪こしゃくな……」

「あら、余裕ぶっこいているからですわよ!」

「パトリシアさん、お下品っスよ!」

「大丈夫や、山南そいつの性格よりはお上品ザマスやで!」



 自身の周りに神経を張り巡らせながら山南が口を開く。怒りに我を忘れるかと思いきや、口調は冷静そのものだった。


「お前らにひとつ質問だ」

「なんや、こんな時に」



「……何故俺が軍隊やつらみたいに魔道具アーティファクトの武器を使わないか判るか?」





次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ③勝機

この勝負は、一瞬でつく……

是非ご覧ください!

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