『会議から始める恋愛戦争』




 告白イベントが終了し、校舎に入っていく春翔。


 意外にも記憶に関しては見ることによって思い出すことも多く、自分の教室である二年四組の場所にはすぐに辿り着くことが出来た。


 余談だが、四階建てのこの高校では学年が上がる毎に教室が下に降りていくシステムなので二年の春翔は三階となる。



(いやぁ……今更だけど、おっさんが高校生の集団に混ざり込もうってなると……意外と緊張するもんだな)



 いざ扉の前に立って、何気なく一呼吸いれてみると慣れ親しんでいたはずのその教室が入ってはいけない秘密の花園のように思えてくる。



(まあ、この頃の俺は特に目立つ存在でもなかったし、気にしないで入るとするか)



 しかし意を決して扉を開けて入ってみると、予鈴が鳴っていたにも関わらず室内では未だほとんどの生徒が席を離れていて、ざわついた昼休み独特の雰囲気が続いていた。



(うるさっ……でもまぁ、ちょうど浮いた登場にもならずに目立たないで紛れられるから良かったか。えーと、確か席は一番後ろだったっけ? というか、後ろがいいな)

 


 それにしても、春翔がそろそろと歩いていく中でクラスの誰も彼の存在についてアクションを起こす者はおらず、むしろ空気を見ている程にノーリアクションなのである。



(まぁー、それもそうだよな。よく考えたらこの頃の俺は他人と関わらないで過ごすようにしてたからなぁ)



 ちなみに、この頃の春翔は自分の発言によって、そして自分の存在によって、人を傷つけた贖罪として人と関わらないように他人を寄せ付けないように生活していた。

 その結果として、春翔の周りには人が寄り付かなくなっていたのだ。



(少し切ないけど、神ッションの件で人との関わりは極力選んだ方がいいし、これはこれで都合良いか)



 ひとまず希望通り一番後方の席に見覚えのある自分の鞄を見つけた春翔はこれからの動きについて考えをまとめようと机に伏した。



「おやおや、早坂くん。珍しく昼休みにどこかへお出掛けしていたようだけど、何か良いことでもあったのかい?」



 が、すぐさま前の席から春翔を呼ぶ声が届き、顔を上げてみるとそこには甘い笑顔が魅力的な爽やかイケメンが椅子の背もたれに頬杖をついていた。



(ああっ、そういえば居たなー……あの頃でもなぜかしつこく絡んでくるヤツ。たしか名前は……)



白崎桃矢しらさき とうや……だっけ?」


「え、そうだけど? なんか久々に会ったような反応してくるのなんなのよ。そんなに俺のこと眼中なかった?」


「ああ、うん、そう、ごめん」



 淡白な返答だったが、その男子生徒は一度目を真ん丸にすると、その直後に吹き出した。



「いや、否定しろしっ! ははっ、いつの間にそんな鉄板級のネタ仕入れてたのよ、普通に笑えるわっ!」



 そんな的確なツッコミを入れつつ爽やかスマイルを振りまくのはクラスメイトである白崎桃矢。


 甘いマスクと流暢でノリの良いコミュニケーション能力でクラスどころか学校中でも人気がある人物だが、それをならしてしまうほどの女好きで女たらしなチャラ男。というのが春翔の記憶の中での彼への人物像である。


 しかし、そんな彼が過去でも春翔に絡んでいた理由というのは春翔自身も分かっていないし、当然春翔から絡んだということもない。


 ただ、現状では人との関わりを無闇にしたくない自分にとってもこの男の顔の広さは有益だと春翔は判断した。



「それで、白崎は何か用?」


「お、今日は珍しくちゃんと会話してくれんのね。これは明日は季節外れの雪が降るかもしれんね」


「無いようなら俺は疲れたから寝るぞ」


「いやいや、そういえば昼休みに早坂くんとかわいい後輩女子が二人で会ってるなんて噂が届いたもんだからね。これは俺が弄ってあげなきゃいけないと思ってさ」



 白崎はニヤニヤと顔を緩ませながら、机を指でトントンと叩いてリズムを打った。

 それに対して春翔は正直に答える。



「ただ後輩に告られただけだよ」


「まあ、そうだろうね? んで、付き合ったの?」



 聞いといて分かってましたというような淡白な反応を示した白崎は続けて、今度はその結果に注目する。



「付き合った」



 しかし、その言葉を聞いた白崎はまたかと言った風に眉間に皺を寄せて落胆の色を見せた。



「……はあ。あのさ、君の親友である俺の立場でこんなことあんまり言いたくないんだけど、いくら早坂君が断れない性格でも本気になれないなら断らなきゃあかんよ?」


「今回は本気だよ。あと親友じゃねぇだろ」


「まぁ、女の子を振るのは確かに辛いけど、そこに愛がなけりゃそれはただの……………………え? 今なんて?」


「親友じゃねぇだろ」


「違う、そこじゃない! そこは敢えてスルーすることによって傷付くのを回避したんだよ! その前だよ!」


「今回は本気だよ」


「…………ひよえぇぇえっ! まじ? 我が親友についに真の春が来たってまじ? これは今日は宴を開くしかないじゃん」



 想定外の返答に驚きと興奮を素直に表して騒ぐ白崎を見つめる春翔はその提案に対して、少し考える。



(白崎はいつかどこかで利用価値があると思ってたけど、思いのほか食い付きが良いからこの流れに合わせてこれからのビジネスパートナー役として擁立するのも悪くないな)


 

