⑦【裏切り者】
何日ぶりかの顔や。いきなり姿が見えなくなって嬢ちゃんがどれだけ心配していたか。ゆうて、弟子二号の強さで簡単にやられるはずはあらへんがな。
「総司、助かりました!」
「ええタイミングやで、弟子二号!」
「お嬢、師匠も、ホント良かったでござる!」
「総司、今迄一体どこで何を?」
「実は……三回戦の前の晩、剣の練習中に襲われまして。一旦その場を離れたのでござる」
……襲われた、やと?
「まさか……デーモンに、ですか?」
「デーモン? いや、違います。四~五人の暴漢どもですが……その中に一人、漆黒の鎧を着た大男がいましてな。そやつがなかなかの手練れで、多勢に無勢で致し方なく……」
「漆黒鎧の大男ですって……? まさか、シルベスタさんが総司を?」
「ああ、確かにその名前でござる!」
「そうか、アイツが裏切り者やったんか」
「まさかシルベスタさんが……」
あのごっつい兄ちゃんが裏切りもんやったとはな~。ほんま人は見かけによらんで。
「仲間同士で呼び合ってましたからな。よく覚えています」
「呼び合ってた……? しかしなんや、よくここがわかったな」
「お嬢が小さい頃からハースト家に仕えております故、魔力の微妙な違いが判るのでござる」
「マジか~! 便利すぎや。ワイにはまったくわからへん。広域感知なら得意やけどな!」
「それはそれで便利すぎると思いますわ! 師匠の”それ”は魔力だけでなく、人の動きを感知できるのですから」
魔力感知言うても、本来は『ここから北、百メートルくらいに転生者がいるで~』位の認識しか出来へん。ワイみたいに人の移動を感知出来たり、総司の特定の人間を感知出来たりというのは滅多にない。
――そう、極めて
「とりあえず場所を変えてはいかがでござるか?」
「そやな、ワイ腹減ったで~。トマトのピザが食いたいわ~」
「え? 師匠、食べなくても平気なのでは?」
「なんでやねん、ワイも生きとるんやぞ。生きているから食べるんや! アメンボだってオケラだって……」
「はいはい、行きますわよ」
「嬢ちゃんのいけずぅ……」
しかし……セントラルパークとかタイムズスクエアとか恥ずかし気もなくようつけたな。実際はまだまだ文化レベルが追いついてへん。結局は田舎町や。まあ、そうは言うても今迄めぐってきた街よりはずっと近代的やけど。
「師匠、あの店はいかがですか?」
「おお、ワイゼリヤやないか! 異世界にも存在するんやな~。転生前、キョウジ達とよく行ったわ~」
ここがラディッシュの店や。なんやろな、ものごっつぅ懐かしい感じがするわ。
「テラス席が空いていますわね。総司もここで大丈夫です?」
「しかし、こんな見通しの良い場所で大丈夫でしょうか?」
「ワイに任せとけ~。常に感知しといたる! 疲れるけど」
「それならば、おまかせするでござる」
テーブルに置かれたメニュー表。嬢ちゃんはワイにも見やすい角度に広げてくれる。こういう細かな配慮がホントありがたいわ。キョウジなんざそこらに転がしておくからな。
「ワイは、トマトのピザとイカスミパスタや!」
「わたくしは……グリーンサラダで」
「なんや? 嬢ちゃんダイエットか?」
「ちょっと最近危なくなってきまして……ほほほほほ」
「……では拙者が注文してくるでござる」
「おう、頼むで弟子二号!」
ここはウェイターがおらんのやな。カウンターにとりに行くタイプの店や。
だが、それが丁度ええ。
(師匠、行きますわよ)
(慌てるなよ、視線が切れてからやで。動けば間違いなく感知されるからな)
(……あれや。今入ってきたあの客が間に入るまで待つんや)
(3……2……1……)
(今や!)
合図と同時に一気に走り出す嬢ちゃん。今入ってきた客が、一瞬だけワイらと弟子二号の視線を切ったタイミングや。
「さっきのバイク迄一気に走るで!」
「わかりましたわ!」
「振り向くな、一目散に逃げるんや。そこからはバイクで移動やで!」
「わたくし、乗った事ありませんが大丈夫でしょうか?」
「まあ……いけるやろ。勘と勢いでドーンとやったれや!」
「師匠らしいけど、不安しかありません……」
「さあ、盗んだバイクで走りだすんや。イニシャルD改め十五の夜や!」
「……今昼過ぎです。師匠!」
次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑧暗号
たまにはワイもええとこみせへんとな!(タクマ談) 是非ご覧ください!
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