両親が星になった次の日

 そろそろ起きよう。結局眠りにはつけなかったが、これ以上考えていても変わらない。ベッドから立ち上がり居間へと移動する。いつもなら早起きな二人が静かに朝食を取っている時間だがもちろんその姿はない。けどそんなことはもうどうでも良かった。そう自分に言い聞かせる。これからどうやって一人で生きていくのかを考えなければいけない。

 良く家の中を見ると色々な物が失くなっていた。知らぬ間に片付けをしていたのだろう。ふと机の上を見ると封筒がおいてあることに気がついた。遺言書的なものだろうか。手に取り中を確認すると予想通り手紙が入っていた。

「おはよう! この手紙を見てるってことは私達は問題なく星になれたってことみたいね。よかった! とりあえずあなたももう大人だから大丈夫だと思うけど、人生って色々とあるから頑張ってね! 空から二人で見守ってます!」

 もうため息しかでなかった。


 昨日の余り物を食べシャワーを浴びて外へ行く準備をする。色々と考えなきゃいけないことがあるが、ありすぎて頭が廻らないのでとりあえず外の空気を吸うことにした。玄関を開けると太陽の陽射しが目を刺激する。雲一つない晴天だった。


 只々何も考えずに歩いていると幼馴染の早紀ちゃんと出会った。片想いの相手である。

「あ、博士君奇遇だねー。こんないい天気の日に暗い顔してどうしたの?」

「いやー実はさ…」

 何も考えないようにしていたが、勢いで昨日あったことを話し出してしまうともう止まらなかった。

 両親への不満やこれからの将来への不安、日頃からのクラスメイトや社会への愚痴、決壊したダムのように一度開いた口からは言葉が溢れた。

 一通り話し終えると急に恥ずかしくなってしまい、ごめんと俯きながらつぶやいた。すると予想外にも早紀ちゃんは優しく声をかけてくれた。

「ううん、大変だね。私に出来ることがあれば何でも言ってね。出来る限りだけど力になるよ!」

 優しい言葉に目頭が熱くなる。

「けどさ、憧れちゃうな博士君のご両親には。何ていうか永遠の愛を誓ってるようなさ、そんな感じがするんだよね」

「え?」

「だってさ二人で星になるなんてさ、すっごくロマンチックじゃない?」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。私は憧れちゃうなー。あ、ごめんね。残された方は困っちゃうよね。けどさ素敵だと思うんだよね。星っていいよね。しかも二人でさ。私の親なんて絶対やれないもんね。一緒の部屋で寝ることさえできないんだもん。まあ、色々な夫婦の形があるのはわかるよ、けどさ私は博士君の親御さんみたいな関係性に憧れるなー。あ、そうだ夜になったらどの星か教えてよ。きっとキレイなんだろうなー…」

 早紀ちゃんの口からも言葉が溢れた。さっきは聞いてもらったんだし自分も話を聞かなきゃと思い、必死に耳を傾ける。しかし聞けば聞くほど頭の中がグチャグチャになっていき言葉の意味が分からなくなっていった。そんな僕に太陽は容赦なく陽を頭の上から照らしてくる。しっかり理解しろよ、好きな子が頑張って話してるんだから。ほらチャンスだぞ、共感してやれよ。そうすれば距離も縮まるぞ。上手く行けば付き合えちゃうかもな。星になりたいってことは普通のことで皆の憧れだよ。だからビジネスとして成り立ってるわけだ。間違っているのはお前だ。両親や早紀ちゃんの感覚が普通なんだよ。さあ早紀ちゃんに想いに応えてやりな。きっと上手くいくよ。

 早紀ちゃんの話が一段落すると僕は会話を続けるために良く分からないまま口を開くことになった。きっと星になることは普通のこと。早紀ちゃんに共感するそれが一番正しいと信じて僕は口を動かすのだった。



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星になった両親と僕 かめ @turai

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