⑩【遊撃隊】
「たった二十秒でいいの?」
本音とも強がりとも取れない事を言う。
「ああ、十分だ! この腕が不安だが、とにかく一発かましてみる」
俺の腕を気遣ってなのか解らないが、セイラは笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫、あなたなら出来るわ!」
……その名前でそのセリフはいろいろヤバいぞ。
俺は魔法三系統の中でも“召喚術”が一番得意だ。召喚士としての魔法は、それ単体では魔術師みたいな汎用性も精霊使いみたいな破壊力もない。“精霊を召喚する”この一点のみに特化しているものだ。召喚をするには、言わば儀式が必要で、それには魔法陣を描く必要がある。
多くの場合は布等にあらかじめ描き込んである魔法陣を使う。過去には一回一回描いていたらしいが、文明が進むとはこういう事だろう。他にも小石を特定の場所に配置することで簡易的な魔法陣にしたりするケースもあったらしい。
だが、魔法陣に少しのズレがあっただけでも不完全な召喚となってしまい、力を発揮出来なくなる。更には、呼び出している間ずっと“術士は魔法陣から動くことが出来ない”というリスクがあった。
そう……召喚士は、魔術師以上にパーティーメンバーに依存してしまうのである。
その為召喚術が得意でも、普段の冒険や開拓の仕事においても使う事は滅多にない。ではなぜ、そんなリスクの塊のような魔法が廃れずに残ってきているのか?
――その理由は【魔導練書】にある。
ガッチリと製本されたこの書には、魔力を帯びる性質の素材が使われている。表装は地味なものからド派手なものまで多々あり、完全に術者の好みで選ばれる。そして、そこに召喚した精霊を宿す事で本がゴーレムに“変質する”
『変形でも変体でもなく、物質自体が変わってしまうから変質なんだ!』
と、俺が転生したばかりの頃に魔法ギルドの長が熱弁していた。余談だが。
大きさは7メートル程度、事前に本に描き込んだデザインで具現化される。つまり、昔テレビで見たロボットをも具現化させる事も出来るのだ。もちろんそんなオリジナリティの無いデザインは描かないが。
弱点はと言えば、発動までに時間がかかる事と、呼び出すだけで魔力の大半を持っていかれてしまう事。
「しかし今なら!!」
セイラが時間を稼ぎ、魔力が全く枯渇しない今なら、この一手で逆転が可能だ。魔力を地面に焼き付けて“一瞬で”魔法陣を描く。タクマの魔力供給がなければこれだけでもかなりの消費リスクを伴うだろう。
――そして、詠唱に入る。
横から、後ろから、魔法陣の中で動かなくなった俺を倒そうと盗賊が襲ってくる。
だが、セイラのナイフはそいつを一人一人確実に倒していく。
俺は最初、セイラは魔術が得意なのだと思っていた。魔術でナイフを飛ばして、攻撃に、防御にと自在に使う。それ故、空間認識能力が著しく高いのだろうと思っていた。だが、それは見当外れだった様だ。
ナイフが“弧を描いて”優雅に飛ぶ。
魔術で飛ばしているのなら、弧を描くというよりも“直角に近い角度で”ナイフは曲がる。力の入る方向が真っすぐから右に切り替わったら、弧を描くという動き方はしない。慣性で少し膨らむくらいだ。
しかし、セイラのそれは自力で飛んでいるような弧線を残して曲がる。つまりセイラが使っているのは魔術ではなく、俺と同じ“召喚術”という事だ。
多分、風の精霊を多数呼び出しナイフに付与、それぞれに簡単な命令だけ与えて好きにさせている。という事だろう。いわば小さな遊撃隊だ。
そしてそれに加えて、命中率の高いスローナイフと、時折混ぜる心理戦。これらを同時にこなしているのは、なんだかんだ言っても身体能力は格段に高いのだろう。謎なのは、召喚の為の魔法陣を全く使っていない事だが……
「――よし!」
小さく洩らした俺の一言でセイラが距離をとった。同時にナイフが俺の周りを護衛するかのように格子状に飛ぶ。ほんの数秒の間でも盗賊に襲わせる気を起こさせないためだ。
「さあ、覚悟してもらおうか!」
瞬間、魔法陣の周りに螺旋を
ゴーレムとしては細身ではあるが、パワーとスピードの両方を活かせるバランスに仕上げている。
「キョウちゃん、やるわねぇ~センスいいわ!」
セイラが7メートル強のファイアゴーレムを見上げて感心したように言う。まあ、この厨二デザインになるまで何度も書き直したからな~。自信作です!!
――そこからはもう無双状態だ。
セイラの作ったナイフの格子には誰も近づけず、それでいて圧倒的なゴーレムの力を一方的に見せつけられる。地面を殴る。轟音とともにえぐれ、炎をまき散らし、大地を揺らす。それだけでも敵は戦意を削がれていく。
手首や足首からは常に炎を吹き出しており、さながら“伝承で聞くイフリート”と言った様相であった.
本来ゴーレムやロボットには不要な要素だが、あえて
「グゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ・・・・・・・・」
雄たけびを上げさせた。
生き物ではない異様な声が辺り一面に響く。言わばダメ押しの一手だ。これでほぼ決着はついた。
手下どもがなすすべもなく蹂躙され、その上“この世ならざる者”の雄たけびを聞かされ、カシラも領主も、そして騎士長ですらも呆然としている。
「まだやる? こういうの私も出せるんだけど、どうするのかな?」
と、セイラは言いながら、足元に魔法陣を描くフリをする。雑なハッタリだったがこの状況だ、効き目は抜群だった。その場にいる者は皆、へたりこみ呆けていた。
「さて、こいつらどうやって拘束しようか?」
こんな大勢分のロープ持ってないぞ。……それに体力も限界だ。
「大丈夫、丁度今来たみたいだから」
と、正門に視線を向ける。そこには、数十人の警官隊と、何やらスーツを着込んだ偉そうな人がちらほらといた。
「……誰デスカ?」
キャラ?イラスト
キョウジが操る炎のゴーレム
→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330651042429402
次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ⑪Dog tag
是非ご覧ください!
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