⑦【報酬】
「なあ、キョウジよ」
蒼く抜けた空の下、街道で昼食をとっているとタクマが話しかけてきた。
「過去って変えられへんのか?」
人間誰でも考えることがある。過去に戻ってやり直したい、と。
「行動があって、その結果ってあるだろ? じゃあ、結果が先に決まっていて変える事が出来なかったらどうなる?」
「何をやっても同じ結果にしかならんやろ」
そう、今回のタイムリープはまさしくそのケースだった。過去に戻るという行為が発生した時点でその行動結果は確定事項になってしまう。ジョンの例でいえば母親の死だ。
「わかりやすいのがさ『馬券が外れたから過去に戻って当たり馬券を買う』ってやつだな」
「過去に戻るという行為は『馬券が外れた』という現実があっての行動。つまりこの二つは完全に繋がっている。
だから過去に戻るという行動が確定すると『馬券が外れる』という未来も確定してしまう。その為、何をどうやっても馬券は外れる事になる。……過去は絶対に変えられないんだ」
ただそうは言っても、過去に戻った時の会話や行動次第で未来に小さな影響が出る。 何度も何度も繰りかえす事で時空に歪みが出来、その為に更に過去に影響が出てしまった。 それがおかみさんが入れかわった理由だろう。その為あの村に住んでいる人にとっては人が何度入れ替わってもそれが村の“唯一の歴史”として認識される。
しかし2年前に村にいなかった旅人にとっては “入れ替わる唯一の歴史” が違和感に感じてしまう。
きっとタクマは人外に位置しているのだろう。
……何気に便利なヤツ。
「それにしてもなんでそんなに急ぐんや? もう二~三泊してもよかったやろ」
「ん~……なんというか……ほかの冒険者に報酬全部やるって言っただろ?」
「うむ、まるっと放棄したから問題ないやん」
「報酬ってさ、プラスもマイナスもあるんだわ。お前を投げた時、予定外の爆発が起きて、あれで道路にでかい穴が開いたり近くの家屋が倒壊しただろ?」
……まあ、思いの外デカい爆発で、正直焦ったけど。
「だが奇跡的に怪我人はいなかったやろ」
「まあ、そこは救いなんだけどさ。ちなみに道路と建物って誰が弁償すると思う?」
「それは……むむむ?」
「そう、壊した弁償費も報酬に含まれるって事だ。必要経費的なアレだ」
「なんや、もしかして……」
そう、報酬はすべて彼らに譲った。だから弁償費も彼らが出すことになる。今回の報酬だけではとてもすべて弁償は出来ないだろうから、多分彼らは返済が終わるまで司法に縛られ村から出られないだろう。
「おいおい、流石にそれは通用しないんじゃないか?」
と、思わず標準語でタクマが言う。どうやら慌てると標準語になるようだ。
懐から数枚の紙を取り出し、タクマに見せる。そこには俺が一切の報酬を受け取らないという文言とともに、手伝いとしての介入の為『結果はすべて署名人に帰属する』と記載がしてあり、六人のサインがそれぞれに書いてある。
「これで一切俺に負債はない。皆確認してサインしているからな」
「ちょっ、おま、悪党やんか!!!」
「証書を書いてくれと言い出したのは彼らからだぞ」
と言いつつ口元がニヤリとしてしまった。
「キョウジ、お前そうなるように会話誘導しただろ」
「さあねぇ。それに……」
「それに?」
「最後の魔法は不発だったけど、魔力残留は起こったじゃん?」
「うむ。あの薄緑のはええ気持ちやった。あれはなんやろな」
確証はないが、多分あればジョンの母親の残留思念。村中を歩き回って魔力を探った結果、
「さすがに時間魔法は不発だったから、人が入れ変わる事はないと思うけど」
昼食を終え、ゴミを片付け、立ち上がる。
「朝起きてさ」
バックパックを背にかけニューヨークに向けて歩き出す。
「おかみさんが男になってたら悪夢だろ?」
「ちょっ……」
タクマの声が青い空に突き抜けて行った。
「それはワイもごめんやで~~~!!」
第二章【truth of Fault】-過ちの真実- 完
次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ①カレル
二人目のヒロイン登場! この企みは誰が糸を引いているのか? 物語のメインバトルになる、ゴーレムPT戦。 是非ご覧ください!
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