⑳【形見】
「
突然師匠から口から出てきた宣言。だけど誰一人として驚くことはなかった。正直言うと、皆がそうなってほしいと思っていたからだ。エマを引き取る事で、師匠の心の傷も少しは埋まってくれると俺としても嬉しい。
ここに着いたばかりの頃は『ママ~パパ~』と泣きじゃくっていたが、疲れて寝てしまったあとは師匠が少しずつ気持ちをやわらげ、やっと普通の女の子に戻った感じだ。流石唯一の子育て経験者。セイラやパティも常に話し相手になっていて、姉としての存在も大きかった。
もちろん両親の死はまだ秘密だ。仕事で長期間旅に出た事にしてある。成人して、自分で判断がつくようになったら真実を話すつもりらしい。その時は出来るだけ俺達も立ち会おうと思う。
各々が反省したり後悔したり……そして新たに決意したり。そして、いろんな人の想いを抱えたまま一週間が過ぎ、ロックリーフを発つ日が来た。
「この剣はアンタが持ってお行き!」
と、師匠からエクエスの形見の剣を手渡された。剣の腕なんてないのに等しいのに。なんか、物凄く重い。だけどこれは引き継がなきゃならない。そう感じた。
「お借りします。これは……必ず、返しに来ます」
カドミは、ここから馬車で五日程北上した廃墟の城にいるらしい。放棄されてからすでに数十年がたった街。木造家屋は朽ち、レンガの壁は崩れ、石畳は割れていて馬車が通る事すら出来ない。今はモンスターが徘徊する場所として、近づく者はほぼいなくなっていた。
なんでまたそんな廃墟に? とは思ったが、カドミのヤツが理由もなしにそんな場所に居を構える訳もないだろう。
幸いな事に、セイラは今まで通り動けるくらいには回復していた。廊下に落ちていた手錠を分解して判ったのだが、やはり薬剤が使われていて、それが体調不良の原因であることは間違いなかった。その薬剤は皮膚から浸透させるタイプのもので持続性が無く、その為回復が早かったと思われる。
斬られた背中は完治しておらずまだ時折痛むみたいだが、それでも戦力復帰はかなり心強い。
レオンとパトリシアは師匠の元に置いていきたかったのだが、予想通りの反応が二人から返って来た。
「冗談じゃありませんわ。絶っっっ対にいきますの!」
「当たり前っス。キョウジ兄さんズルいっス!」
と、まあ、こんな調子でまったく引かない。何がズルいのかわからないけど。もっとも二人を残して行ったら、師匠の家があの男の標的になりかねない。そう考えたら俺やセイラといた方がどちらも安全だろうと思えた。
「キョウジ、お嬢さん、……みんな、ありがとうね。エクエスも……楽しかったんだと思うよ」
別れ際に光った師匠の目元。誰もが皆、気が付かないフリをしていた。
「エマちゃん、すぐに帰ってくるからね」
「いい子にしているのですよ!」
「セイラママの言いつけは守らなあかんで!」
「わかった! ベルノちゃんと待っているから、早く帰って来てね。」
移動方法はバイク二台と馬車一台という、何ともちぐはぐな状態になってしまった。タクマはそれぞれレオンとパティに預かってもらった。最初はセイラに預かってもらおうと思ったのだが、全力で拒否された。どうやら『セイラママ』発言が響いているらしい。
「セイラいけずや……」
バイクには俺とパティがそれぞれ。馬車にはセイラとレオン。ちなみにセイラはわずか三日間で
そして、気分を一新する意味もあっての事なのだろう。セイラとパティはそれぞれ服を着替えていた。
パトリシアは今迄着ていたヒラヒラのドレスから、黒革の鋲付きライダースジャケットと膝丈の黒革パンツに。これは動きやすさを重視した様だ。肩まで無造作に伸びた髪の毛を師匠に切りそろえてもらい、凛とした顔つきが一層ハッキリと見える様になった。
……もっとも、少し前までは少女の”それ”であった為、これが良い事かどうかは判断出来ないが。
セイラに至っては義理立ての意味もあったのかもしれない。ギャラプリが着ていた派手派手の白衣装を旅着にしている。白いタキシード調の上着には金のエングレービング。所々赤いラインがアクセントで入っている。上着にデザインを合わせた白のパンツは、本来の彼らの衣装よりもタイトに作ってあり、腰から脚のラインがしっかり出る様になっていた。
二人とも何というか……
「何で真っ黒と真っ白なんだよ……」
「お兄さま何か言いました?」
「い、いや、何も……」
「怪しいわね……」
「怪しいですね……」
二人してジト目で見てくるのやめて下さい……。
村を出てしばらく進むと荒れた石畳の街道に出た。この先に用事がある人はまずいない為、整備されずに放置状態だ。それでも未舗装のガタガタ道よりは多少はましだと思えた。セイラ曰く、あとはこの街道を道なりに進めば良い。とのことだ。
ちなみに、日本からの追手は無い。これはルキフェルとディーンに偽情報を流してもらった効果だと思う。『石を持った一行はアメリカに向かった』単純な偽計故、ひっかかりやすい。特にパティはアメリカに保護してもらった周知の事実があるので、この流言には説得力があった。
その為警戒する必要があるのは、比較的近場のイギリスと首謀者の可能性があるエヴァンジェル家だ。
周囲警戒の為に夜間は交代で寝るのだが、俺かレオンのどちらかは交代で起きておき、すぐに動けるようにしておく。
「デーモンが出たら、即武器をだせよ!」
と、レオンには言ったが……これは俺の場合も同様だ。
……どうか出ません様に。
……俺の時に、出ません様に~。
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉑廃墟の城
運命が、動き出す! ……のか?
是非ご覧ください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます