⑨【逆転の目】



「丸豚よう、そんな邪険にすんねい。俺とお前の仲じゃねえか」

「う……うるさい! オマエなんか知らん、知らんぞ。殺せ、コイツとコイツらを殺せ!」

「死人に口なしってか? 丸豚、それはお前がやった事だろう?」

「な…なに……を」

「俺に前領主を暗殺してくれと泣きついてきたのは、お前だよな? 丸豚」

「知らん、知らんぞ!」


 あ~……面白いほど動揺している。これは確定と言っても良さそうだ。


 オカシラと領主が昔話に花を咲かせている間に、俺はこっそりと携帯用のモルヒネを打つ。これで少しは右腕も使えるだろう。剣を持つのは無理でも魔法ならまだいける。

 モルヒネとはいっても転生前の世界の薬品ではなく、この世界で野草を元に作られている旅用の鎮痛剤だ。何となく転生者がそう呼んでしまっているというだけの別物である。


 しかしそれにしても……この二人の会話を聞いているだけで、俺達の苦労はなんだったのか? と思えてくる。


 現領主は前領主を暗殺した。

 盗賊とつながりがある。

 女好き。


 ……罪状疑いは全て真っ黒だった。


「なんだかなぁ……」

「なんやろなぁ……」


 結局の所、オカシラは盗賊団の資金繰りに苦労し、昔受けた仕事の依頼主に金をせびろうとしたらあっさり断られ逆恨み。

 領主は領主で暗殺依頼の事実がばれる前に盗賊団を皆殺しにしたくて躍起になっていた。という事らしい。

 犯罪に対して過剰なほどの対応をしていたのはこのためなのだろう。それが良い評判となっているのだから、世の中何とも面白い。


「まあ、言うほど笑える話じゃあらへんけどな~」



 盗賊団の計画ってのは……ニセの”盗賊目撃情報”を流し、操作をかく乱しながら壁の外の森から館裏の林までトンネルを掘り勧める。そして“館裏手で騒ぎを起こして正門から攻め入る作戦”を決行したのが今日。という事だ。 

 しかしセイラと鉢合わせして戦闘になるも、結果として壁を壊す事になった。だが、予定より早い爆発音を聞いたゴロツキどもが慌てて正門から入って来たら俺と鉢合わせした。と。


「なんだかなぁ……」

「なんやろなぁ……」


 ……今回ボヤキっぱなしだ。



「まあ、そんなわけだ」

 カシラが懐から黒いサングラスをとり出し、かけながら決め台詞のよう言う。


「今日からこの館は、俺らラフィンストーンがいただくぜ!!」



 なんだと……。ラフィンストーンって、笑う石って意味だよな。って事はアレか、警備兵にタクマを見せて『石が笑う』とか言ったのが悪手だったという事か。


「聞いてないぞ……」


 思わずつぶやいてしまった一言に、律儀にセイラが反応する


「言ってないもの」


 ――セイラの周りにはナイフが十本飛んでいる。そのナイフを自在に操り、敵を威嚇したり死角から攻撃したり、縦横無尽といった様子だ。多数相手が苦手なキョウジには非常に心強い魔法能力である。 

 将棋や囲碁では一度に複数の盤上で闘う事が出来る名手もいるらしいが、セイラのそれは次元が違った。十本のナイフに魔力を込めて立体的に、多角的に、同時に操作するのはとんでもない手練れと言えるだろう。


「来るぞ……」


 カシラの見得切りを合図に、ラフィンストーンと騎士団、そして俺達の三つ巴の戦いが始まった。この戦いは、幸いにも背中を預けられるやつが味方だ。セイラがナイフで威嚇し、俺が魔法で倒す。俺が魔法で足止めし、セイラがナイフで筋を斬る。


 ラフィンストーンのリーダーは部下を焚き付けて好きに暴れさせている。指揮も何もない、チンピラの喧嘩と言った感じだろうか。

 それに対し、騎士団のリーダーは盗賊団を領主に近づけないように部下を指揮して奮戦している。そのおかげで俺達に向かってくる鎧兵がいないのが二つ目の幸運。


 しかし、戦いは完全に消耗戦に突入していた。こうなると一番不利なのが俺達だ。

いかに魔法を使えるとは言え、ここまでの戦力差を覆せる状況は滅多にない。



 いい加減魔力も尽きてくる。それはセイラも同じだろう。ここまで魔法を使った事は今までに一度もなかった。 疲労感から睡魔の影が見えてくる。


 ――だが、ここで違和感を覚えた。違和感なのか疲れからのトリップなのかわからないが……


「セイラ、お前……魔力減ってる?」

「何それ。当たり前で……あら?」


 そう、魔力が減ってないのだ。俺も、セイラも。必死で、目の前の敵を無力化している事だけに集中していた為気が付かなかったが、あれだけの魔法を行使しながら魔力自体はまったく減っていない。体力はもう限界に近い。その疲労感が“魔力も消費している”と錯覚していたのだろう。


「諦めたらそこで試合終了やでぇ!」

 

 突然タクマ。どこかで聞いたセリフってやつだよ、それは!


「キョウちゃんそれ!」

 セイラに言われてタクマを見ると、例の割れ目から薄緑のモヤが出ているのが見える。 


「これってまさか……」


「「魔力ばらまいているのか!!!」」



 タクマは転生時、人間というステータスを失う代わりに膨大な魔力を得ている。その魔力量は、過去においても、そしてこの先何千年経っても誰一人として得ることの出来ないであろう膨大なもので、世界そのものを破壊出来る程の未来永劫伝説に残る“神とおぼしき”潜在量であった。


 しかし……魔法使用時には簡単な動きではあるが手指等で魔法の操作を行う。発動させてから放出方向を指す! と言った程度の事ではあるが、石であるタクマにはそれが出来ない。その為“超伝説級魔力”は無用の長物と化していた。


 だが、今はその魔力が垂れ流し状態にあり常にキョウジとセイラに補充されている状態。



「なるほど、超級無限大の魔力貯蔵量のタクマからひたすら魔力供給を受けているのなら、魔力が全く減らないのもうなずける」



 ――ならば! ここから逆転の目がある!




「セイラ、二十秒稼げるか?」




次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ⑩遊撃隊

ここからだ!〇〇〇〇召喚して、ここから一気に巻き返す!  是非ご覧ください!



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