⑬【救出作戦】


「そうか、タクマを通してパティと連絡を取ることが可能なのは大きいな!」


 離れた仲間と情報のやり取りが”素早く密に”出来る事が、現状のこの世界においてどれだけのアドバンテージとなりうる事か!

 むしろ、さらにここでタクマを割って全員で連絡用にするか。とも思ったが、集まった時にカオスになりそうなので却下しておこう。四体のタクマとか想像しただけで悪夢だ。


「嬢ちゃんの方は、まだ護送隊発見出来てはおらんで。ワイの魔法感知サーチにもかからへん」

「だろうな。パティは多分、直接イギリス領に向かうルートをとっているんだろ?」

「そのはずっス。すぐに自分も追いかけるっス!」

「レオン、ちょっと待ってくれ」

「タクマ、パティにルートを変える様に伝えてくれ」

「お? なんや考えがあるんか?」


 ……そう、ちょっと引っかかる部分がある。


「沖田……、え~と、今は山南、だっけ。が、セイラを捕まえたんだよな? ならば行き先はイギリス領じゃなくて日本領の可能性があるんじゃないか?」

「しかし、日本がセイラさんを拘束して何のメリットがあるのでしょう?」

「多分、人質だろうな。俺に……俺達に対しての」


 もしセイラの確保を日本が独自に行ったとして、イギリスを揺さぶることが出来るのか? いや、流石に無理だな。諜報員とはいえ組織の末端。その一人を捉えたところでイギリスからしたら「知らぬ存ぜぬ」で押し切る事も出来る。そうすると俺達に対しての切り札意外の意味はないだろう。


「うわ、めちゃくちゃ卑怯っスね!」

「レオン、乗ってきたバイクは置いていかなくていい。そのまま乗って行ってくれ」

「了解っス! 行き先は日本領っすね?」

「そうだ。タクマ、パティにも伝えてくれ。ただし、警戒を十分にするように。考察が外れてイギリス領に向かっているとしたら、正面から鉢合わせする可能性もある」


 イギリス領と日本領の丁度中間辺りにこの街とアメリカ領がある。ここからレオンは日本へ、パティはイギリス方面からこの街を通り日本へ。それぞれ移動する。もしイギリスに向かっていればパティと鉢合わせ、日本に向かっていればバイクで追いつく。という算段だ。


「おう、その場合はレオン坊を呼べばええんやな?」


「ああ、連絡は密に取ってくれ。これなら山南の言っていた『イギリスに護送している』が本当でも嘘でも対応出来る。同盟を裏切っている以上、全ての情報は疑ってかからないとな」


 国家間同士の腹の探り合いとか面倒くさい事この上ないが、渦中にいる以上『関わりたくない』と言っても許されないだろう。

 

「レオンもだ。発見してもパティと合流するまでうかつに動くなよ」

「了解っス!!」

「気になるのはタクマの広域魔力感知ワイド・サーチでも反応がないという事くらいか。もし何らかの形で魔力を遮断出来るとしたら……。魔力感知はもちろん、セイラも魔法を封じられていられるかもしれん。十分警戒してくれ」


 レオンへの指示が一通り終わった所で、タイミングを見てエクエスが話しかけて来た。弟が動くのに自分が動かない訳にはいかないという、使命感みたいなものもあったのかもしれない。


「私たちはどうしましょうか?」

「俺もエクエスさんも、この状態では足手まといにしかならないからね。俺は引き続きここにタクマがいる体で間接的に向こうの戦力を削っておきます。エクエスさんには度々たびたび悪いけど……」

「アメリカ領へ行くのですね?」

「そう。無理せずにのんびりと馬車でいいよ」


 俺の考えを読んで先回りの返事が来た。こういうのも気持ちいいな。考えを読まれたと思うよりも”状況の共有が深くできている”と感じられる。



「タクマ、二人を頼む!」

「任せときや! この子らは絶対に死なせへん!」

「最悪、タクマが捕まってもいいから二人は無事に返してくれ」

「おう、ワイが捕まった時は頼むで~!」

「俺が死ぬまでには逢いにいってやるよ!」

「期待せんと、尾崎紀世彦歌いながら待っとくわ」


「……誰なのです?」

「……誰っスか?」


 エクエスやレオン、パティの様な転生二世には流石に解らないよな……


「うう……時代の流れ感じるで~」

「それからレオン、これを持って行ってくれ」

「これは……キョウジ兄さんの魔導錬書でスか?」

「ああ、パティに渡してくれ。まあ、使わなくて済めばいいんだけど」

「わかりましたっス。しかしこれ……普通のと何か違いまスね」

「ん? そうなのか。魔法ギルドの人から貰ったから全然気にしてなかったよ……」


 毎日の様に転生者が来るこの世界では、各国ともビギナー転生者の為のギルドが組織され、培ってきた技術や魔法の習得などのサポートがある。

 普通は道具屋で購入するものだが、俺の書は引退するギルドの古参メンバーから受け継いだものだ。だから、市販品との違いなんて気にしたことはなかった。



「あと、日本の外交官の人だけを呼び出してほしいのだけれども」

「今度は何を企んでいるのですか?」

「企むというか、ちょいと脅し……最後の一手をね。その内容次第でエクエスさんにも動いてもらう事になるから」

「わかりました。”頼み事がある”と、ちゃんと伝えてきましょう!」



 ――これで今打てる手は全て打った。あとは幸運の女神次第ってとこだな。





次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑭切り崩し

あ~もお、めんどくせぇ。片っ端から殴りたい気分だ(キョウジ談) 是非ご覧ください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る