第158話 ただ愛の為に、或いは嵐の裁定者。またの名をパノプティコンの歯車


 青空だ。

 地下の――――作られた青空。

 人々の慰労と気分転換のためにスクリーンが映し出す地下要塞の青空の下で、橋の欄干じみた手摺に身を預けた雄獅子めいた青年――エディスは片眉を上げた。


『……嘘だろ? 一度しか参加できねえのか? レースに?』


 その視線の先で冴える銀髪が靡く。

 同じ保護高地都市ハイランド連盟軍の軍服を纏った、その名に違わぬ冴える銀髪の麗容を持ったモデルめいた長身の女性――アルテミス・ハンツマン。

 そんなふうに個人的に話をしたのは、おそらく、彼らにとって出会ってからそれが最初だった。


『毎年やってるんじゃねえのか? チームで参加する競技なんだろ?』

『新人グランプリは第一種競技規定ライセンス初獲得から二年未満だけ。毎年、別の新人が来るの。チームなんてものはないわ。……それはサテライト・グランプリ・サーカスの方でしょ。あっちは特別上級競技規定ライセンス』

『第一種競技規定……? 特別上級競技規定……?』

『操縦するアーモリー・トルーパーの馬力と飛行可能場所でライセンスが違って、それの最上位が第一種競技規定ライセンス。特別上級競技規定ライセンスは、第一種競技規定ライセンスの所持の他にいくつかの条件を満たしたら取れるサテライト・グランプリ・サーカスのレーサーとして必要な規定ライセンス』

『なる……ほど……?』


 まるで長じないエディスには、呪文のようにしか聞こえない。

 その第一種競技規定ライセンスの持ち主である怜悧な相貌の女性は、手すりに身を預けながら――やや呆れたように言った。


『本当に碌に知らないのね、貴方』

『……生憎と、空気のない空には馴染みがなくてね』


 肩を竦めて煙草を取り出し――……アルテミスの手前、彼はそれを仕舞った。

 衛星軌道都市サテライトでは酸素の限りから喫煙者が馴染みないものであるというのもあったし、女性の手前遠慮する気持ちもあった。

 出会って初めて仕事以外で二言三言以上の言葉を交わす機会を得られたこともあり、彼もそのまま話を続けた。


『レースにも二種類、か。そこんとこ難しいんだが……どうやって考えたらいいんだ?』

『発祥と由来。……周回で競うサテライト・グランプリ・サーカスは、元が人型宙間重機メーカーの試験飛行由来。だから何周も何周も長距離のラップを刻ませるし、年間の参加チーム数も限られてる。ある年での決まったチームだけが、年間を通じて色んな居住区ボウルで全アークに跨ってレースする。貴方が何年も同じレーサーの名前を何回も聞いたのは、きっとそれ』


 様々なボウルやアークの連合めいた衛星軌道都市サテライトの各地を回って興業を行うから、サーカスというらしい。

 それから、


『トルーパー・レースは元はデブリ除去業者や掘削業者の一騎打ちだった。……そこから機体同士のぶつかり合いじゃなくて競争になって、何周も飛ぶんじゃなくてどちらが早くゴールラインに辿り着くかって形になった。だからレースに枠の上限はあってもチームという意識や参加企業の限定がない。……このトルーパー・レースで上級競技規定ライセンスの取得に必要な第一種規定レースの勝利数を稼いでグランプリ・サーカスのチームに誘われるのを待つ人もいれば、私みたいにそのまま走り続ける人もいる』


 アルテミス・ハンツマンは、競技者登録から第一種競技規定ライセンスの最短取得、更にはそこから無敗かつ最年少での新人三冠の戴冠を行った競技史に名を刻むレーサーだった。

 その後、サーキット競技型のグランプリ・サーカスやその下部レースに転向するわけではなく、一周きりの宙間障害物レースの方で名を馳せたのだ。


『じゃあ……俺が見たことがある二十四時間耐久ってのは……』

『リベリタリア二十四時間耐久? ルナリアン周回軌道長耐久? メスティア二十四時間耐久? ドロテア市街上空グランプリ? どれのこと?』


 複数あるのも、エディスからしたら意外だった。

 それから指折り更にいくつか上げていたアルテミスは、やがてそれを打ち切って解説に入った。


『二十四時間耐久は、性質としてはサテライト・グランプリ・サーカスと同じサーキット競技だけど、サテライト・グランプリ・サーカスが開催するグランプリじゃない。あと参加条件のライセンスと、何よりも周回性の違い』

『周回性……?』

『グランプリ・サーカスは、規定の距離をコース長で割った分の周回――つまり、ゴールするまでに走らなきゃいけない距離が決まってる。二十四時間耐久は、二十四時間での周回数を競う。つまり前年と同じ周回で勝てるとは限らないの。……あれは確か、元は基地近くのアーモリー・トルーパーのレーシングクラブが発祥だった筈』

