③【黒い蔦】


 ――目の前に並んでいる物。それは、ありとあらゆる種類の武器だった。


 黒色を基調としているが、光りの当たり方によって赤く光るものや、青く光るもの等様々だ。どれもこれも禍々しい魔力を放っている。

 それにしても趣味が悪い。この武器の質感と形状は”デーモンの身体”を元にデザインされた様な感じだ。……あまり触りたくないな。

 見回してみると、一か所から他の武器とは違う青白い光が立ち上っている武器が目についた。


「なんだ、あの光は……?」

「なんや? 何も見えへんぞ」

「見えない……のか。レオンはどうだ?」

「どれっスか?」

「そこに青白く光ってるやつ」

「ん~、見えないっスね。自分はこっちのやつから黄色っぽい光が立っているのが見えるっス」


 どういう事だ? 俺にはその黄色の光りが見えない。人によって見えるものが違うのか? 光の方に行ってみると、そこには黒い柄の剣があり、その剣身から青白い光が立ち上っていた。自分の剣よりも長く細身ではあるが……


「なんか、こいつだけは嫌な魔力を感じないんだ」

「そうか? ワイには”全て”嫌な感じしかせえへんで!」


 やはり人によって何か違いがある様だ。腰のショートソードを抜き、剣先で軽く、慎重に触れてみるが何も起きない。

 

「……なんかこう『バチッ!!』って感じの反応があるかと思ったんだけど」 


 さて、どうするかな……と思案しているその時、後ろの方から破裂する様な黄色い光が放たれた。


「なんスかこれは!?」

「どうした??」

「右手が……右手に武器が……」


 レオンの右手が黄色く輝いている。右手が、というよりも右手についている武器が。ではあるが。


 ――次の瞬間、今度は俺の後ろから青白い光が発生する。


「おいキョウジ、それ……」


「あ……」


 黄色い光の圧に押された為だろうか、体勢を崩さないようにと手を突いた先には……剣があった。


「しまっ……」


 黒い柄のロングソードから、薔薇の様なトゲのついた黒い光のつたが何本も伸び、絡み合いながら左手から肩まで登ってきた。同時に剣身が青白く光る。禍々しい黒と清浄な青白。そのコントラストは美しく、うかつにも魅入ってしまった。


 レオンも同様、武器を触った右腕に黒い蔦が何本も絡みついている。その蔦には血の様な赤色の線が血管の様に走っていた。武器を持った方の腕だけが、デーモンの腕になった様な感じか。


「キョウジ、レオン坊、大丈夫か?」

「ああ、なんというか……。何ともないんだ」

「なんやと?」


 どう見ても何か厄介な代物なのに、痛みもなければ特別これといった違和感もない。


「うん、何ともないっス。ただ……」

「ただ?」

「手から離れないっス」

「マジか!!」


 勘弁してくれ……。俺も左手から剣が離れねぇ。ヤバいだろこれ。このまま街中をむき出しの武器持って歩いたら通報されるって。魔道具アーティファクトなのか、魔道具アーティファクトから作った物なのかはわからないが、そんなものが手に張り付いたままとか……


「どうしろと?」

「ほんま、アホやなぁ……」


 タクマにあきれられるとか、不覚にもほどがあるわ。


「何とか離せないかな……」


 その剣は見た目よりはずっと軽く、剣身は風を纏っている様な感じだった。剣からほんのりと、そよ風を感じる。

「これは……風属性って事なのか?」


 手から放そうと振ってみた瞬間、剣先から物凄い風圧が発生し、部屋の壁を爆音とともに切裂き破壊してしまった。剣身が纏っていた風を撃ち出したような感じだ。当然、建物中に響く破壊音……。


「なんだよこれ、人が持つ武器でこの威力は異常だろ」

「キョウジ、考察は後回しにした方がええで~」

「う~む……。レオン、とりあえず」

「ういっス!」


「逃げるぞ!!」

「逃げるっス!」



 音に気が付いた誰かが非常ベルを押したのだろう。建物中に警戒が走る。入ってきた通路を戻るように走っているが、発見されないまま脱出とはいかなかった。

 警備兵が集まってくる。しかし、流石にこの剣を振るう訳にはいかない。今みたいに軽く振っただけであれだけの威力だ。ヘタすると死に至らしめてしまう可能性がある。


「こんなもん、脅しにしか使えねぇな……」


 前方に七~八人の警備兵。さて、どうするか……


「ここは自分がやるっス!」


 言うが早いかレオンは飛びあがり、警備兵の数メートル手前の床をめがけて右手で殴りつけた! レオンの右手にあるのは手から肘まですっぽりと覆う、ガントレット状の打撃武器だった。俺の剣と同様、黒い光の蔦が右肩まで達しており、拳の部分は黄色く光っている。


 轟音とともにえぐれる床。そして、レオンの”それ”は同時に電撃を発していた。


「をを、何すかこのビリビリ!!」

「レオン……わかってやっているんじゃないのか」

「わかるわけないじゃないっスか~」

「まあ、そりゃそうだな」


 しかし幸運にも”脅しのつもり”で打ったレオンの一撃が功を奏したようだ。発した電気が建物の電気回路に影響を与えたのだろうか、一斉に電源が落ち、灯りは消え警報は止まった。

 今、地下一階にあるこのエリアは真っ暗だ。この機会を逃す手はない。


「タクマ、頼むぞ!」

「おう、まかせとき! レオン坊、誘導するからしっかりついて来るんやで!」

「了解っス!」



 それにしてもこの左腕、どうすりゃいいんだ?



 ……この世界にも、銃刀法違反ってあるのかな?





次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ④同調

やり直しを要求するぅ~! (キョウジ談)

是非ご覧ください!

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