⑧【悔恨:セイラ】

 キョウちゃんが色々やらかすのは今に始まった事じゃないけど、それでも今回ばかりはやり過ぎね。レオンまで巻き込んでいるし。まあ、そうは言っても“その座標”に行く様に言ったのは私だから、ちょっとだけ責任感じているけど……。ちょっとだけね。

 でも、とりあえずは二人が無事でよかった。この先カドミに逢わせるまで危険は回避していかないとなんだけど、自由にならない身体で何が出来るのか……。


「ほんと、この手錠が恨めしいなんてもんじゃないわね……」


 会話位なら普通に出来るけど、それでも常に頭の中がぼやけている感じ。自分の身体の事は自分が一番よくわかる。多分、このままだと長くない。手錠こんなものに拘束されて、じわじわと殺されるなんて思いもよらなかったわ。

 だから、生きている間に強引にでも逢わせさせる。私は生き返れないのだから……。

 かと言って、生きる事を諦めた訳じゃない。そんな事したら、パティどころかキョウちゃんやレオンにまで怒られるだろうね。とにかく、雲を掴むような話でもいい。生き抜くための手段を見つけなきゃ。



「タッ君、その施設の状況、もうちょっと詳しく聞いてくれる?」

「おう、ちょいまってや……。キョウジ、セイラが詳しい状況聞いてきてるで」


「ああ、そうだ、セイラの部下のシルベスタなんだけど、彼がその施設の部屋に寝かされていたんだ」


 シルヴィが……何故そんな所に? これじゃ見つかる訳ないわね。治療目的ではないとすると、半ば強引に連れていかれたのか……。そもそも治療目的だとしても、そんな遠くまで連れていく必要は全くない。医療技術的に圧倒的に先を行っているアメリカ領が目の前にあったのだから。


「人体実験でもされていた。ってところかしら?」

「それはわからん。単に治療を受けているだけとも見えた。足首の所だけ出血しているみたいだったが、何か思い当たるか?」


 完全に断絶したアキレス腱が数日で完治したのも、魔道具アーティファクトで何かしたのだろうか? キョウちゃんはエヴァンジェル家が主体みたいな言い方をしていたけど、イギリス諜報部の方がローカルズを上手く誘導している可能性もある。実験体を提供する代わりに、技術を提供させているとか。

 その技術がどんなものかはわからないけど……怪我を瞬時に回復させるような、自然の摂理に反するものだとしたらかなり危険な話だ。


 多分シルヴィ本人は、薬で眠らされている間に足に何か細工されたのだと気がついていないのだろう。そして、今になって出血しているという事は、何か弊害が出ているのか、不完全だったのか。……それともその部位だけ”寿命”なのか。いずれにしても良い兆候ではないはず。



 ……実験体にされていただなんて。

 私は、なんて所にシルヴィを推薦してしまったのだろうか。




次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑨帰郷

あれ? 母ちゃん、どこに行ったんスか!? (レオン談)

是非ご覧ください!




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