⑨【ブラフ】
「山南、ひとつわからんのやが。聞いてええか?」
「なんでしょう?」
「バイク連中を裏切ったのは何故や? あのままならワイも嬢ちゃんも確保できたはずや」
「そんな事ですか。我が主からは『隙あらばすべて奪え』と言われておりましてな」
やはりか。日本とイギリスで結託はしているが、お互いに出し抜く事を考えているっちゅうこっちゃ。マラソン大会で『いっしょにゴールしようね~』とか言いながらラスト二百メートルあたりからダッシュ仕掛けるアレやな。
「会議室での話も騙し合いだったのですね。汚い人達ですわね。……そして、あなたはそれ以上に汚いですわ!」
嬢ちゃんは、ワイが質問している間にコッソリと呪文を唱えていた。さっきと同じ様に魔力のこもった”つぶて”を投げる。
「無駄な事を!」
通用しないのは承知の上や。だがな、今度のは……
「石に見せかけた土の塊や!」
山南が剣で”石つぶて”を叩き落とそうとした瞬間、土塊が破裂する。流石に剣の達人と言えども目の前で破裂した砂埃は避けられへんやろ。
――目つぶしを食らわせてとんずらや!
「無駄な事だといったはずだ」
読んでいたのか、それとも勘か? 土塊破裂の瞬間下を向いて、直接目に入らないようにして突っ込んで来おった。そのまま剣を真っすぐに構え、突きの体勢だ。
やはり相手が悪い。嬢ちゃん、逃げ……
「そうはイカのきん……」
あかん! 女の子がその先はゆうたらあかん!!
「ぴらですわ!」
「なん~やそれ!」
多分、沖田総司を名乗っていた頃の山南に伝授されたのだろう。真剣白羽捕りの要領で、突きを止めおった。ただし……
嬢ちゃんの手の中には”ワイ”が握られていて、剣先は”ワイ”で防いでいるという……
「盾か!? ワイは盾か!? いやそれよりも刺さってるって! オマタに剣が刺さってるって!!」
「やりますな、お嬢。私が教えた事をしっかり取得しておられる」
「今頃後悔しても遅いですわ!」
「いや、君ら普通に会話してるけどな。ワイのオマタがピンチなんやで? そこんとこ、よろしく!」
山南はその体制のまま剣を押し込んできおった。単純な力比べは嬢ちゃんに不利やで! ワイのオマタはピンチやで!
「だがまだ甘い!」
山南は一瞬力を抜くと、前のめりになった嬢ちゃんの腹に蹴りを入れた! カウンター気味に喰らった蹴りは確実に
「オイこらオッサン、子供になにすんねや!」
……ヤバいで、ヘタすると骨逝ってるかもしれん。
「女子供であろうとも、優先すべきは主の
なんてこった。こんな状態になろうとも嬢ちゃん、ワイを離さへん。根性は認めるがそれで命落としたらあかんで。
「し……しょう。子ども扱い……しないで、くださいな……」
「アカンて。まともに呼吸出来てへんやないか! ……おい弟子二号。いや、山南! もう終わりにしようや。お前だって殺したくはないやろ? 嬢ちゃんワイを離せ。はよ!」
「出来ま……せんわ。こんな卑怯な人達に……」
「いい加減にしてくださいよ、お嬢」
言うと同時に、刀の刃先を嬢ちゃんの首筋にあててニヤリと笑う。
「――――っつ」
「もうええやろ? そのくらいでやめてくれ……」
嬢ちゃんもや。今意地を張っても自分を傷つけるだけや。
「最初から抵抗しなければこうはならないのですよ」
「わかったからやめてくれ。子供の将来を奪うな」
「師匠……だから、子ども扱いしないでくださいって……」
「嬢ちゃん、やめや。大人しくしとくんや! なんでこう、うちのチームの女どもは強情なんや!」
もっとも、それが強さの要因であることも確かなんやが……今はマイナスにしかならんで。
「確かに強情ですね。その点は同意しますよ、お師匠殿。あの女といい、本当手こずらせやがる!」
「あの女……セイラの事か?」
「ええ、病院を出てきたところを捕縛しましてねぇ。暴れたいだけ暴れて、本当厄介でしたよ。今頃はイギリスに護送されている頃でしょうね」
「お姉さまが……助けないと……」
「助ける? あなたはバカですか、お嬢。その前に自分の命の心配をするべきでしょう」
くっそ、この野郎……どうすればこいつを止められるんや。
――いや、これは? このスピードは……?
――この魔力は……そうか、これはキョウジの一手か。
――ならばワイがすべき事は……
「おい、山南。取引や」
「取引? そんな事を言える立場なのですか、あなたは」
「ああ、もちろんや。どうやらお前らはワイの魔力をエネルギー源にしたいらしいが、知らんのやろな。”あの”条件を。ワイはな……」
「……『ワイは』なんですか? お師匠殿」
ニヤケて見下してきた。ええで。苦し紛れに何か適当に言っているとでも思っているのだろう。もっとワイを見下せや! こっち見ろ!
「ワイは……」
――来た。間合いに入る!
「ワイはな……」
「オマタがアタマについてるねん!」
「……ふざけてるのか!」
そう、ふざけているんや。お前の注意を引く為にな!
「ワイのブラフもなかなかやろ?」
気づいてへんやろ、お前がワイに怒りを向けた瞬間……
「何だと?」
――レオンの蹴りが飛んできている事に!!
「喰らえっス! この〇×△□ДшΘ野郎!!」
その声に振り向いた瞬間、横顔にレオンの蹴りがクリーンヒットしおった! 勢いそのまま、壁に突っ込む山南。脆くなった古いレンガが崩れ、山南を埋める。これはキツイでぇ、魔力のこもった一蹴や。普通なら一週間は起きられへん。普通なら、やが。
「パトリシアさん、お師匠さん、大丈夫っスか?」
山南に向き直り、構えるレオン。
「レ……レオン? どうしてここにいるのです……?」
「どうしてっスか。それは……」
「愛の為っス!!!!!!!!!!!!!!」
……キョウジよぉ……お前また何か吹き込んだやろ。
次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑩レオン
空も飛べる気がしまス!(レオン談) 是非ご覧ください!
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