 というのも、春翔が過去の人生で経験した中で重要だと感じた要素として情報力というのはかなり大きい。

 そして白崎はその点でコミュニケーション能力、多大な人脈というとてつもない武器を持っていた。


 これは春翔がこの高校という小さいコミュニティーの中でこれから人を救っていく上では必ず利用価値があるもので、しかも記憶では白崎は不幸にはなっていない。


 それを踏まえると、この流れに乗って白崎を手駒として納めておかない手はないと判断した。



「なら、そのことも兼ねて相談したいことがあるんだけど、放課後二人でお茶に付き合ってくれないか?」


「もちろん良いよ。あぁ、そういえばこの前見つけた洒落たカフェがあるんだよ。せっかくだしそこ行こうぜ」


「いいね、ありがとう。じゃあそこでよろしく」


「はいよー」



 こうして春翔は放課後、しれっと対水瀬桃華用の作戦会議を取り付けることに成功した。







           ◇◇◇






 そして放課後、春翔と白崎の二人は学校から歩いて十分ほどのところにある喫茶店にいた。

 ちなみに来る途中の校門で水瀬がなにやら出待ちをしていたようだが、ひとまず今日に関しては春翔はガン無視でスルーを決め込んだ。



「へぇ、外装はちょっと古臭くて怪しかったけど、たしかに中身は綺麗で小洒落てるな」


「だろ? 隠れ家的なとこで雰囲気良いっしょ。この前、彼女とデートでぶらついてたら見つけたのよ」



 少し入り組んだところに潜んでいたその喫茶店はモノトーン調で固めたデザインで中々の雰囲気がある。



「じゃあ俺はエスプレッソで」


「それ二つで」


「あ、付き合ってもらう訳だし、ここは俺が払うよ」


「まじ? 流石親友じゃん。あざっす」


「だから親友ではないって」


「まじ鉄壁じゃん、ウケるわっ! まあ、金欠だしここは素直にお言葉に甘えるわ」



 レジにてお互いブラックコーヒーを注文してから、窓際にあるテーブル席に腰を下ろす。

 ちなみに白崎の方はミルクとシロップをそれぞれ三個ずつ抱えていた。



「それで、相談ってなにさ?」



 待ってましたとばかりに早々と本題に手をつけた白崎はガムシロップをドクドクとカップに注ぎながら正面に座る春翔に視線を送る。

 それに倣うように春翔も直球で相談を持ちかけた。



「なぁ、白崎。水瀬桃華って知ってるか?」


「うん、知ってるよ。彼女わりと有名人だからね〜。というか、早坂君に告白したのって水瀬ちゃんでしょ?」



 流石は学校一の有名人並びにチャラ男の情報力、おまけに察しも良いようなので春翔はすぐさまそれを肯定して要件を話す。



「それでさ、水瀬の事をよく知りたいんだよね。周りからの評判とか中学の時の事とか何でもいい。とにかく出来るだけ沢山の情報が欲しいんだけど」



 すると途端に頬を緩ませる白崎。



「……へぇ〜! 早坂君って見た目と目つきに似合わず意外とストーカー気質なんだね。おもしろいね〜」



 どうやら白崎は少し勘違いしているようだが、春翔はこの勘違いに乗るべきか反るべきか考えた。


 おそらくここは一つの分岐点である。


 便乗して水瀬を好きすぎるという体で情報を引き出すか、それとも本来の目的である水瀬を不幸から遠ざける為に付き合ったということを明かしてみるか。


 明かすことで春翔としては理解があれば白崎を手駒として動かしやすくなる反面、白崎の恋愛に対する自論と対立すれば協力を得られないというリスクが起きる。



「いや、実のところ俺は水瀬なんか微塵も好きじゃないし興味もないんだよ。ただ俺はあいつを本気で不幸な運命から救ってやりたいだけだ」



 しかし春翔は後者を選んだ。



「えっ、なにそれ? どゆことどゆことっ!?」



 結果、それを聞いた白崎は目論見通り目を輝かせて前のめりになってきた。

 高校生といえど所詮は好奇心の塊。謎と少しでもワクワクするような餌を釣り出せば食いついてくれるという見立てが見事に的中した。

 

 しかし、情報は命の次に大切という自論を持つ春翔は、そう簡単には教えずに小出しで切り出すことに。



「おっと、詳しいことは水瀬について教えてくれたらな」

「なんなりと!」



 すると、白崎はあっという間にペラペラと貴重な情報を開示した。



(まぁ、高校生なんて色恋とか伏線とか、そういうの大好きだし、ちょろいもんだよな)



 とはいえ、やはり白崎の持つ情報力は素晴らしいもので、瞬く間に様々な情報が手に入った。


 内容は主に中学時代の水瀬のこと、周りの評判、過去の恋愛遍歴、家庭環境、近しい友人関係などで、特に親友の存在の有無に気付けたのは春翔にとっては朗報だ。


 これらを基にこれからの方針を定めるつもりだが、それはあとで時間を取るとして、とりあえず今はここにいる白崎を利用してプランをより練り込むことに。


 その一貫として実質のオッサンである自分の認識とうら若き白崎の認識の差異を確認するように春翔はいくつか質問を織り交ぜた。



「なぁ、白崎。いきなりなんだけど、好きでもない男に告白して付き合う理由ってのは何だと思う?」



 ちなみに、この質問の意図は水瀬桃華の男漁りという行動の根源的な原因についての白崎側の見解を測るためのものだ。

 すると白崎はミルク色に変色したエスプレッソを啜りながら、斜め上に視線を飛ばす。



「んー……そうだなぁ……例えば、その相手の男がイケメンだった場合なんかはそいつの彼女になるって事で周りから見た自分の価値が高まる気がするとか?」



 その答えに春翔は素直に感心する。



「おお、流石は学校屈指のチャラ男だなぁ。女を誑かしまくってるだけあってちゃんと女心を分かってる」


「いやいや、あんま褒めんなよぉ!」


「あんま褒めてねぇけどな」



 能天気に頭をさすって照れる白崎にはひとまずツッコミを入れておくとして、おそらく彼の考察は正しく、同時に春翔と同じ見解を示していた。


 つまり水瀬の男を漁る行動原理は自分を誇示すること、いわゆる自己顕示欲によるものだろう。

 分かりやすく言うとブランド品を買い漁って身に付けるような感覚だろうか。



「ああ、なるほどね。この質問をしてくるってことは早坂君は彼女の噂を知ってるんだね?」


「そうだ」


「ふーん……ということは、その彼女の噂がさっき言ってた不幸な運命に繋がってるってこと?」


「いや、それが明確には分からないから今調べてるところなんだけど、凄いなお前。察しの良さコ◯ンくん並みかよ」


「まぁね〜! そういうとこが俺の取り柄だと思ってるし、君もそこを評価して俺を誘ったんだろ?」



 予想以上の白崎の思考速度と想定力に脱帽する春翔はその問いに首肯しつつも思わず口元を緩ませた。



(頭の回転が早いし、自分のことも弁えてる、おまけにコミュ強で人気者とか白崎こいつもしかして未来人なの? とりまミッションとか関係なしに白崎とは付き合っていくべきだな)



