㉒【相変わらず……】


「おう、カドミ! 久々だな~元気してたか―?」

 扉を開け、久々に旧友が会いに来てやったZE~! みたいなノリで声をかけたのだが……。


 そこには広い空間があって……いや、広い空間”しか”なかった。


 部屋自体はボロボロだが、王室が使ってただけあってキメ細やかな装飾が施されていた跡がある。壁には一定間隔で燭台が取り付けられていて、そこには灯りが燈っていた。火精霊によるものだ。それはつまり、この城には”魔法を扱える者がいる”という事になる。

 光源があるとは言え、部屋の奥や天井は光が届かずに陰になっている。かと言って、何かが潜んでいるといった気配はない。太陽が直絶差し込まないせいか、ジメジメした空気を肌に感じる。それでも風の精霊等の力もあるのだろう、カビ臭いとかいった事はなかった。


「んで……どこにおるんや?」

「正面にいるわ」


 真っすぐに奥を見据えながらセイラは前に出る。足元も薄暗い為、大人しく後ろをついていくが……


「なんか、気味の悪い部屋ですわね……」

「ゴキブリとかいそうっスね」


 ゴンッ……


 ……脳天に打ち下ろされるパティの鉄拳。まあ、自業自得だ。女性にGの話はタブーに近いものがあるからな。


「痛いっス……」



 部屋に入った時は薄暗くて良く解らなかったが、部屋の最奥は数段高くなっており、まさしく王が座る為の椅子が一つあった。しかしこれも経年によりボロボロで、使われている形跡はない。その椅子の左右それぞれに……人がいる。

 栗毛で細身、整った顔立ち。”颯爽”という表現が似つかわしい少女……いや、幼女が二人、同じ顔をしていた。


「なんや? 双子かいな」

「いや……。もうちょっと良く見て見ろ」

「え? お兄さま、あの二人の顔って……」


 くだんの幼女が口を開く。

「そこの有象無象ども、何をグダグダ言っている!」

「ちんたらやっていると、すりつぶすわよ!」


「な、なんスかいったい……」


 そう、そこにいた双子と思われた二人は……。セイラの幼女版だった。容姿も声も……性格も。


「おい、セイラお前……妹居たのか」

「いないわよ。一人っ子だし」

「ですがお姉さま、あの二人はいったい……」

「なるほどな、そういうことやったんか!」


 タクマが何か気がついたようだが……悪い予感しかしないぞ。

 

「セイラママ言うたりしてな~!」

「タっくん……」


 薄暗い部屋なのに、セイラのドス黒いオーラが見えた気がした。流石にヤバいと思ったのか、パティが慌てて後ろ手に隠す。

 それにしても、これはまったく想定していない事態だ。セイラがいて、セイラ幼女が二人いて……あれ?


「カドミはどないしたんや?」

「まさかそこのセイラ幼女がカドミという事は……?」


 二人のセイラ幼女は得意気に斜に構え、俺達を見据えて言い放つ。

「ふっ、よくわかったな、有象ども!」

「いつまで待たせれば気がすむのだ。無像ども!」


 セイラがカドミで、カドミが幼女で、幼女が双子で、双子がセイラで……なんかもう、情報量多すぎて処理しきれんぞ。


「マジかよ。幼女に転生、それも双子とか」 

「変態、ここに極まれり! ってとこやな」


〔……変態変態言い過ぎじゃよ、おぬしら。セイ、イラ、お前たちもいい加減にしとくのじゃよ!〕


 その声の主は、カドミに間違いなかった。そしてそれは、誰もいないボロボロの玉座から聞こえてきた。


「カドミさんって、お年寄りですの?」

「いや、奴は昔からあんなしゃべり方やで」

「多分ふざけて言っていたのがクセになったんだろうな」

「なるほど、変態さんっスね!」

「つか、カドミどこにおるんや?」


 とりあえず目の前の幼女二人がカドミではなくてほっとした。ほっとはしたが、なんかもう精神的疲労が半端ない。今日はここまでにして続きはまた明日~とかにしたいくらいだ。


「おい、有象無象ども!」

「頭が高いぞ、ひれふせ!」


 このミニセイラズが妙にムカつくのだが……。名前がセイとイラ? これもふざけている。


「大人に対する口のきき方には気を付けましょうね~。あまり生意気な頃言うと、お尻ぺんぺんですよ~」

「キサマ、それはセクハラなるぞ!」

「指一本でも触れてみろ。児童虐待で訴えるぞ!」


 クッソ生意気なガキだな~。子供は好きだがこいつ等はダメだ。なんかもう、セイラと話しているようなものだが、子供相手な分、言葉を選ばなければならないのが面倒だ。


〔さて、そろそろ話をすすめたいのじゃが?〕


「とりあえず姿見せろよ」

「そうですわね。いくらお兄さまの旧知とは言え、失礼ではありません事?」


〔そうか、ならば仕方がない。まずは力を見せてもらおうか!〕


 ベタな展開とでも言うべきか。ラノベ好きだったカドミの言いそうな事ではある。


(なんかありがちな展開すぎやしないか?)

(あの子達と闘えって事っスかね?)

(お兄さま、師匠、友人は選ばないといけませんわ)

(あれは間違いなく変なもん食うてるで!)


 言いたい放題だ。ま、戦えばカドミが姿を見せるというのなら、いくらでも戦う用意はあるけど……。

 

〔うぬら、聞こえてるっつーの!〕


「はいはい……で、何をしろと?」


〔そこにいるセイとイラを倒してみせろ!〕


「やっぱりその展開なんやな~」


 しかしここで、しばらくダンマリであったセイラが口を開く。

「それは止めといたほうがいいよ。今のキョウちゃんには私でも勝てないから」


〔……マジで?〕


「マジで。キョウちゃんどころか、戦闘力だけならレオンの方が更に上よ」


〔そか……んじゃ、ま、いっか〕


 いいのかよ……相変わらずだな。だが、セイラからは”そこそこ”相変わらずではない言葉が飛び出た。


「とりあえず先に話しておくと、セイとイラは、私の妹でも娘でもなく……」



「……自動人形オートマトンだから」




次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉓八十年……

で? ミサイルとかビームとか出るのか?

是非ご覧ください!

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