⑩【心得】
「それでね、
「母ちゃん、その話は止めてくれっス」
「まあまあ、いいじゃないのぉ~」
ほろ酔い加減でレオンの過去、それも本人的には聞かれたくない話を暴露しまくる母親。パティに聞かせたかったな。というか、パティが聞いている時のレオンの反応を見たかったという方が正しいか。
俺はと言うと、結局レオンの母ちゃ……美しいレベッカお姉さんのペースに飲まれ、夕食を御馳走になったばかりか泊る事になってしまった。
「いい御兄弟ですね!」
「うちは旦那が早くに亡くなったから、エクエスが父親代わりになってレオンを良く見てくれてたのよ」
子供の事をちゃんと見ている良い母親なんだな。
「エクエスが私の子供じゃなかったら結婚したいくらいだったわね~。いや、子供でもかまわず結婚しとけばよかったかな~」
……訂正。子供の事をちゃんと見ているがめちゃくちゃな母親だ。
「まあ、冗談はさておき。キョウジさん、レオン」
「はい」
「今日の昼間だけど。あんた達がこの家に入ろうとしたとき、何故、
「……自分の家に入るのに?」
だよな、これはレオンの反応通り、自分の家に入るのにわざわざ
「だからアンタは甘いっていうんだよ。キョウジさんはどうだい?」
「まあ、確かにレオンの家だから。というのはあったけど……」
「もし私に何かあって、この家に潜んでいたのが賊だったらどうする?」
「母ちゃん、そういうのは例えでもやめてくれよ……」
まあ、レオンの気持ちは痛いほど良く解る。冗談でも聞きたくない事って、誰しもいくつかはあるはずだからな。
特に、自分の大切な人に何かあったら……とかは俺でも辛い。
……今でも。
「いいかい、二人とも。今からいう事を良くお聞き。これは冒険者としては必須の心得だよ」
気が付くと自然と背筋を伸ばし、目の前のベテラン冒険者を真っすぐに見ていた。
「どんな安心出来る場所でも、視線の届かない場所に踏み入る時は
「でも母ちゃん、そんな集中力を使う事をずっと続けるのは無理だよ」
「そう言って今日蹴りを喰らったのはどこのどいつだい?」
「う……。何も言えないっス……」
「キョウジさんもだよ。あの時、ドアの影に私がいる事はすぐに判ったはずだよ」
「確かにその通りですが、レオンの言う通り
例えるなら”歩きスマホ”の様なものだ。前や周りに神経を使えない分、自ら危険を招いてしまう。
「継続して行う必要はないんだ。ほんの一瞬、0.1秒か0.2秒か。視界が届かないところに注意を向けながら行動するのよ」
「そんな事出来るものなのですか?」
「少なくとも私の知っている”一流”と言われる冒険者は、寝ている時以外は常に
一流……か。正直そういう所は目指してはいないのだが、この先必須になるであろうスキルだという事には違いがない。セイラ達が合流するまでまだ数日ある。その間に何かコツでもつかめれば……
「覚える気はあるかい?」
「……お願いします。レオンもやるよな?」
「もちろんっス!!」
「そうかい。ならば今夜からスパルタで行くよ!」
「明日とかじゃないんですか~」
マジか、今夜からって。無理にでもキャンプしてた方が良かったかも……。
「くっくっく、キョウジ、頑張れや~」
「何を言っているの、タクマちゃん。アンタもやるんだよ」
「なんやと? ワイは承諾してへんで。キョウジ、お前もなにか言わんかい!」
「タクマ、ガンバレヨ~」
「横暴や。人権侵害や~。石やけど」
悪いがタクマにこそ習得してもらったほうが良いだろう。タクマが
それに多分だが”魔力を一瞬だけ使う”というやり方は、山南の様な身体能力を高める闘い方に近いものがあるし、この手の中の魔道具を扱う事においても有用なスキルなのだと思える。
「エクエスが帰ってきたら、あの子にも教えなきゃね!」
楽しそうで何よりです……。でもまあ、自分の息子が久々に帰郷するんだ。喜ばない親はいないよな。
……かくして、その夜から元ベテラン冒険者による特訓が始まったのだった。
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑪師匠
特訓開始! 努力とか嫌いなのにな~(キョウジ談)
是非ご覧ください!
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