㉑【廃墟の城】
道中は特に、まあ……レオンがパティのロッカースタイルに鼻の下を伸ばしていた事以外は問題はなく、六日目の午前中には廃墟に到着した。
二石のタクマも一石にまとめた。流石にうるさすぎてかなわん。……接着剤がマストアイテム化している冒険者パーティーってのも珍しい。
この廃墟はもともとローカルズ王家の領地でかなり栄えていたらしい。しかし八十年程前に紛争があり、街ごと王家が壊滅してしまったと聞いている。
その後はまったく生産性のない土地柄の為、どこの国も所有しようとせずに完全に捨てられ、忘れ去れ、荒れた街となってしまった。そのため樹木は好き放題に伸びて半街半森となり、どこからともなく引き寄せられて来たモンスターが街中に
――結果として、城までの道は侵入者から護られる形になる。
「それにしてもこれは……」
「うむ、趣味が悪いというか……。アイツらしくあらへんな」
「なにかおかしな点がありますの?」
パティとレオンはカドミを全く知らないから判らないだろうけれど、俺が勘で物を作るのに対し、アイツはしっかり図面を引いてから作るタイプだった。意外と几帳面。だからここまで荒れ放題で手付かずな状態に、俺とタクマには違和感を覚えた。
「もうちょっとこう、なんというか……物事を整然と並べて置くタイプだったんだよな。変態だけど」
「だから、この荒れ果てた状態を良しとしているのがどうも解せないんや。変態やけど」
「変態なのは変わらないんスか!」
カドミの心境に何かあったのだろうか? もしくはアイツ自身に何かがあって、何も出来ない状態という事なのだろうか?
「お兄さま、師匠、ちょっとお伺いしたい事が」
「ん? なんや?」
「カドミさんって……本名ですの?」
パティの疑問はもっともだ。普通に変な名前だもんな。
「流石にそれはない。それ本名だったら変態だぞ。そうでなくても変態だが」
「アイツは
呼ばれてたとか言いながら、最初にそのあだ名をつけたのはタクマじゃないか。
「まあ、私も最近までそんなあだ名があったなんて知らなかったしね」
「意外だな。セイラ知らなかったのか」
「普通知らないわよ、ひい……」
「ひい?」
「……何でもないから気にしないで!」
セイラが失言するなんて珍しいが、それよりも何を言いかけたかの方が気になる。それはオレだけでなく皆も同じだった。
「気になりますわね。お姉さま、何をお隠しですの?」
「そやな~。セイラ謎多すぎや」
「セイラ姉さん、白状するっスよ!」
「はいはい。入口見えてきたわよ」
「うわ、堂々と誤魔化しやがった……」
セイラの案内で廃墟を進んで来たが、その間モンスターに襲われる事はなかった。もちろんここにモンスターがいない訳ではない。しっかりと、そこら中に気配がある。俺達を避けているのか、襲われないルートがあるのか、もしくは手懐けているのか。いずれにしろ廃墟城の主であるカドミの力が及んでいるのだろう。
俺もタクマも、カドミがこんな廃墟に住んでいる事に疑問を持ったが、城に一歩踏み入った所で合点がいった。ここは多分、世界中の地脈が集まる結集点。とんでもなく良質な魔力が地下から噴き出している。
廃墟となった後は城に結界を張って、他の転生者に気付かれないようにしていたのだろう。崩れた街やモンスターも目くらまし的な効果があったのかもしれない。
「元々はローカルズの街なんスよね? こんな凄い場所を廃墟のままにするなんて……」
「魔力が噴き出していてもローカルズには感知出来ないし、そもそも何の恩恵もないからな。放棄した頃はまだ転生者も少なくて、ここが金脈だなんて思わなかったんだろう」
今ならこの廃墟を整備して、“魔力の吹き出る転生者の街”として売り出せば三代先くらいまで遊んで暮らせそうだ。
廃墟城の中は極々一般的なつくりで、広い通路が奥まで続いており、両脇には槍を持った頭部のない鎧が並んでいる。
「多分これって……?」
「ええ、侵入者を感知すると襲ってくるわ」
「やはりか~」
とりあえず武器を構えようと、剣柄に手を伸ばしたところでセイラに止められる。
「大丈夫、私がいれば動かないから」
「セイラ、お前ホントに何者や?」
「さあ? なんでしょ~」
それにしても、城内ですら手入れが全くされていない。荒れるままにしている感じだ……。
「なあ、セイラ、以前カドミについて『今はしゃべれない』って言っていたけど、それとこの荒れ放題は何か関係あるのか?」
「あると言えばあるかな。その辺りはすぐにわかるよ……」
セイラの足が止まる。元々は鮮やかな朱色だったのだろう、金の装飾も殆ど剥げ落ち、今や見る影もないボロボロの大扉がそこにあった。
「この先に、いるから……」
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉒相変わらず……
運命が、動き出す! ……のか?
是非ご覧ください!
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