⑤【卑怯×卑怯】
病院を上手く抜け出したのはええ。変装してニューヨークの住人に紛れ込んだのは上出来や。だがワイ、また接着されてしもうたわ。悲しいでホンマ。ワイの半身をなくした様や……。いや、実際はくっついたんやが。
「こんな時に総司がいてれくれれば……。いったいどこに行ってしまったのでしょう?」
「嬢ちゃん、不安か?」
「いえ、そういう訳では……」
「かめへん、不安で当たり前や。その年でようきばっとるで~」
こんなん失敗しても、誰も嬢ちゃんを責められへんわ。むしろあれや、責める奴おったらワイが許さへんで!
「師匠……あまりまともな事を言うと調子が狂うのでやめてください」
「マジか、ワイ今ええこと言うたで? 悲しいのう……」
「いつものままの方がずっと良いですわ!」
「そうか? しかしなんやな、ラディッシュって何だったかな~と考えていたんやけど……」
「あら、師匠の産まれた国では何てお野菜ですの?」
「大根や、だいこん」
今やっと思い出したわ。転生前、ファミレス行った時に『これが大根っておかしいだろ。土に埋まっているプチトマトじゃねえか!』とキョウジが文句言うてたな。
「つまり……や」
「つまり……なんですの?」
「イニシャルR改めイニシャルDや!」
「何か直感とでもいうのでしょうか、そのネタは封印した方が良さそうな気がしますわ。でも、それでこそいつも通りの師匠ですね!」
「マジか~。ワイもたまには真面目キャラになってみたいわ。ただでさえ石に転生してイロモノ扱いなんやから」
その時……のんびりと会話していた所に、突然不穏な動きを感じ取ってしまったんや。
「――嬢ちゃん、警戒や。何か雰囲気がおかしいで!」
「追手ですか?」
「捕捉されとる。ここを離れた方がええな。距離を取りながら相手を見極めるんや!」
「わかりましたわ!」
「ごほっごほっ、すまんのう、ワイがこんな体やさかい……」
「おとっつぁん、それは言わない約束でしょ? って、そんな場合じゃありません!」
ナイス、ノリツッコミ!
「それにしてもおかしいですわ。直接見られたわけでもないのに、何故追ってこれるのでしょう?」
セントラルパークをシュッと突っ切り、タイムズスクエアにドーンと差し掛かった辺りでとうとう囲まれてしもうた。あとひと区画先にいければ人込みに紛れ込めたのやがな。
「なるほどな~。しかしあれは卑怯やで」
「あれはなんですの? 師匠」
「オートバイ言う、ワイらのいた世界の乗り物や。自在に操作できる馬みたいなもんやな」
「それ、以前お兄さまが言っていた気がしますわ」
地球の技術文化が流れ込んできている世界やしな、向こうの情報は無駄にならんっちゅーこっちゃ。
「しかしあればガソリンで動いてないな」
「そうみたいですわね。“あれ”からは魔力が出ているのを感じます。動力源にしているのでしょう……。つまり、これらの技術に師匠を使おうという事なのですね」
「え、そうんなん? ワイが狙われとるんか。聞いてないで!」
「……話していませんもの」
「おい、ガキは殺してかまわん。とにかく石だ、石を奪え!」
「物騒な会話やな。そんな黒いもん着ているから性格も黒くなるんやで」
……それにしても、まずい。囲まれてしもたわ。
「しっかし情けないのう。こんな少女に大の大人が四人がかりなんか? オマケになんやその恰好は。黒スーツにサングラスってどこかのチンピラやないか。って……」
「師匠?どうされました?」
「……ヤバいかもしれんで。敵の動きを様見ておくんや。銃を持っているかもしれん。指さされたら、その直線上にいたらあかん!」
「銃、ですか。話には聞いた事ありますが……」
「貿易の街でな、まあ、要はそういう”武器”を使ってきた連中がおってな。恰好が似てるんや。あの盗賊団と」
――ワイらを追ってきているのは盗賊団なんか? いったいどこの国が武器横流ししとんや……? あかん、こういう考察はキョウジに任せとこう。
「わかりました。警戒します!」
「よっしゃ、ええ娘や。あとはこの囲みをどう突破するか……」
考える間もなく、後ろに回り込んでいる男がバイクで突っ込んできとる。嬢ちゃんが一瞬後方に視線を送ったタイミングで、他の三人も一斉に動き出しおった。ヤバいで~。乗り物に乗っている相手に嬢ちゃんの柔術は不利や。
「左や。左のやつが一呼吸遅れとる!」
ホンマに僅かな差なのだが。それでも大した身体能力や! 左にステップを踏んで距離を調整してからの……
「レオンの飛び蹴り! ですわ!」
「お~、完璧な蹴りやな!」
スピード出して突っ込んできたところをカウンターで胸を蹴り上げられ、泡を吹いて黒服が悶えとる。
「すり潰して差し上げますわ!」
「お、セイラの決め台詞やないか」
「見様見真似ですが、上手くいきました」
ここでハイタッチと行きたかったが……。くぅ~、今ほど手がない事を悔やんだ事あらへんわ。
「野郎!」
「ド畜生が!」
「あら、野郎でも畜生でもありませんことよ。目が腐って……いえ、脳味噌が腐っておいでですわね。おほほほほ!」
と、わざとらしく笑っておくと相手がイライラして短絡的になってくると、セイラがレクチャーしとったが、すでにものにしとるな。三人はバイクを降りると、武器を取り出し距離を詰めてきおった。
――拳銃や。
「キョウジがゆうてた。素人が拳銃で確実に当てるには5メートルが限界らしいで」
「なるほどです。ところで、目の前の人達が素人に見えますか?」
「あれはプロやな」
「では、そういう事ですね!」
「そういう事なのやろうな~」
……ヤバイって、拳銃とかあかんて。卑怯だらけやでホンマ。
「嬢ちゃん、とにかく動き回るんや。相手に狙いを定めさせたらあかん」
「わかりましたわ、師匠」
「それから、木でも建物でもなんでもええ。障害物を利用せぇ。一発でも喰ろうたら致命傷や!」
ええで、アドバイス通りに動き回っとる。敵に突っ込むと見せかけてすぐさま左右に飛びのいたり木陰に入ったりと上手いもんや。銃というものに対する知識がない事もプラスに作用しとるわ。余計な恐怖心を持たなくて済むからな。
だがこのままやとジリ貧確定……
「嬢ちゃん、走りながらでええから聞いてくれ。タクマ式戦闘術のレクチャーや!」
次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑥銃弾
またまた騙しますわ(パトリシア談) 是非ご覧ください!
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