⑤【諸刃の……】


「なあ、キョウジよ。一つ思い出したのやが……」

「なんだよこんな時に」


 ――デーモンが動いた。


 手に持った各々の武器を構えて間合いを詰めてくる。俺の前には短剣を両手に持ったデーモン。レオンには刀を持ったデーモン。幸か不幸か、大鎌のデーモンはまだその場から動かない。

 漆黒の甲殻の様な皮膚。その中に浮かぶように光る血の様な赤い目。身長は軒並み二メートルくらいだろうか。見れば見るほど、左手に刻まれた黒い甲殻に似ている。 


「ジョンって覚えとるか?」

「ああ、地鶏の村のやつな」


 ジリジリと間合いが詰まり、あと半歩くらいで俺の間合いに入る。ショートソードvs短剣。普通に考えれば間合い的に剣の方が有利ではある。しかし、デーモンのリーチの長さに短剣という素早く小回りの利く武器は相性が良く、剣の持つ優位性アドバンテージは皆無となっていた。


「あのジョンが持っていた魔道具アーティファクトな、ワイは嫌な感じがせえへんかったのや」

「つまり、俺やレオンが特定の武器に反応したのと同じだと?」

「そしてワイが放出した微量の魔力と融合して爆発が起きたんやが……」

「そうか、つまり……」


 短剣のデーモンが一気に間合いを詰め、斬りかかってくる。そのひと振りをショートソードで受け流し、デーモンの懐に入り込みながら左手に魔力を集中する。


「……こういう事か!」


 その瞬間、手の甲のひび割れが破裂し、噴水の如く吹き出す血とともに漆黒の剣が出現した。左腕全体の神経を引きちぎった様な激痛が走る。


「――痛ってぇ……マジかこれ!」


 剣はそのまま俺の左手に収まると、黒い蔦が左肩まで覆った。短剣のデーモンはというと、手から剣が飛び出た時“運悪く”胸から頭まで貫かれ絶命していた。まあ、俺からしたら“最高に運良く”だ。 


「レオン、右手に集中だ。魔力を込めろ!」

「わかったッス!」


 右手から吹き出す血。苦痛に顔が歪んでいる。レオンは右手に出現したガントレットでデーモンの刀を無造作につかみ、そのまま握り砕いた。

 何が起きたか理解出来ずに、砕けた刀を見つめるデーモン。そんな事はお構いなしに右拳をお見舞いするレオン。インパクトの瞬間雷光を発したか思うと、デーモンの甲殻の間から煙が立ち上り、その場に力なく倒れる。


「あれは真っ黒こげやで~。ま、もともと真っ黒やから見てもわからんけど」


〔……ナゼ ココニイル〕


 その時、大鎌のデーモンが体勢ひとつ変えず、キョウジ達に語りかけてきた。



「これは驚いたな……」

 まさかデーモンが語りかけてくるとは。人語を解する事はわかっていたが、実際に会話することになるとは思わなかった。


「それはこっちのセリフだろう? 襲ってきたのはお前らだ」


〔キサマラ ガ クッタノカ〕


「何の事っスか!?」


〔カナラズ カエシテ モラウゾ オボエテオケ……〕


 悪党の捨て台詞みたいな一言を残し、大鎌のデーモンはゲートの中に消えていった。これはマジで助かった。圧倒的な力の差で勝っているように見えるが、実はこちらのダメージの方が大きい。今の状態で、戦闘の継続はかなり厳しかった。


 何にしても、とりあえず一息付けそうだ。しかし……


「痛ぇな、これ……黒武器とでも呼んでおこうか。あ~、なんかフラフラする」

「ホントっス。出すたびに血が吹き出るとか……。血が足りなくなりそうっス」


 いや、もう足りてないって。俺の足元もレオンの足元も、大量の血で真っ赤になっている。俺は軽く貧血気味だぞ。


「ヤバイなんてもんじゃないスね、黒武器コレ

 右手の武器をまじまじと見ながら、ヤバいと言いつつも感心する口調のレオン。


「ああ、ヤバすぎる。しかし、対デーモンにおいてはかなり有用な武器には違いない。切り札というべきか」


 もちろん、人に使う訳にはいかない。こんなヤバイものを対人で使ったら虐殺どころじゃなくなってしまう。それはレオンも重々承知しているだろう。


「諸刃の剣っちゅ~やつやな。使いすぎると死ぬで~」

「これ、一生このままなんスか?」

「レオンはいいよ、利き腕だし。俺……なんで左手で持ってんだよ。アホすぎんだろ。まともに闘えねぇじゃん。いや、もう、マジで、勘弁してくれ」


 ホントもう、今はとにかく何も考えずにゆっくり寝たいところだ。細かい事は起きてから考える。


 それにしてもあのデーモン『食ったのか?』と言っていたが。



 ……いったい何の話なのだろうか?




次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑥キョウジ&レオン

本当、呆れましたわ。 (パトリシア談)

是非ご覧ください!

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