⑪【石やけど……】
「なん……ですの?」
嬢ちゃん、目が点になっとるわ。まあ、仕方あらへん。
「師匠、もしかしてこれ……」
「ああ、多分キョウジが焚き付けたのやろうな……『愛の為に戦え!』とかなんとか……」
まあ、とりあえずは助かったわ。後の事を考えるには、今を生き抜かなければあかんからな。
「……お兄さま、もうちょっと加減をしてくださいまし」
「アイツはアホやからな。ONかOFFしかないんやろ」
さて、この後どうするか。レオン坊が警戒を解いていないのは、多分”決まりきらなかった”っちゅー事や。山南はすぐに起きてくるやろな。このまま逃げても追い付かれる可能性は高いで。
「というわけでやな、とりあえず……」
起きる前に縛り上げるか~。バイク連中と合わせて五人。二人は埋まっているから、三人を木に縛り付けてスタコラや! 裏切者が一緒に縛られてるのを見た時のバイク連中の反応が見ものやで~。
「レオン坊、山南は手足も縛っておけよー」
「坊はやめてくださいっス!」
「そんなことよりも、お姉さまを救出しないとですわ!」
「……そんな事っスか」
「ところで、や。嬢ちゃんに判断は任せるが……。拳銃とマシンガンは持っていくかい?」
「いりません。そんな人道に劣るものなんか!」
「よく解らないけど俺が護るから大丈夫っス!!」
うむ、即答か。ええ子達や。
……もしここにキョウジがいたら。
……ワイに身体があったら。
山南の手足うち抜いて再起不能にするのやがな。現実を見たら、こいつはこの場でリタイアしてもらうのがええ。
しかし……この子たちにそんなことは強要出来へんわ。
「よっしゃ、ならば嬢ちゃん、そこの武器は地中深く埋めてしまおう」
内心ムカついていたんやろうな、山南の刀もまとめてものっすごい念入りに埋めてたわ。五十メートルくらい深く掘ったんちゃうかな? あとはバイクやが、流石にこれはあった方がええ。
「嬢ちゃん、レオン坊、バイクの運転を教えるから三分で覚えや」
「三分ですか!? そんな無茶な……。それから坊はやめ……」
「愛の力で何とかせい!!」
「――わかりました!!!!」
便利なやっちゃなー。秒で覚醒しおった。
「師匠までそんなことを……」
「まあまあ、我慢してくれ。もっとも、嬢ちゃんが坊をたらし込んでくれれば話は早いのやが……」
「お断りします!」
……こっちも即答か。
レオン坊、前途多難やで……
そして……
「これだけは避けたかったんやがな~。 マジでやらなあかん?」
「あかんですわ!」
「あかんっスよ!」
君らいけずや……
「それでは師匠、覚悟してくださいませ。レオン頼みますわ!」
「お師匠さんを……割ればいいんスね!」
……ぱっか~~~~~~~~~ん!!
せっかくくっ付いた半身とまた別れ別れになってしもうた。さらばワイ。達者でいろよ! また逢う日まで、や。ってこれは……
「尾崎つながりやないか~!!」
「尾崎つながりやないか~!!」
「訳わからない上にダブルでうるさいですわ!」
「これでパトリシアさんと自分が一人ずつ持てば、合流しやすいでスね!」
そうや。二つになってもどちらもまったく同じワイや。離れて違う風景見ても同じ思考やからな。目標を二方面から追尾するにはかなり有効やで~。ワイめっちゃ有能やないか!
ここからはバイクで移動や。一台は嬢ちゃんがセイラ救出に向い、もう一台はレオン坊がキョウジに届ける。あいつ手先器用やったからな。傷治ったら上手い事改造して追いかけて来るやろ。
「しかし、半分の師匠さんをこのままって訳にはいかないッスね。魔力が流れっぱなしでス。何か塞ぐものを探さないと……」
「抜かりないですわ! レオン!」
嬢ちゃん、さっき武器埋める時に何かやっていると思ったらこれか。
「師匠と同じサイズの石を二つに割っておきましたの!」
「それにしても、えらい綺麗に割れてるもんやな~」
「
ああ、想像出来るわ。鋭利に研ぎ澄まされた刀で、石をゴリゴリと刃こぼれお構いなしに切っている姿が。しかしまあ、今は地中深く埋まっておるし、そもそも敵の武器や。問題ないやろ。それにしても……
「あら? バランス悪いからと思ったのですが?」
だからと言って石の方に顔を描くか?
「見た目がアシュラ男爵になってしもうたやないか~!」
「お師匠、意味わからないっス!」
マジか~。ワイ、どんどん人間離れしていってしまうがな……石やけど。二人がそれぞれ描くもんやから、完全に別人や。嬢ちゃんの方は少女漫画みたいな目になっとるし。レオン坊、君は絵心ないわ~……
まあ、これも人生やな! 石やけど。
「じゃ、レオン坊そっちは頼むで~!」
「任せてくださいっす。このバイクをキョウジさんに届けたらすぐに追いかけます」
「さあ行くで! 盗んだバイクで走りだすんや! 行き先も解らぬまま! 暗い夜の帳の中へやで!!」
「さあ行くで! 盗んだバイクで走りだすんや! 行き先も解らぬまま! 暗い夜の帳の中へやで!!」
「行き先はイギリス領です。師匠」
「今昼過ぎっスよ、お師匠」
……君らいけずや。
走り出してみてわかったが、このバイク、魔力で走るってのはかなりええシステムなんやな。排気ガスがでぇへんし、音も静かや。特に転生者なら自身の魔力で動かせるのがええ。スピードの加減も魔力次第で可能や。
このシステムを普及させたら国同士の連絡も物流もスムーズになる。文化水準一気に上がるで。あの場に残った二台のバイクは警察に押収されるだろうし、そこからアメリカがコピーを作れば世界情勢もかわるやろう。
「それにしても、セイラさんくらい強ければ逃げられると思うんスけど?」
運転しながら考えていたのやろうな。アメリカ領の出口付近でレオン坊が口を開いた。その一言のおかげで、この場の三人全員が同じ認識を持っていたと確認できた。
「たしかに違和感ですわ。逃げない理由があるのか、もしくは……本当に逃げられない状況なのでしょうか?」
「嬢ちゃんの言う通りや。特に後者の場合はかなりヤバイで。いずれにしても急がなあかんな」
「あの男が嘘を言っている可能性はないっスか?」
「ほぼないやろ。あのタイミングでそんな嘘言ったところで何もかわらへん。山南が心底性格悪くて、嘘をいってまで嬢ちゃんに嫌がらせをしたかったとかでない限り、本当の話やろな」
……いや、嫌がらせの可能性もそこそこあるよな。山南に関しては、嘘と真実がようわからんようになってきたで。
「そしたら、お姉さまは”拘束されていて逃げる事が出来ない”という最悪の前提で動いた方が良さそうですわね」
「そうやな。何かの機械や道具で動けないのか、もしくはセイラでも歯が立たない敵がいるのか。護送隊を発見したらまずそこを見極めるんや。嬢ちゃん、レオン坊が合流するまでは手を出したらあかんで!」
次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑫援護射撃
これも一つの戦い方だ(キョウジ談) 是非ご覧ください!
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