⑧『命は 転生前も 今も 変わらずに重い』

 「なんやキョウジ、こいつ等ってもしや?」

 「ああ、そんな感じラッキーだな。こいつ等、リーダーがいねえ」


 これなら何とかなりそうだ。正門の敵は二十人程いたが、各々が適当に斬りかかって来るだけで統率性が皆無。その為剣技が未熟な俺でも、とりあえず三人は切り伏せる事が出来ていた。まあ、未熟とは言っても“冒険者として”という前提はつけさせてもらうけど。


 ……これなら数秒の詠唱は問題なさそうだ。


 それだけあれば中級程度の魔法なら撃てる。風魔法で残りのゴロツキを吹き飛ばし、押し倒して分散させ、各個撃破に持ち込めれば勝機はある。剣を顔の高さにまで上げてゴロツキ共に向ける。これは剣と腕で口元を隠し、詠唱を気取られない様にするためだ。

 

 ……あっけなく詠唱完了。こいつ等、俺を転生者だと判ってないのか? まったく警戒しないとか別の意味でヤバイな。もしくは、魔法を恐れていないという事かもしれないけど。



 しかし、魔法を撃ち出す瞬間、俺の後方、館の入り口がゆっくりと軋む音を立てながら開き始めた。何か悪い予感でも働いたのだろうか? 咄嗟に扉に向けて風撃魔法エアリアル・バレットを放ってしまった。

 本来それほど威力がある魔法ではない。空気の塊が周囲の物を吹き飛ばしたり倒したりと言った程度のものだ。しかし、館のエントランスという“狭い”空間に風の塊をぶち込んだため、風の逃げ場が無なく圧力が増し、重鎧兵をも押し倒す威力になってしまった。


「何や、また厄介そうなのが出てきたなあ」

 なんとか体裁を整えようとしている兵士を見ながらタクマが呟く。


「思わず撃ってしまったぞ……」

「まあ、ええんやないの? どっちにしてもここには敵しかおらんし」


 確かにタクマの言うとおり敵だらけだ。ただ救いは、目の前のゴロツキと後の兵士は、何をどう考えても仲間同士ではない。ならば立ち回り次第で両者の衝突から抜けられるかもしれない。


 ……と、思っていた時期もありました。


 目の前のゴロツキと館の兵士達。その中心に俺。前後からの異様な殺気に挟まれる。さて、どう切り抜けるか? 少しでも余力を残しつつ立ち回らないと……



 この世界には攻撃魔法はあるが、俗にいう“回復魔法”なんて便利なものは存在しない。その為、体力は休まないと回復しないし、ケガは病院でしっかり治癒しなければならない。ましてや死んだ人間が生き返るなんて事はない。



 ――命は 転生前も 今も 変わらずに重い



 館から出てくる兵士達。横に広がりゴロツキを囲みこむ。もちろんその中には俺も含まれていた。風撃魔法エアリアル・バレットをぶち込んだことで敵視を集めてしまったのだろう。

 その兵士達の隊長と思しき先頭の男が、俺に向けて剣を構えている。敵の中で一番厄介な者を一対一で抑え、兵士が雑魚を制圧した後に囲んで打ち取る。と、言った基本戦術の一つだ。

 しかしこれは……よほど腕に自信があり、その上仲間の信頼が無ければとれない作戦でもある。


「ヤバいのに目を付けられたかも……」


 何とか囲みから抜け出して、少しでも有利な形に持って行かなきゃ。ここは無駄な挑発は避けて、右か左か抜け出すルートを探るのが良さそうだ。

 しかしゴロツキはそんな事おかまいなし。威勢だけはよく吠える。


「おうおう、てめぇら。俺達を誰だと思ってやがる!!」

「俺達はなぁ、悪名高き……」

 ……勘弁してくれ。兵士は俺をアンタらの仲間と思ってんだぞ。




「――キョウ、伏せて!!!」


 突然響く声! 事態を確認するより先にその場に伏せる。声の主はセイラに間違いはない。ただ、声のトーンから危険を察し、咄嗟に体が動いていた。俺から見て正面右、対峙している隊長のすぐ左側。


 突然、爆発とともに、数名の兵士が吹き飛んだ。


 瞬間、手や腕で防ぎはしたものの、爆発は言わば“手榴弾”と同じ原理で小石や砂利を爆風とともに飛ばし、俺の全身を、特に右腕をズタズタに切り裂いた。


 ……顔をあげると、こちらに走ってくるセイラが見える。


「なんや、アイツあんな魔法使えたんか!?」

「……いや、違う」


 何が起こったかわからずにいる兵士達。それは俺も同じだが、幸か不幸か、腕の痛みが意識をしっかりと覚醒させていた。


 セイラの後方、館の角。片膝付いた男がこちらに大きな筒を向けている。

その筒の先からはうっすらと煙が立ち上っていた。


「オカシラ!!!」

「うおおおお、すげーぜ!!」

「ざまあみろ!」

 ゴロツキどもが一斉に勢いづく。どうやら向こうにいるのがこいつ等の大将で、この爆発は……肩にかついでいるあの筒は、この世界で製造された“バズーカ砲”みたいなものなのだろう。どこの国かは知らないが厄介な技術を持ち込んでくれたものだ。


「兵器とかあかんて。卑怯やでホンマ」

 これには、さすがにタクマもボヤいていた。 


「キョウ、大丈夫?」

「……様、をつけ忘れてるぞ」

「その軽口なら問題なさそうね」

 ニコッと笑う。


「言ってくれるじゃねえか」

 ニヤリ、と笑い返す。


 裏手は裏手で大変だったみたいだ。涼しい顔と対照的に息が上がっているのがわかる。ブラウスが汗で体に張り付き、パンプスや裾は砂まみれだ。

 しかしそんな状態でも背筋を伸ばして颯爽と立つ。不利な状況がわかっているからこその虚勢だ。乱れた髪をかき上げると、汗がキラキラと輝く。


「ちょ、汗飛んでるって。」

「あら、美女の汗を浴びるなんて滅多にないんじゃない?」

「そういう問題じゃねぇ!」

 平然と自分を美女とか言う女って、いったいどういう性格してんだよ。



 館の扉の中からやっとの思いで領主が出てくる。扉を開けようとしたら突風が吹き、直後大爆発がおき、まったく状況がわからずに出てきてしまっていた。

 足元に開いている大穴。

 焦げて倒れている兵士。

 悪態をついているゴロツキ。

 しかし……そんな事よりも領主の目を捉えたのは、目の前の見知った女の姿だった。


「ま、またキサマか、この疫病神め!」


 ちらりと一瞬だけ視線を動かしたセイラが言う

「あら、ご機嫌麗しゅう。その後お加減はいかが?」


 なるほど、紙おむつを五枚くらい重ねて履いている様な膨らみ切った下半身は、セイラがすり潰したナニかを治療して巻かれている包帯なのだろう。


「ゆるさん、許さんぞこの……」

 と、領主が言いかけた時。


「おう、ひさしぶりだなぁ、丸豚よ」

 ゴロツキどもが“カシラ”と呼んだ男が話に割って入ってくる。丸豚というのは、この領主の事だろう。言い得て妙、と言ったところだ。

 カシラはいかにもと言った感じの全身黒づくめ。悪趣味な事に、ネックレスや腕時計で所々金色に光っている。


「き…き…キサマ……騎士長何をしてる!! 捕まえろ! とととととらえろ! 盗賊どもを殺せえええ!!」


 明らかに動揺しきっていた。目の前にいる、それも、たった今敵意を向たばかりのセイラを忘れるほどに。





次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ⑨逆転の目

圧倒的不利な状況に追い込まれるキョウジ達!そこにある逆転のチャンスとは? 是非ご覧ください! 



ここまで読んでいただきありがとうございます。


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