 そんな事を考えつつも春翔は質問を続けた。

 


「じゃあさ、これから水瀬に男漁りをやめさせるにはどうすれば良いと思う?」


「普通にやめろって言えばいいんじゃない?」


「うーん、それは悪手じゃないか?」


「え、なんで?」


「じゃあ白崎さぁ、とりあえず近い将来に必ず痛い目見るからもう女と付き合うのやめろよ」


「は? やだよ。俺は全ての女の子を愛してるから」


「ほらな」


「なにが?」


「普通に口で止めたってやめるわけねぇじゃん。ってことをたった今お前が証明してくれたろ」


「……あ、なるほどな。分かりやすい」



 そうなのである。こういった場合では大抵、実直に行ったとしてもそれは逆効果になったりするものだ。



「例えばさ、悪徳宗教に洗脳されている人って、口でそこは悪い所だよって言われると言われるほど沼にハマるんだよ。挙句の果てにはこっちが嫌われてお終いだ」


「へぇ、おもしろい例えだね。じゃあ、その場合だとどうすればいいのさ?」


「まぁ基本的な方法は二つだね。一つはそれを言う自分が洗脳している人よりも格が上になること、そうすれば自分の言葉を素直に聞くようになるけど、実際は難しいよね」


「じゃあ、もう一つは?」


「一番確実なのは、その団体がただのインチキだっていうことを直に体験させるか、目の前で証明させられれば、すぐに目は醒めるよ。言うだろ? 百聞は一見にしかずって」


「ふぁーあ、タメになるね。いつか周りの奴がそうなったら是非とも参考にさせてもらいたいもんだわ」



 口ではそう言いつつも、少し論理的な話をしすぎてせいか白崎は堂々と欠伸をかく。

 そして、そのまま頬杖をついて眠そうな顔で尋ねた。



「……で、話は戻るけど早坂君は水瀬ちゃんの場合どっちの選択肢を選ぶのかな?」


「どっちかが失敗する可能性がある以上、保険としてとりあえずどっちの方法もやってみるかな」


「ふーん。つっても水瀬ちゃんから告ってるんだし、早坂君なら普通に言えば言うこと聞くんじゃないの?」


「それは無い。まず今のところ水瀬は俺のことなんかこれっぽっちも興味ないね。だから愚直に注意したってそのまま受け流されるだけだよ」


「なんで分かるのさ」


「分かるよ。お前だって自分のことを好きでないやつの態度くらい分かるだろ? 例えば、顔目当てだったり、お金目当てだったり、周りの人間が目当てだったりさ」 


「……ああ、確かに分かるわ! はは! え、じゃあマジでお互い好きじゃないのに付き合ってんの? ウケるわっ! おもろい、おもろいっ!」


「笑い事じゃねえよ。こっちは本気で頭抱えたくなるわ」



 あまり見ることのない歪な関係の実態に気付いた白崎は楽しそうに手を叩いて笑った。が、

 春翔からしてみれば、その結果如何では即地獄行きという制約がある以上、本当に笑い事ではない。


 ともあれ、あらかた笑ったあとに白崎は口角をあげて春翔を覗き込んだ。



「とか言って、悪態ついてるわりには彼女の事ちゃんと考えてんじゃん。やっぱり好きなんじゃないのぉ?」


「そういうんじゃない。これは俺のためだ」


「あー、水瀬ちゃんの幸せは俺の幸せ、水瀬ちゃんの苦労は俺の苦労— —的なやつね、はいはい」


「……全然違うけど、そうだ」



 執拗ないじりをめんどくさいと感じた春翔は否定をやめてノリに身を任せた返答をする。

 しかし、おもしろいことに白崎のその言い方は言い得て妙で、本質的には全くもってその通りでもある。



「それで、俺は何を協力すればいいんだい?」



 続けて白崎はこれから頼られることは言わずとも分かるといった風にそう促してきたので春翔は適当な紙を取ってペンを持ち、書きながら解説をする。



「まずは調査だ。どうして好きでもない男と付き合ったりするのかを知る。まあ、これはおそらくさっき白崎が言ってた読みで合ってると思うけど、確証がほしい。だから白崎も協力してくれるか?」


