⑦【記憶の重み-1】

「なんだって?」

 流石にこれは想像すらできない話だった。


「この世界そのものが罰なのよ。殺人を犯した者が死んだとき、記憶を奪った上でここに転生させられるんだ。

 そして、転生者はこの世界で二度目の生を謳歌し、死ぬ瞬間、転生時の死んだ記憶と悔やみ、悲しみ、痛みや恐怖をもう一度与えられる。

 つまり、罪を犯した人間に、転生という”もう一度生きる希望”を与えておきながら、死ぬ瞬間にはその何倍もの苦しみを与えて突き落とし無に還すという、最低最悪の罰」


 ……どう答えていいか解らない。考えが及ばないとはこういう事なのだろう。それでも一つ解ったのは”さっき”俺が死んだ時にフラッシュバックしてきた恐怖と苦しみがそれなのか。 


 それにしても、明らかにおかしい事がある。


「俺は……俺もタクマも、人を殺したりしてないぞ」

「”魂に刻まれた罪”と言ったでしょ?」

「だからそれは何なんだよ?」

「それ以上は、カドミに直接聞いてくれる?」


「じゃあ……」

「私は殺人者じゃないよ」

 ……質問を読まれた。いつも通りの推察力。 


「だけど、それならなぜ転生しているんだ?」

「何事にも例外はあるって話をしたでしょ。その辺りから切り崩そうとしても無駄だから」


 セイラの転生の秘密が、カドミの思惑を知る手掛かりになるかとも思ったのだけれども……こうなると間違ってもセイラから情報は出てこないな。



「転生そのものが罰……それが真実と仮定して、だ。それなら俺はデーモンに殺された時に転生前の死の記憶がフラッシュバックして死ぬんじゃないのか? 何故地球に転生して生活して殺されて、またこの世界にいるんだ?」


「その答えの前に……わかっていると思うけど、アンタが死んでいる間にドッグ・タグを確認させてもらったよ」


「ああ、問題ない」

 タクマには見せられない内容だが、セイラの性格ではわざわざ他人に見せるような事はしないだろう。タクマは六十億年もの間、自分で動くことが出来ずに生き続けなければならない。これは『呪いだろう』と思っていたが、まさか”罰”だったとは。


 俺のタグに刻まれていた固有スキルは……


【Reincarnation-sixbillion】


 転生―六十億。今の話と合わせるとこれは……


「六十億回転生するって事なのか?」


「そういう事になるだろうね。六十億回、死の苦しみを感じながら死ぬんだよ。回数を重ねる毎に、それまでの死の苦しみや後悔を全てフラッシュバックさせながら。そしてそれはアンタだけの罰。他の転生者はこの世界で死んで無に還るけど」


 ……滅茶苦茶すぎるだろ。ここまでデカい数字を言われたら、実感なんて沸く訳がない。何をどうするとかのレベルの話じゃなくなっている。


「涼子の事も、この先ずっと後悔として死の瞬間に……」


「さっきからその名前出しているけど、いったいその人とどれだけの付き合いがあったと思っているの?」

「話しただろう。会社に入った時に……」

「違うよ。それは違う。アンタとその人は十二時間しか付き合っていないんだ」

「なに訳の分からない事を……」

「じゃあ、聞くけどさ。告白したのはどっちから? 初めてデートした場所は? そもそも入った会社はどこ? 高校は? 大学は?」


「それは……」


「どう? 一つも答えられないでしょ」


 確かに、どんなに必至で記憶をたどっても何ひとつ出てこない。続けてセイラは堰を切った様に吐露し続ける。


「この世界で死んだ瞬間にアンタの固有スキルが発動して転生した。でもね、転生って何? 転生先に用意されていたアンタの人間関係や成長過程はどうなっているの? 親の記憶はある? ないよね? つまりは、転生した時に”偽物の記憶”が植え付けられているって事なんだ。

 だからそのリョウコってのも、転生した時に書き換えられた幻想みたいなもの。だけどね、元の世界に転生しても十二時間で死ぬんだよ、アンタは。その幻想が事実として記憶に植え付けられて、そしてこちらに戻ってくる。苦しみと後悔を引きずったままね」


 到底信じられない内容だ。だがこれで、先ほどセイラが俺を煽った理由が判った。俺に、怒りの感情を持たせようとしたんだ。気を張らせる為に……そうでもしなければ、こんなとんでもなく理不尽な話をされたら潰れてしまう。




「アンタは、アンタ達は、キョウジもタクマもカドミも、人類史上類を見ない“稀代の殺人者”なんだよ」




次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合 ⑧記憶の重み-2

理不尽過ぎる現実。それでも抗えるのか? 是非ご覧ください!

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