㉕【Unique Skill―固有能力―】


 時間にして三十分くらい経った頃か。炎が弱まってくると同時にドームが崩れ始めた。所々に虫食いのように穴が開き、広がり、そのまま何もなかったように消えていく。最後にはドーム状の溶岩石だけが残った。それは物理的に発生したものなので、精霊を還した後も残り続ける。


「う~ん、流石にコレの処理は行政に丸投げしとこう……」


 それにしても、二重魔法陣は組み合わせ考えて使わないと危険すぎるな。溶岩まき散らしながら闘うとかリスクの方が大きすぎる。


 フィールド上の焼け跡には人々が殺到していた。皆で協力してデーモン三体を丸焼きにしたという現実と、そもそもデーモン自体にも滅多にお目にかかれないのだから、この場にいる転生者が興味を持つのは仕方がない事だろう。

 写真を撮っている人もいるが、あんなグロいものを撮ってあとで後悔しないのだろうか……



「これが、魔道具アーティファクトというものですか?」

 足を引きずりながらエクエスが問う。


魔道具アーティファクト“だった”ものね」

 完全に破壊された魔道具アーティファクトであった物体をさしてセイラが答える。壊れる前の形状は、ピルケースの様な小さな蓋付の箱といった感じだった。



「それにしても……タっ君……」

「師匠……こんなになってしまわれましたのね……」

「黒こげですね……というか、この石はなんスか?」


 ……タクマは真っ二つにわれていた。そして、長時間業火に焼かれ真っ黒コゲであった。


「何かを得るには何かが犠牲になるのは世の常。仕方ない事なのだろう……」

「師匠……もっと色々教えていただきたかったですわ」

「パトリシアさんの師匠だったのですね。残念っス……」

「静かな場所に持って行って埋めてあげなきゃね」



 ――合掌。




「………………」



「………………オマエら………………」



「勝手に殺すなっちゅーねん!」

「勝手に殺すなっちゅーねん!」



「師匠! ご無事でしたか!!」



「無事なわけあるかい!」

「無事なわけあるかい!」


「真っ二つになってしまったわ」

「真っ二つになってしまったわ」


「どないしてくれんのや!」

「どないしてくれんのや!」



 マジか……タクマが二人になってる。いや二人というよりも一人が二人いるという……うん、わけわからん。



「まったくイキナリ投げおってからに。その前に一言話通せや!」

「まったくイキナリ投げおってからに。その前に一言話通せや!」


「いや、話したら絶対に嫌がるだろ?」


「当たり前や! アホかお前は!!」

「当たり前や! アホかお前は!!」


流石にこれはウザイな。鍛冶屋でも見つけて溶接してもらおう。……ついでに口も塞いでもらうか。


「これはいったい……何事なんで?」

 シルベスタの疑問はもっともだ。だが説明はセイラに丸投げしとく。


 割れたタクマは独立した個体ではなく“まったく同じ個体が二つ”になっていた。つまりやかましさが二倍って事だ。左右に置いたら完璧なステレオ再生か? とも思ったが、まったく同じ音ではモノラル音源と変わらない。


「はあ、勘弁してくれ……」


「する訳ないっちゅーねん。死んだらどないすんのや!」

「する訳ないっちゅーねん。死んだらどないすんのや!」


 まあ、こいつは絶対に死なないからな。”その点だけは”安心して火山の火口に放り込む事も出来るわ。


 転生してきた時にポケットに入っていた“Dog tag”。これに名前と別に、裏にある文言が書かれていた。



 ――Unique Skill――その人のみが持つ唯一無二の能力。



 タクマの能力は【Unbreakable-sixbillion】

 アンブレイカブル―シックスビリオン:直訳すると破壊不可能となるが、意訳で不死という意味になる。sixbillionって聞き馴染みが無かったので、この間セイラに聞いてみたら『六十億』という意味らしい。……六十億年死ねないという事なのか?


 石に転生し、自分では動くことが出来ず、その上“不死”。これはむしろ、とんでもない拷問ではないか? と思う。だからこそ俺は、この事をタクマには話せないでいる。

 それが正しいかどうかはわからない。タクマ本人は「知りたかった」と考えるかもしれない。しかし……それでも俺は、伝える事が出来ない。



 Unique Skillの表記は、俺にもカドミにも記載があった。俺の能力は……



 ――ドスッ



「キョウちゃん!!」

「お兄さま!!」



「え……?」  

 俺の左胸から黒い鉤爪が出て……? 黒コゲのデーモンから……攻撃され……まだ息……あったのか……完全に油断していた。何度も何度もパティから『集中して!』って怒られてたのにな。終ったと思い込んで背を向けてしまっていた。


 ――貫かれた瞬間、心臓って右だっけ? 左だっけ? 右だったらセーフかもしれないけど。なんて事が頭をよぎっていた。 


 ――足元が真っ赤だ。血? 真っ赤な血って動脈の血だよな。というか心臓貫かれたのなら動脈も何も関係ないな。あれ? 左だっけ?


 ――まだ僅かに鼓動を感じる。だけどそれ以上に、吐き気が凄くする。血が食道から逆流し吐いてしまった。アニメとかで「ぐはっ」とか言って吐くシーンがあったけど、実際何の声も出せないもんだな。 


 ――血が気管にも入ったか。呼吸が出来ない……意識が段々遠のく。遠のきながらも窒息の苦しさがずっと追いかけてくる。右だったらセーフかもしれないけど。 窒息の苦しみって嫌だな。頭痛もしてきた。



 ……あれ? 俺いつの間に倒れてる? 

 ……この水、暖かいな。 

 ……ああ、俺の血か、これ。



「キョウジ、おま……

「キョウジ、おま……

「お兄さ……



 音が聞こえなくなってきた……





 器が壊れたら魂がこぼれ落ちるのは当たり前の話か。

 まだ、死にたくなかったな……







 最後に俺の目に映ったのは――







 必死の形相で何かをしゃべっているパティと







 冷めた目で俺を見下ろすセイラの姿だった。




  





第三章【Existence Vessel】-魂の器-   完





次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- Down Side:不都合 ①新宿・春

死んでしまったキョウジはどうなったのか? 怒涛の急展開! 是非ご覧ください!

※4章は2部構成です。



第三章【Existence Vessel】-魂の器- まで読んでいただきありがとうございます。


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続けて読んでいただけたら涙流して踊ります(/ω\)

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