⑧【記憶の重み-2】


「その罰が、俺は六十億回死の苦しみを経験する。タクマは六十億年動けずに生き続ける……。という事か」


「なのにアンタ達と来たら何の悩みもない様な顔してさ。なんで私が気にしてイライラしなきゃならないのさ」


 なんかもう、色々と否定したいが、何ひとつとして否定出来る証拠がない。“魂に刻まれた罪”なんてどうやっても証明できないだろう。これも悪魔の証明というのだろうか?


 とりあえず今聞いた事はタクマには話せない。話せないというか、口にすると認めてしまった事になりそうで、それにはかなり抵抗がある。自分自身、半信半疑なのだから。


 ……パティに預けておいてよかった。



「あと一つ、なんというか、今の話からしたらどうでも良い様な事だけど。デーモンと闘っている時『これは仕組まれていた事』って言っていたが……何か裏があって、犯人の目星がついているという事か?」

「そうね、それは正解。だけど、今は話せないかな。まだ確証は得てないから」

「かまわん。多分それは、俺達の転生とは無関係ないのだろ?」

 

 何故か解らないが、話しながら笑ってしまった。


「相変わらず鋭いね。流石だよ……キョウちゃん」


 ……少しだけセイラの表情が柔らかくなった気がした。



「取り合えず、俺自身の事はカドミに会わないと解決しないって事か」

「それに関しては約束するよ。間違いなくカドミには会わせる」

「ああ、頼むよ。あの野郎に問いただすまでは何度でも生き返ってやるわ!」

「だけど、すぐには無理だから。今は歩くことも出来ないでしょ? それに、カドミはまだしゃべれないし」


 しゃべれない? どういう意味だ……?


「その傷、しっかり治しておいて。半年もしたら会えるようになると思うよ」



 カドミのドッグ・タグに刻まれていた文言と何か関係があるのだろうか? アイツのスキル名は【loop】

 ただその一文字だけだった。



「じゃ、私は一旦イギリス領に戻ってくる。調べたい事があるからね」

「あの極秘文書の件……デーモンには十分気をつけろよ」

「あれ? キョウちゃん心配してくれるんだ。珍しい」

「はあ? 俺だって人並みに周りに気を遣うわ!」

「その元気なら回復早そうね。半年くらいしたら戻るから」

「あ、あと……すまん、顔に傷をつけてしまって」

「え~、本当に気を使えるようになったんだ。まあ、いい事じゃないかな」


 じゃあ、またね~。と軽い挨拶で病室を後にするセイラ。


 しかし、それにしても……すげえ重い話をされたんだよな。多分全てカドミからの情報だ。そこに嘘はないと思う。そして、現時点で明かせる事は明かし、この先は『俺に逢いに来い』という事なのだろう。


 それにしても、なんだよ六十億回とか。死んで転生して、そこから戻ったらまたこの体だろ? って事は、例えば老衰とか火山の火口に落ちて死んだとかしたら、戻った瞬間にまた死んで転生して十二時間したら死んで戻ってまた死んで転生して……やばい、こっちの方がloopじゃねぇか。


「死に方には気を付けましょう。なんてシャレにもならんぞ」


 だけど、やはり辛いな……涼子との記憶が偽物だったとしても、人としての存在は現実だったし、俺の目の前で誘拐されたのも現実。今の俺には何も出来ないのも現実。そして安否を知る手段がない。


 セイラの煽り文句も、正直かなり身に応えている。死ぬたび涼子の記憶を……彼女の涙を思い出し、更にはこの先、六十億もの記憶を繰り返し背負わなきゃならないのか……



 部屋に一人で良かった。 

 いつの間にかあふれ出していた涙が止まらない。 


 左手首を握りしめながら。


 重すぎるんだよ……



「こんなもん、背負えねぇよ……」




次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合 ⑨水面下

パティ、君まで…… 是非ご覧ください!


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