⑫【援護射撃】

 ――アメリカ領でそこまでの事態になっているとは予想出来なかったが、こちらはこちらで色々と厄介ごとに巻き込まれていた。


「キョウジさん、入ります」

「首尾はどうです?」

「バッチリですよ!」


 エクエスさんに頼んだミッションは二つ。一つは日本とイギリスによる悪だくみの裏付け調査。そしてもう一つは……


「食いついてきていますよ。そろそろ来るはずです」

「うん、廊下がうるさくなってきたな」 


 あらかじめベッドの周りに魔法陣を書いておき……まあ、エクエスさんに書いてもらったんだけど。いつでも精霊を呼び出せるようにしておく。寝る時とかも呼び出して周囲の警戒をしてもらっている。 


「エクエスさん、一応窓の外警戒よろしく!」

「わかりました」


 流石に四階の病室の窓から襲ってくるのは不可能だろうけど、一応念の為ってやつだ。


 入口扉の先に大勢の人の気配がある。どんな口実をつけては何入るか考えているのか、それとも強行突破のタイミングを計っているのか? いずれにしても……


「失礼します!」


 力加減等せずに開いたのだろう、扉が壁にぶつかる『ガコンッ』と音が部屋に響いた。そこには数人の黒スーツと、その後ろにいる外交官。腕を包帯で吊っている。四階から落ちてその程度で済んだのか。多分他の黒スーツが下敷きにでもなったのだろうな。


「キョウジ殿……」


 涙目の外交官が口を開く。上に言われて嫌々来ているのだろう。中間管理職の鏡だな。だが、そんな事はかまわずに突風を浴びせた。脅しをかけるために一番前にいたガタイの良い男が、突風を直に浴びて通路反対側に吹き飛び壁にぶち当たる。扉の近くにいた奴らも一緒に吹き飛んでいた。無関係の人が巻き込まれていませんように~。


「俺、昨日言いましたよね? タクマの事はアンタらには関係ない。と」

 

 エクエスさんには『盗まれたと言われていた石が、実はまだ病室にある』という流言を流してもらった。メモか何かに殴り書きして、奴らの使っている会議室に放り込んでおけばいい。 

 普通ならそんなメモ書きなんて”胡散臭い”の一言で済む様な内容だが、今の状況では確認しに来ない訳にはいかないだろう。


 そして……


「”こいつ”は、渡さねぇ。来るならいくらでも相手になってやるよ!」


 これでいい。この一言でしばらくは時間が稼げるだろう。この部屋に”タクマがいる”と信じ込めば、いや、ちょっとした疑い程度でいい。そうすればパティ達の追跡の手も少しは緩む。これは弟思いのエクエスさんから提案された作戦だ。やはり頭がキレるな、この人は。

 ちなみに“こいつ”とは、枕元のテーブルにあるリンゴを意味して言った言葉だ。タクマと言っていないので嘘はついてないぞ、と。


「そうそう、俺は動けなくてもいつでもゴーレム呼び出せるんで!」


 ま、こっちは嘘だけどね。病室こんなところで呼び出したらこっちがヤバい。病院半壊間違いなし、だ。

 蜘蛛の子を散らしたところを見たことはないけど、そんな感じで逃げて行く黒スーツ達。


「なんか、ちょっと楽しくなってきた」

「キョウジさんもですか! 実は私もです。それに……」

「それに?」

「戻ってきたみたいです。これは……窓開けます」


 おいおい、窓って。まさか……。直後、もの凄い勢いで窓から突っ込んできた少年がひとり!


「ただ今戻りましたっス!!!」


 って、窓から飛び込んでくるな! 四階だぞここは。

 勢いよく突っ込み、天井を蹴ってブレーキをかるレオン。


「天井に穴あいちゃいましたね……。レオンやりすぎだぞ!」

「すんませんっス!」

「ああ、二人とも気にしないでいいよ。あいつらのせいにしとくから」


 あいつらとはもちろん日英同盟君達。この間壁に刺した果物ナイフの跡とかも全部あいつらのせいにしてある。


「で、レオン、状況説明頼めるかな?」

「ういっス!」


 レオンが病室入口の扉を閉めると同時にエクエスさんが氷魔法で扉を固定する。 流石兄弟。こんな些細な事でも連携がとれている。


「と、いう訳で……これっス!」


 レオンは小ぶりのウエストポーチから石を取り出し俺に差し出してきた。


「お~キョウジ~。一日ぶりやな~!」

「ちょ、タクマなんだそのアシュラ男爵みたいな顔は!?」

「そやろ? ワイがワイと離れ離れになってもうた」


 その味のある顔に笑いがこみあげてきて……


「やべぇ、心臓が痛い……肋骨がヤバイって!」


「半分は自分、レオン画伯によるものっス!」

「ああ、なるほど。それでセンスのかけらもないのか。昔から変わらないな」


 エクエスさん容赦ないぞ。でもまあ……たしかに1ミクロンもセンスない。しかしそれが妙にイイ感じだ。


「それで、タクマを連れて”一人で”ここに戻ってきているという事は、事態が切迫しているという事だと思うのだが?」


 ……そう、この状況でパティと別行動をとらなければならない理由があるはずだ。惚れている相手を一人にするリスクを負ってでもここに来るという事はよほどの事だろう。


「順を追って急いで手早く話すっス」




 ……いや、出来たら丁寧に頼む。





次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑬救出作戦

セイラの行方は? 是非ご覧ください!




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