「そんくらいなら勿論。親友の為に人肌脱ごうか」


「親友じゃねぇけどな。んで、それが分かったなら次はそうなった根本的な原因を突き止めて、その問題を解決出来れば半分は完了だな」


「え、それで終わりじゃないの?」


「うん。俺の目的はあくまで水瀬を不幸にしないことだ。だから最終的に彼女には何かあったとしても乗り越えていけるような強い人間になってほしいわけよ、だから— —」



 そこまで言ったあと、春翔は紙につらつらと大まかな内容を書き込んでいく。



「こうして— —」


「ふむふむ」


「こうなれば— —と」



 そして最後に春翔は紙の中央にデカデカと『ミッション完了!』と書き殴った。



「えっぐぅ……本気?」


「もちろん。このくらいしなきゃ人って変わらないと思うんだよね。だから俺は本気だよ」


「……」



 春翔の打ち出した策に何度も視線を這わせる白崎は腕を組んで何かを言いたそうに唸った。

 その様子に春翔は一応フォローを入れておく。



「まぁ、あれだよな。もし抵抗あるなら協力はしてくれなくてもいいし、それで白崎は負い目を感じなくていい」


「そう言われてもな……うーん……俺としてはあんまりこういうやり方は好きじゃないけど、でも……そうだな」



 二、三度春翔の眼差しをジロジロと確認。

 しかし何度見ても崩れない真剣なその瞳の引力にでも引き寄せられたのか、白崎は肩をすくめた。



「まぁ、おもしろそうだから協力はするよ。それにちゃっかりコーヒー三杯もおかわりしちゃったわけだしね」


「そりゃ、助かるよ。この喫茶店のコーヒーの旨さに感謝だね」


「ははは、そうだね。あ、そうそう、ちなみに検証の結果ミルク三、シロップ四がベストの配合だって気付いたんだ。良かったら早坂君も飲んでみてよ」



 そう言って目の前に置かれた三つのカップの内、まだ少し中身が残っている一つのカップを春翔の陣地へと送る。

  

 それを一瞥してあからさまに嫌そうな顔をする春翔はチラッと窓の外に目を向ける。



「うわ、もう真っ暗じゃん」



 気付くとさっきまでオレンジがかっていた夕焼けは既に役目を終えて定時での退勤時間となっていた。


 そしてそれに気付いた白崎は唐突に焦り出す。



「え、まじ!? やべぇ、早く電車乗らなきゃ帰りが遅くなる。それはつまりこれがこうなっちまう!」


 

 そのセリフに合わせて白崎は小指を伸ばしてから、両人差し指を頭の上に突き立てた。



「えーっと、それは彼女に怒られるって意味?」


「ぶぶーっ! 正解は母ちゃんに怒られるでしたー!」


「分からんわっ」


「ふふ、主もまだまだ理解が足りないのう。……っつーことで悪いけど俺は先に帰るわ!」


「おう、今日はありがとう。気を付けてな」



 そんな他愛もないやり取りを挟んでから、白崎は電車通学なので急いで支度を済ませ帰っていった。

 その一方で春翔は時間潰しも兼ねて、もう少しここでくつろぐことにする。



「…………」



 ふと、白崎が残したカップに視線を止める。



「…………まあ、一応義理としてな」



 そんな誰に聞かせるわけでもない建前をぼやき、恐る恐る持ち手に手を運んで喉へと流し込んだ。









「……うげぇ、げろ甘まぁ……」

 




 

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クズから始める高校生活 木白木 @iakot88

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