④【同調】
転生者の国では規模の違いはあれど発電施設はある。しかし、粗末な発電能力で賄えるのは街の街灯程度で、各家庭はオイルランプや薪を使って生活しているのが普通だった。しかし、ここイギリス領ではそういったインフラ設備が見当たらず、街灯ですらいまだにオイルランプを使うタイプのものだった。
大国の一つとして認識されているにも関わらず、共通規格として各国に技術提供されている街灯を設置していない。にもかかわらずこの謎の建物にだけ電力を集約しているという現実が、いかに重要な施設なのかを物語っていた。
魔道具研究施設を出る時に、スタッフ用の白衣を拝借して武器を包み隠し、街のメイン通りをひた走る。なんとも怪しい恰好だが、剣をむき出しのまま大通りを走るよりは断然マシではあった。と、思う。
好奇の目に囲まれながら、なんとか宿屋までたどり着いたのだが、どういう訳かその時には俺の剣もレオンの格闘武器も……
消えていた――
そのかわりに手の甲に放射線状のひび割れたような傷が出来ていた。かと言って痛みがある訳ではなく、当然怪我でもない。その部分だけデーモンの甲殻の様に黒く変色し、中心部には血の赤が滲んでいた。
……そして、手の中に”あの”武器が入り込んでいる実感がある。これは、何らかの方法で具現化出来るという事なのだろうか?
「研究施設に忍び込んで、不本意ながら研究施設に保管してあった”モノ”を着服。 そして見つかって逃亡。……やっている事は完全に犯罪者じゃないか」
「そうやな~、君ら指名手配されるで」
「手配されるの二国目っスよ……」
「レオン坊はこのペースやと、半年くらいで入れる国なくなるな。そのうち木の上にしか住めなくなるで!」
「お師匠、酷いっス……」
「じゃあ、犯罪者は犯罪者らしく……。逃げるぞ!」
どう考えてもかなりの数の追手が出ているはずだ。このまま宿屋にいたら、陽が沈む前には捕まってしまうだろう。宿泊料を”多めに”払い、宿屋の裏に止めてあるバイクで急ぎ逃走!
多めに払ったのは言わば迷惑料。この後警察が来て色々聞かれるだろうからな……
しばらく走り、イギリス領が完全に見えなくなった辺りでひと休憩を入れる事にした。俺もレオンも訳の分からない状況のせいか、普段以上に疲れを感じていたからだ。特に周りには何もない、石畳街道の脇に座り込む。
「なんというか……」
「自分の手とは言え気持ち悪いっスね……」
「どこか近くの街に寄って手袋でも買おうか」
「ういっス!」
それにしても、施設でベッドに寝かされていた人達は
……あれが人体実験だとしたら、日英同盟の
「そろそろ移動しよう。シルベスタの事も皆に伝えないとだ」
「そうっスね。お師匠さん、パトリシアさんとの合流場所はどのあたりでしょう?」
「ちょい待ち~、嬢ちゃんと繋ぐで」
何かもう色々と脳みそが疲れたな。さっさと合流してひと眠りしたいぞ。
――しかし……偶然なのか、それともこのタイミングを狙っていたのか。
「ここで来るのか!」
「これは……」
「なんやと!?」
以前にも感じた嫌な魔力だ。悪寒が走る。その原因はすぐに姿を現すのだが、それを待たずして何が起こっているかを、三人が三人とも察していた。あの時の感覚と同じだ。
「……感じたか?」
「来まスね……」
「おう、ヤバいで」
「……どの方向だ?」
自然とレオンと背中合わせになり警戒を強める。腰の剣を抜き、どこから敵が来ても良い様に正面に構えておく。
「こっち、来ましたっス……」
レオンの正面七~八メートル先だろうか、何もない空間にポッカリと空いた、ドス黒い
生暖かい様な、それでいて所々冷たい空気が辺りに漂う。うっすらと赤黒い霧みたいなものも見える。特に臭いは無いが、しかしそれでいて気分が悪い。……これが魔界の空気なのかもしれない。
「倒すぞ。レオン、例の爪に注意しろよ!」
「了解っス!」
「気ぃつけや、敵の方が多いで」
出現したデーモンは三体。手にはそれぞれ短剣や大鎌、刀を持っている。ゴーレム召喚は無理だ。飛び道具に近い攻撃をして来る敵相手には自殺行為でしかない。
「剣で闘うしかないのか……」
くっそ、超絶ピンチじゃねぇか。さっきの黒武器を取り出せるのならどれだけ心強い事か。しかし手に中に入った理由も原理も解らないし、取り出し方も解らない。
……つまり、あてに出来ない。って事だ。
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ⑤諸刃の……
超絶痛いっス。 (レオン談)
是非ご覧ください!
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