⑩【誘拐】


 どのくらい寝ていたのかわからない。あまりに周りが騒がしくて目が覚めたのだが……


 ここ、俺の病室だよな? 四~五人のスーツ姿の男達が、病室備え付けのロッカーやベッドの下、挙句の果てに俺の荷物まで漁っていやがる。


「いったい、何を……」


 動けないと思って好き勝手やりやがって。こいつら、日本政府の連中じゃないか。


「ああ、キョウジ殿、目覚めましたか」

「ここで何をしているんだ?」

「どうやらタクマ殿が誘拐された様です」

「……はい?」

「キョウジ殿のお仲間だった娘に持ち去られたらしいのです」


 この人は何を言っているんだ? どう考えても無関係じゃないか。


「それと俺の荷物を漁るのと関係あるのか?」

「いえ、一応調べませんと。ハースト家はすでに落ちぶれ貴族で資金繰りに困っていたとか。最初からタクマ殿を狙っていたのでしょう。けしからん話です。すぐに追手を差し向けて逮捕しますので……」


「だから! タクマがどうなろうとお前らには関係ないだろ!!」


「ですが、我が国の恩人が……」

「うるせえよ。てめえらの好きにさせるか!」


 ……記憶にある。涼子を守ろうとして必至にもがいた時、頭でイメージした事が現実に起きていた。ほぼ死人であった俺の体が動いたのは多分、自分自身を魔術で動かしていたのだろう。

 その時の影響なのだろうか、そこそこの魔法なら無詠唱で発動出来るようになったみたいだ。何故元の世界で魔法が使えたのか? そして、魔法そのものは精神力次第で何とでもなるものなのか? 理論はまったく解らない。


 ただ、怒りにまかせてしまうと、セイラの時みたいに制御出来なくなってしまう。


 ――頭は冷静に。しかし、怒りは熱いままに。


 日本政府の連中をまとめて”浮かし”そのまま窓の外に移動させる。今は造作もない事だ。


「ところで外交官さん。ここ、何階ですか? ベッドから出られないのでわからないんだけど」


「キョ、キョウジ殿、やめてくだ……」

「あ、そうそう、もし俺の仲間に手を出したら問答無用で……」


 ――駆逐する。


 会話が面倒くさいのでそのまま落とした。あとは知らん。勝手にやってろ。窓から見える風景から、多分三階か四階くらいか。まあ、運が良ければ骨折くらいですむだろ。


 地獄の入口を見てきた人間に、そしてこれからその深淵をのぞく覚悟を促された俺に、そんな程度の下らない誤魔化しが通用すると思うな。


「……それで、タクマが誘拐だって?」


 部屋の入口に目を向ける。少し前から様子を伺っている者がいた。


「とりあえず状況を詳しく教えてもらえますか?」


 そこには、入るタイミングを失って途方に暮れていたエクエスさんがいた。

松葉杖をつきながら病室に入ってくる。辺りを警戒しているのだろう。廊下を見渡し、ドアをしっかりと閉めた。


「誘拐。というか持ち去られたのは本当の様です」


 荒れた病室に転がっている椅子を立てて座りながら、順序立てて話し始める。


「パティ、だろうな。あの連中もハースト家と言っていたし」

「はい。タクマさんが『高値で取引される』という噂がありまして。出所はわかりませんが、その話が関係しているのかもしれません」


「高値、ねぇ」

 さっさと売っぱらってスローライフするのも悪くない。転生スキルさえなければだけど。


「パトリシアさんが窃盗したって、レオンなんてもう、落ち込んでしまって……」

「高値って噂は本当だろう。日本かイギリスか、もしくはその両方が報奨金を懸けているんじゃないかな」

「それで今、部屋を物色していたのですね」

「今の連中は賞金を出している側の奴らだよ。パティがタクマを誘拐した裏付けをとりに来たのだろうね」


 多分セイラの言う『仕組まれていた事』は、やつらの企みだろう。日本政府も、そしてイギリス政府も、この先は敵と思って行動した方が良さそうだ。


 セイラは……どちらにつくのだろうか?


「タクマの利用価値か。確かに言われてみれば、この世界ではどの国でも欲しがるだろうな」


「タクマさんが? それはどういう……」



「順を追って話すとして、エクエスさん、先に急ぎの頼みがある」




第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合   完




次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ①タクマ

誰が敵で誰が味方なのか!? 第二部開始!是非ご覧ください!






第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合 まで読んでいただきありがとうございます。


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