⑱【通すべきスジ】
「キョウジ、覚悟して入れよ」
「ああ、わかってるって……」
訃報を受けてから夜通しバイクを走らせ、まだ夜が明けていないうちに街に入った。もちろん門は閉まっていたが……
今、セイラ達の滞在している宿屋の前にいる。当然の事ながら警官隊が一般人の出入りを制限していた。俺はというと「滞在している者達の親戚」という事で中にいるセイラ達に確認を取ってっている所だ。そして警官が二人、常に監視についている。
それにしても……酒場は死屍累々。床も壁も血が飛び散っており赤黒く染まっていた。青ざめた警官が酒場の奥に向かう。建物の裏手では警官の何人かが具合悪くなって吐いているようだった。むしろこの惨状を見て平然としている俺をみて、警官隊は少なからず疑いの目を向けてきている。
「セイラ、パティ、大丈夫か?」
俺もかなり慌ててたと思う。部屋の扉を開けると同時にかなり大声を出していたようだ。
「静かに……」
セイラが口に人差し指を当てながら落ち着いた声で
「パティも今寝かしたわ」
「パティ……も?」
見ると、パティと小さい女の子が一緒に寝息を立てていた。
「一人増えてる……」
「ここの宿屋の子供なんだけど、下があの現状だから、ね」
「そういう事か。それで?」
「まあ、キョウちゃんの予想通りよ」
だよな。こんな小さな子が天涯孤独になってしまったら、うちの女性陣が放っておけるわけがない。
「わかった。俺達で里親を探そう」
「話が早くて助かるよ。あと……隣の部屋だから」
監視の警官に許可を取り、隣の部屋に入ったが……。わかっていたハズだが、現実を目の当たりにしたら体中の力が一気に抜けてしまった。
「なんで笑っているんだよ……」
微かに笑っているエクエスの死に顔を見た時、怒りとも悲しみともわからない感情が溢れかえっていた。
「護衛に雇ったと聞いていますが、お知り合いですか?」
職務優先なのは仕方ないが、下らない質問に対しては正直うんざりだ。
「弟みたいなものです。隣村の出身なので、連れて行ってやっていいですか?」
まあ、ダメだと言われるのはわかっている。わかっているけど……
「それは無理ですね。まだ素性がわから……」
その場に倒れ込む二人の警官。もちろん俺が
「しかしこれで俺は……」
「死体遺棄・女児誘拐・公務執行妨害・殺人共謀罪疑い。ってとこかしら」
……ご丁寧に罪状を並べてくれるセイラ。
「ところで街にはどうやって入ったの?」
「
「不法侵入罪も追加だね」
「もう口だけは本調子だな」
社会的に犯罪者になるとしても、通さなければならないスジがある。それも大きな話じゃない。自分の身の回りの人に対しての小さなもの。だから見ず知らずの人から見て犯罪者になろうとも、優先すべきはエクエスの帰郷だ。せめて故郷で、母親の近くに埋めてやりたい。
もちろんそんなことは俺達が勝手に考えている事で、故人からしたら不本意かもしれない。それでも”生き残った者”が生きていくために必要なけじめなんだ。
街の外に出る頃には陽が昇り始めていた。馬車の速度でも昼過ぎにはロックリーフに着く。
セイラとパティにしても、女の子に両親の事をどう伝えるか頭を悩ませている事だろう。
……こんなに憂鬱な旅路は初めてだった。
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑲決意
残された者に我慢を強いるのは、偽善でしかないんだ。
是非ご覧ください!
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