『……なる、ほど? 別物なのか?』

『でも、グランプリ・サーカスの競技者なら参加のときに特別なクラスに分類されるようになってるし、ちゃんと規定もある。私みたいな第一種規定グランプリ・レースの勝者なんかもクラス分けの考慮にはされる』

『……? ……? ……?』


 素人であるエディスからしたら、複雑怪奇と言わざるを得ない。

 第一種競技規定ライセンスの取得には、第二種競技規定ライセンスとそれで参加可能な複数レースへの参加が条件であり、更に競技ライセンスは各アークによって固有の別のものがあり、更に――――……と説明されて、終わる頃には完全にお手上げ状態だった。

 とりあえず、衛星軌道都市サテライトでは義務教育終了後ならライセンスの取得が行えるということだけ、エディスにはわかった。


『モータースポーツはからっきしなんだ。生憎と、生身のスポーツばかり見てたもんでね』

『フットボールあたり? どっちの?』

『俺の言うフットボールは新大陸アメリカ系だ。先祖代々そっちなもんでね。ハイスクールじゃ、選手もしてたんだぜ』

『へえ……ハイスクール、か。こっちの学生生活は長いのね、確か』


 しみじみと、彼女は語る。

 衛星軌道都市サテライトは教育の形態も違うのだ。

 十年の義務教育。

 それを超えて学生を続けるのは、遺伝子適性による足切りと成長環境適性による足切り――中央共通適性試験センター・テストを通過しなければならない、というものだった。

 アルテミス・ハンツマンは、義務教育課程の終了後は資産家の両親の元でジョブトレーニングをしていた。


『トルーパー・レースとサーキット・サーカスって違いは良く分かったが……それだけなのか? 機体同士で派手にぶつかり合うのもあった気がするんだが……』

『トルーパー・バトルショーのこと? あれはあれで、また別物。ライセンスも、一応は都市近傍で操縦できればいいってランクのものだけで、レース参加のライセンスがなくてもいい。それだけレースみたいなクールさもない競技よ。でも、敵機との会的距離でのアクロバットに対するポイントなんかもあって――』


 ずっと取り澄ましたような顔をして、衛星軌道都市サテライトからの亡命ということもあって人を遠ざけるようにしていた彼女は、自分の得意分野に限っては随分と饒舌に語る女だった。

 それも判ったのは、こうして、出会ってから一ヶ月ほどにもなってから。

 彼女を通じて語られる衛星軌道都市サテライトは、大いなる真空に隔てられた惑星外の地ではなく――そこに娯楽もあれば文化もある、立派な一つの生活圏に思えた。

 だからこそ、


『……なんで、こんな戦争なんてしてるんだよな』


 エディスは、そう呟いた。

 アルテミスは、沈痛な面持ちで口を噤む。

 自然と彼は煙草に火を点け――――これまでの訓練の、そして先程まさに報告された乾坤一擲の作戦のことを思い出していた。


 固唾を呑んで戦果を待ち侘びていた彼ら教官たちの前に、その映像と軍高官の言葉は届けられた。

 完全に焼け落ち、世界樹めいたマスドライバーが砕け散った海上遊弋都市フロートの姿。


『素晴らしい……予想以上の成果だよ! 君たちの訓練の賜物だ……この火が……この光が! まさにこれこそが、我らが保護高地都市ハイランドの不屈の証明だ!』


 興奮する彼の言葉に合わせて、映像が切り替わる。

 散布した流体ガンジリウムに通電しての広域的空域膨張と圧縮。それにより生じた強烈な衝撃波と、散布圏内の大気のプラズマ化。そして真空減圧と、そこに吹き込む揺り戻し――――を用いて更に高温に高められた爆轟を伴ったプラズマの解放。

 地上に、太陽が生まれていた。

 何一つも生かして返さぬと言いたげな、強襲攻撃のための増設ブースターまで利用した破壊の嵐。

 太陽神の憤怒。

 きのこ雲を伴いながらそれは世界樹の如きマスドライバーを半ばから砕ききり、そして、衝撃波と爆風と火災とガンジリウム汚染で一つの海の街を容赦なく死の島へと変えた。


 ハンス・グリム・グッドフェロー。


 決して――――天性の才があったとは思えない青年が、そう高くもない接続率のその青年が、どちらかと言えば好戦的な意思も少なく理性的であった筈のその青年が、復讐や祖国勝利に燃える他の同期ではなく――――そんな青年が、ただの一撃で街一つを灰燼に帰させたのだ。

