⑨【帰郷】
「ここっス。自分の故郷、ロックリーフっス!」
「お~、ええ所やないか。自然が多くてのんびりしてて」
久々に心が洗われる風景とでもいうのだろうか。一面に広がる草原の中にポツンとある集落、そしてそこへと続く粗末な石畳。風には草花の青い香りがまじり、素朴な田舎町を感じさせる。
「少し先に川もあるっス!」
「お、今日は久々に川キャンプするかな~」
「何言っているんスか。うちに部屋ありまスから!」
「あ~いや、そういうの緊張するんだ。だから気にしないでくれ。適当にぶらぶらしてるわ」
……本音は、親子水入らずにさせてやりたいんだよな。折角の帰郷なんだから。
「あまりぶらぶらしてると不審者通報されるで」
「タクマ、おまえが黙っていれば俺は不審者にならないのだが……」
「それは無理やで~。ワイの口を塞げるのは美女のKissだけや。いくら美女ゆうても幼女はアカンで。ワイの守備範囲は女子大生以上や!」
「そう言うとこだぞ、タクマ」
少し人通りの多い露天街に差し掛かった辺りから、ぽつぽつとレオンに声をかける村人が増えてきた。
「お? レオンじゃないか!」
「おっちゃん久しぶりっス!」
「あら、レオンちゃん。帰ってきたの?」
「ちょっと寄り道っス!」
「おー、レオン。兄貴は一緒じゃないんか?」
「あとから来るっスよ!」
レオンは結構人気あるみたいだ。
「キョウジ兄さん、家に着いたっス!」
「ほう……」
「ええなぁ」
素朴な木造の二階建て家屋だ。パステルグリーンに塗られた壁は、経年で所々剥がれてはいる。それでも整然とした清潔感があり、毎日しっかりと綺麗にしているのがうかがえる。……これは母親の性格なのだろうな。
広くはないが庭もあって、そこには子供用の古いブランコがあった。きっとエクエスさんやレオンが幼少の頃遊んだのだろう。小さい家だがこざっぱりしていて、印象はかなり良かった。
「母ちゃん、ただいまっス!」
元気な声で、勢いよく家のドアを開けるレオン。
「……あれ? 誰もいないっス」
「どこか出かけているんじゃないのか?」
「かもしれないスけど……」
不安気な目でこちらを見てくるレオン。まあ、このところ色々あったからな。普段と違う事があるとついつい悪い方へ考えてしまいがちになるのは仕方ないかもしれないが……
その時、ドアの影からレオンに向けて蹴りが繰り出された! 咄嗟に右膝と右腕でガードするレオン。そのまま後ろに飛びのこうとするが、蹴りをガードして一瞬硬直した腕を捕まれ、中に引きずり込まれる。相手の方が身長は高い様だ。その場に留まれずに、完全に力負けしていた。
――まずい。これは何が起こっているんだ? 敵の姿が見えねぇ。
「レ――」
「母ちゃん、降参っス!」
オ……ん。
「まだまだ甘い。スキが大きすぎですよ、レオン!」
……母ちゃんでしたか。
見た感じは三十代後半と言った所だろうか。髪は短めで赤茶色。この辺りでは極々一般的なスモックに細身のジーンズ。身体は全体的に引き締まっていて、先ほどの蹴りを見るに、多分格闘技系を得意とした冒険者だったのだろう。今でも冒険に出られるんじゃないか? ってくらい気力が充実している感じだ。
「そこの兄さん。あんた、キョウジさんだろ?」
「え、ええ……」
「さあ、中に入って入って。エクエスの手紙に何度も書いてあるからすぐにわかったよ」
マジか~。このタイプの人って何か苦手なんだよな。引っ張られるというか、自分のペースを保てないというか……
……いや、考えてみたら俺の周りは、最近そんな女性ばかりだな。
「で、タクマちゃんってのはどこだい?」
「誰や? ワイを”ちゃん付け”する愚か者は!」
「ああ、この子なんだね~。かわいいじゃないか!」
「お? わかっとるやないか姉ちゃん!」
「あら、姉ちゃんなんて、嬉しい事言うじゃない!」
そう言いながら”俺の”背中をバンバン叩くレオン母。……なんなんだこの空気は。中身、大阪のおばちゃんじゃないか!
「レベッカ・ルミエルよ。“美しいお姉さん”と呼んでくれていいから」
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑩心得
母との再会。
是非ご覧ください!
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