⑭【切り崩し】

 今更ながら思ったのだが。

 

 ……俺は本当に事故で死んで転生させられたのか?


『殺人を犯した者が死んだ時、記憶を奪った上でここに転生させられる』

 と、セイラは言っていた。


 つまり、何らかの力が働いて記憶を奪っているという事は、記憶を書き換える事も可能かもしれない。そうすると、俺やタクマの死亡時の記憶は確かなのだろうか?

 そもそも、俗に言う神とか創造主とか言われる存在はいるはず。いや、いなければならない。超常の意思が働かないと、転生なんてものは成立しない。


 ……そしてセイラの話は、それらの存在から明かされでもしなければ判らない事ばかりだった。つまり、セイラに情報を伝えたカドミは、神なり創造主なりに逢っているという事になる。



 物語的に考えれば、神の声を聴いたカドミが主人公で、俺らは”モブの様な者”って事なのだろうけど……。まあ、そこはどうでもいい。問題はその”訳の分からん存在”がムカつくって事だ。勝手にありえない量の業を背負わせやがって。ふざけるなってんだ!


 だまって穏便に済ませるなんて事はしない。絶対にぶん殴ってやる。神も、カドミも、だ。この事はカドミに会うまで考えないつもりだったけど、なんか怒りの方が勝ってムカついてきた。うむ、仕方なし。



 もうひとつ”直近でムカついている案件”が病室の入り口でうろうろしていた。気配を消す事もせずに入るタイミングを伺っているみたいだ。


「開いてますよ。どうぞ」

「し……失礼します……」


 外交官の人がドアをノックする前に声をかけて”こちらは全て見通してるぞ”的なアピールをする。まあ、精霊を呼び出しておいて監視していただけなのだが。それでも効果はあったみたいで、身動きがほぼ出来ない俺に対して最大限の警戒をしているのが見て取れる。


「あの……なんでしょうか?」

「……」

「わ、わたしが呼ばれたのはいったい……」

「日本が、」


 ――この一言だけでビクッと身体が震えたのがわかる。あまり脅しすぎてもこちらの言葉が届かなくなるから、少しだけ殺気を緩めておこう。


「日本の事、イギリスは知らないよね?」

「に……日本とイギリスは同盟しておりまして……その、協力体制を……」

「そうじゃなくてさ。裏切ってるだろ?イギリスを」

「……!!」

「今この場でイギリスの諜報員にバラしたら、アンタどうなると思う?」

「……」


 一言ごとに顏色が青くなっていく。わかりやすすぎて面白い。


「少なくとも五体満足ではいられないだろうね。そこの窓から落とされるよりひどい頃になるんじゃないかな?」

「あ、あの……。わたしは……どうすれば……」


 ――もうちょっとってところかな。あと一押しくらいか。


「そんなもん、自分で考えろよ。なんで俺が教えてやらなきゃならないんだ?」

「つ……妻も子もいるんです」

「だったら、なんでこんな事やってんだよ。ここで妻だの子だの言い出すのは卑怯だよな? てめえの家族がどうなろうと俺の知った事じゃねえ。恨みは晴らさせてもらうぜ!」


 ――なんてな。少なくとも嫁や子供には、恨みはもちろん敵意はない。そこに影響が出る事は避けたいところだ。



「わ、わたしはどうなっても構いません。妻と子には手を出さないで……」

「勘違いするな。手を出すのは俺じゃねえ。イギリス諜報部だろ?」

「…………」

「なあ、自分はどうなってもいいってのは本音か? ならば今ここで俺に殺されてもいいよな? アンタが俺に殺されればイギリス諜報部の目は俺に向くからな」

「かまいません……やってください」


 ――足は震え、半泣き状態にも関わらず、妻子を守る為に必死で抵抗している。そろそろだな。 



「……ひとつ提案があるんだけど。どうする?」


 外交官は拍子抜けしたようにこちらを見る。昔見たアニメや漫画みたいに、斬ると見せかけて剣を寸止めし『これでオマエは死んだ。産まれ変わったんだ!』みたいな事も考えたが、あまりにベタすぎて流石に抵抗が……。

 それに、すでに二回吹っ飛ばしているから、そこまでやる必要はないだろうと判断した。


「なんでしょうか……?」

「こちら側につきませんか? 妻子の安全は保障しますよ」

「少し考え……」

「あ、そうそう。考える時間とかないから。仲間の、セイラの状況わかっているよね? 余裕があると思う?」

「…………」


 必至で考えているのが手に取るように解る。質問しておきながら答えを聞く前に追い込む。大抵はこれで、こちらの思う返事が返ってくるんだ。


 転生前の世界では『仕事と家族とどちらを優先するか?』という問いがあったが、それには正解なんて存在しない。だが今回天秤にかかっているのは、仕事と”家族の命”だ。どちらの答えを出すかは明白だろう。



「……妻と子は間違いなく?」

「ああ、条件付きだけど、俺なんかよりも百倍は厳重に守ってくれる所がある」

「条件、ですか? それはいったい……」


「それはね……」




次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑮探し人

エクエス兄さん、3分っスよ、3分(レオン談)  是非ご覧ください!






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