⑥【銃弾】


「師匠、そんな事を考える頭があったのですか!? ……あら、ごめんなさい。つい本音が出てしまいましたわ!」

「嬢ちゃん酷い! ワイ泣いてまうで。これでも昔は、斬り込み隊長『ツッコミのタクちゃん』言われてだな……」

「はいはい。後で聞きますから」

「嬢ちゃんのいけず……」

「それにしても拳銃というものは恐ろしいですわね」

「あたりまえや。銃口を向けられて恐怖を感じない奴なんて漫画の中だけやで」


 『パンッ』という乾いた音と同時に、弾が嬢ちゃんの身体をかすめていった。ワイの指示通り『指さされたら直線から外れる』事でなんとか避けてはいるが、いつまでも体力が持つわけやない。


「そこや、その木陰に飛び込むんや!」


 柔道の受け身練習の如く、回転しながら木陰に飛び込み周囲を警戒。右に回り込んでいる敵が視界に入る。これは意図的に姿を見せる事でプレッシャーをかけ、魔法詠唱をする時間を取らせない様にして抑え込む作戦だ。ま、ローカルズが転生者と戦う時の“基本中の基本”戦術やな。


 右側の黒服の指先がこちらを向く。嬢ちゃんは死角の隅に捉えつつ、すぐさま飛びのき次の障害物になりそうな木や建物を探し飛び込む。

「それにしても、息をつく暇が全くありませんわね……」

「ひとり後に回り込んでいるで! 警戒や!」

「わかりました!」

「ええか、狙うのは銃やない、肩や。銃を持つ方の肩を狙うんや!」


 木陰に転がり込んだ時に拾っておいた小石に“風魔法”を付与し、正面の敵の肩を狙う! 無詠唱魔法では大した効果は期待出来ないが……まあ、ないよりはマシや。


 ――しかし


「八時方向注意や!」

 敵が見えて咄嗟に声が出てしまった……これはワイのミスや。一瞬気をとられた嬢ちゃんの投石は狙いがわずかにずれ、正面の敵の左肩をかすめ飛んでいった……


「ほう? 石投げ遊びかい? おじょうちゃん」

「なんかムカつきますわね。あの勝ち誇った顔は」


 ――直後、後ろで人の動く気配を感じた嬢ちゃんは勘で右に飛び退く。間一髪、飛んだ瞬間に直前までいた場所の地面が弾ける! 銃弾が地面をえぐった為だった。


「あぶないやないかい!」


 しかし、地面から飛び散った石粒の一つが嬢ちゃんの腕に当たり、その手に持つ石が”ポトリ”と落ちる。


「あっ……師匠。なんてこと! ”タクマさん”が落ちてしまいましたわ!!」


 次の瞬間、正面からも後ろからも銃弾が飛び交い、嬢ちゃんは石を拾いに行くどころか、その場にとどまる事すら不可能だった。咄嗟に近くの木に隠れて盾にするが、三人の銃口に狙われそこから一歩も動くことが出来ない。


「なんやと~! ワイは捕まってしまうんか~!」

「おい、回収しろ!」

 正面の男が銃を嬢ちゃんに向けたまま、他の二人に指示を出す。


「パトリシア嬢ちゃん、かまわねぇ。すぐに逃げるんだ~!」

「タクマさ~~~~ん!!」


 回収に向かった二人は何かを恐れ、拾った木の棒で石をつついてた。ローカルズの彼等にとって、転生者の存在は昔から馴染みがあった。しかし“転生した石”は流石に初めて見るイレギュラーな存在である。その為、直接触って危険がないものか考えている様だった。


「何をやっている! 早く袋にいれろ!」

 

 正面の男が痺れを切らし、再び指示を出すが……。その時、嬢ちゃんはすでに……


「詠唱完了ですわ!!!」


 ”ただの石”を袋に詰めようとしている二人の足元に穴を開け、そのまま……生き埋めにした。もちろん“あの試合”の時と同じように空気穴は開けてある。性根が優しい娘なんやな。


「セリフが棒読みでしたわね。ごめんあそばせ!」

「しかしなんやな『タクマさん』とか呼ばれるとおケツがムズムズするわ~」

「上手くいきましたね、師匠!」


「くそっ、替え玉か!」

「いやいや、ただの替え石やで~。……ん? 玉石混合ってこういう事なんか?」

「違うと思います……」


 嬢ちゃんは逃げ回りつつ、ワイに見える大きさの石を探していた。転がりながら拾い、ワイをポケットにしまい込む。そして“ただの石を”ミスして落とした”フリ”をし、勘違いさせるために『タクマさん』と叫んでいたんや。

 そして黒服が全員“ただの石”を注視する。その数秒の隙は、呪文詠唱を行うのに十分な時間だった。



「あとはオマエ一人やで!」

「逃がしましませんわ!」

「ああん? 誰が逃げるってぇぇぇ?」

 バイクの荷台から何かを取り出し、振り向きながら凄みを効かせて“がなる”黒服。


「穏便にすませてやろうと思っていたのによぉぉぉ!」

「な……、走れ、嬢ちゃん! 最大級にヤバいで、一目散や。恥も外聞も捨ててとにかく走るんや。あんなもん避けられへん!」


 黒服が取り出していたのは、拳銃よりも大きく長い銃。それはつまり……


「あれはマシンガンゆうてな、一気に弾をバラまく銃や。弾道読むとかそんな余裕あらへんで。拳銃を十丁くらいまとめて撃ってくるような感じや!」

「三人分でも必死で逃げましたのに、十人分とか無理ですわ!」

「くっくっく、死にさらせやぁぁぁ!!!!」


 『ズドドドドドドドド……』と、もの凄い音が響き、地面が、木が、そこにあるありとあらゆるものが弾け飛んでいる。嬢ちゃんは間一髪、崩れかけたレンガの壁に隠れる事が出来たが、それでも一時しのぎにすらなるかどうか? 

 レンガがどんどん削られていく。家の壁やガラスも割れ、飛び散る。


 ……まさしく、銃弾の嵐や。



「アホかあいつ。こんなん当たったらワイでも壊れるで」

「これは、本当にまずいですわ……」


 『ガンガン』と為すすべもなく削られ続けるレンガに比例して、嬢ちゃんの精神も削られていく。


「お兄さま、師匠、ごめんなさい……わたくし、護れないかもしれません……」

「嬢ちゃん!」

「……なん……ですか?」

 すでに頭のすぐ上までレンガが削られとる。凄まじい破壊音が響き、頭の上から砕かれたレンガの破片と粉が降り注ぐ。


「まだや、諦めんな。死ぬ瞬間まで諦めずに生きるんや!」

「だから……まともな事言うと師匠じゃなくなっちゃいますわ」



「……ん?」



 なんや? 急に銃撃が止みおった。これはいったい……? 嬢ちゃんは足の先に落ちているガラスの破片をかき寄せ、鏡代わりにして黒スーツのいた場所を映す。こんな時でもワイにもちゃんと見える様に、角度を調整する気遣いを見せる。


 ――そこには、先ほどの男達とは違う人影が一つ。足元にはマシンガンを持った黒服が倒れていた。


「……あれは!」

「おお、まさかの!!」

 地獄に仏とでもいうべきか? 嬢ちゃんの表情が一瞬にして晴れやかになった。それもそのはずや。そこにいたのは……



「総司、無事だったのですね!」



「お嬢、大丈夫でござったか!!」




次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑦裏切者

本当の裏切者はアイツだった! 是非ご覧ください!

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