④【カウントダウン】


 薄れゆく意識の中で必死に考えていた。



 まずい、なんとかしないと……



『諦めたらそこで試合終了やでぇ!』



 こいつらを…… 



『大丈夫! あなたなら出来るわ!』



 こいつらを止める!




 ――左腕が動いた。 


 何故動くか解らないが、頭で思ったように動いている。Gの足首をつかむ。殺したと思っていた相手が動き、たじろぐG。しっかりつかんで離さない。自分でも理由が解らないほどの握力だ。


 次に考えたのはGの手から包丁を叩き落とすイメージだった。瞬間、手首から血を流し、包丁をその場に落とした。かまいたちみたいなものなのだろうか? 何かが手首を切裂いたのが見えた。


 多分頭の中では他にも色々考えていたのだろう。Gに喰らわされたスタンガン、あれさえなければ……もっと注意深ければ。『反省はするけど後悔はしない』なんて普段偉そうにうそぶいていたけど、これは完全に後悔だ。悔やみが頭の中を駆け巡る。

 しかし、それがトリガーになったのだろうか? 足首を掴んでいる左手の親指と中指の間に電流が発生した。Gの悲鳴か何か聞こえた気がした。その場で膝をつき、嘔吐えずいている。


 このまま、涼子の後ろの男も捉えられれば……



 そこまで届けば……



「ちっ、仕方ねえなあ」

 言いながら、黒づくめの男がこちらに近づいてくる。


 こいつも捕まえないと――


 しかし、奇跡はそこまでだった。 



 男は俺の腕を蹴飛ばす。その拍子にGの足から手が離れた。すでに頭はまったく働かず、不思議な現象は止まってしまった。とっくに限界は超えていたんだ。


 ……今は眼前の出来事をぼやけた目で見るだけしか出来なかった。



 だが次の瞬間、黒づくめの男は手に持った短刀でGの喉を刺した!


「ぅえ……なんでだよぉ?」


 空いている方の手で髪の毛をつかむとそのまま首を回し頸動脈をかき切る。自分には血がかからない様にしてからの刻薄。黒づくめの男は“そういう事”に慣れているのだろう。

 そしてGを始末した短刀を、指紋が付くように俺の手に握らせてから数メートル先に投げる。


「仲良く死んどけ」

 そう言い残すと車の後部座席に乗り込み、涼子を拘束したまま、走り去った。



 ――痛みと苦しみと闇が俺を支配していく。


 彼女を守れなかった……


 誰か、誰でもいい、助けてやってくれ。



 もう呼吸すら自分では出来ない。その時、左目のぼやけがはっきりしてきた事に気がついた。


 ……これは、数字だ。 


『00:37』

『00:36』

『00:35』


 カウントダウンしている。朝からずっとカウントしていたのか? いったい、これはなんだろう……? 不思議な現象と何か関係あるのだろうか?


 もしかしてこれは、俺の寿命なのか? ……ダメだ、疑問ばかりで訳が分からなさすぎる。


『00:12』

『00:11』

『00:10』


 十秒を切った時、全ての記憶が頭の中で動き出した。


 ――列車事故で死んだ事

 ――異世界に転生した事

 ――デーモンに心臓を貫かれて死んだ事


 痛み、苦しみ、後悔。


 俺は……すでに二回死んでいる。

 

 そうか――”また”なのか。


 その時の、死んだときの苦しみや痛みがフィードバックし、涼子を守れなかった後悔と死を目前にした悔しさの上に、幾重にも積み重なって圧し潰してくる。




『00:02』




『00:01』




【00:00】






 ――無。





次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合 ⑤転生の真実-1

いま明かされる、驚愕の真実! 是非ご覧ください!

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