 その映像を見ながら、エディスは、絶句した。

 彼は作戦決行前、各地の機体へ配置を行われるその前、この訓練過程を旅立つその前にエディスにある提案をしていた。それは敵本土への攻撃を行う前に勧告をすべきといったもので、彼は幾分か戦略的な合理性について説明していたが、エディスには、それが戦闘で生じる民間人の被害を厭ったものに思えてならなかった。


 だが、これは、なんだ。


 誰のどんな武器よりも黒く焼き尽くす暴力の意志。

 人の身で、水爆同然の破壊を成し遂げる理不尽。

 何より、自らが慮った筈の市民までもその全てを殺し切るという圧倒的な漆黒の殺意。


 戦果偵察機によってその映像を確認した軍の高官たちは歓喜したという。

 あのB7Rの迎撃のために世界中の核兵器が利用され、そして宇宙空間で炸裂した電磁パルスが齎した全世界規模の機械的混乱とその副次的な死者が、この世界から核兵器を根絶させる切っ掛けになった。

 限られてしまった人類の生息圏で、終末破滅願望に基づくテロによってダーティーボムが用いられたこと、そしてガンジリウムを利用した核融合反応炉の実装によって核分裂反応炉の優位性が失われたことから、核分裂反応を伴う物質の取引及び技術開発の禁止並びに撤廃のための禁止条約が結ばれたのだ。


 誰もが、もう、扱えないと考えていた兵器。


 それを――――よりクリーンな形で、炸裂させた青年がいた。光明を齎した破滅の光の主がいた。


『なんで、お前さんが、そんな……』

『嘘……ハンスくん……嘘……』


 その映像を確認した二人は言葉を失うほかなかった。他の教官たちも呆気に取られていた。

 教官たちは皆、猟犬たち訓練生を送り出したまま碌に眠ることもできずにその出撃結果を待っていた。

 単身で敵都市まで約マッハ二十の極超音速で接近し、マスドライバーを破壊する。その同時決行作戦。それが、かの【アクタイオンの猟犬ハウンズ・オブ・エークティオン】の概要だった。

 無茶な作戦だ。

 幾ら戦車以上の装甲を持ち戦闘機めいた機動を行える新型兵器と言っても、何の支援も得られない中での単騎突入なのだ。それは殆ど、自殺行為と言っていい。無事に敵目標を破壊したとしても、増設ブースターを失った状態での帰路で、衛星の位置情報確認もなく帰還しなければならない。破壊が首尾良く進んだとしても、損耗率は相応のものになると見込まれていた。


 一ヶ月の急速錬成。そして未知なる最新兵器。

 作戦は成功するのか。

 彼らは、無事に帰ってこられるのか。

 自分たちの祖国の今後は。


 宣戦布告前に行われた衛星軌道爆撃にて、保護高地都市ハイランドの地上軍事施設の大半は使用不能に追い込まれた。特に陣地移動の可能な陸軍より、拠点を必要とする空軍や港に船を停泊させていた海軍は壊滅的な損害を被った。そんな中で唯一選べるのが、そしてか細い勝利への道筋が、このアーセナル・コマンドを用いた非人道的とも言える敵宙間補給線への攻撃であった。


 だが――――全くの無傷に近い状態で、完全な作戦を成功させる青年がいた。


 居てしまった。

 出てしまった。

 それが、よりにもよって、あの青年だった。


『彼のこの戦法ならば、効率的に敵施設を破壊できる……まさにアーセナル・コマンドという兵器の体現とも言える単身強襲機動破壊だ! 実に素晴らしい! 困難に打ち克ち、祖国のために要求以上の戦果を齎す……あれこそが、軍人の模範とも言うべき男じゃないか!』


 拍手喝采が鳴り響く参謀本部とは別に、エディスら教官たちの顔色は悪かった。


『素晴らしい戦果だ。我々の勝利の道はこれしかない。きっと――パースリーワース公爵も満足するだろう。諸君らは、素晴らしい偉業を成し遂げた。このまま、猟犬の育成を進めてくれたまえ。これならば抵抗などではなく、敵本国の破壊による早期解決が見込まれるかもしれない。……彼のような情け容赦のない無慈悲な殺戮者を、もっと送り出すのだ!』


 それ以上、軍高官たちの言葉は彼らの耳に入らなかった。猟犬が引き起こしたその絶望的な神話的光景に、ただ、口を噤むしかなかった。


 殺戮者を作った。

 無慈悲なる猟犬を作った。

 一人の青年を、心無い兵器に変えてしまった。

 彼だけでなく――――彼らを。多くの彼らを。


 そして自分たちは、前線に出ることなく。


 そんな負い目を背負って幾人もの若き猟犬を育てて輸出するうちに、エディスとアルテミスは、自然と距離を近付けていた。

 傷の舐め合いのような――それとも、その時、その女が苦しそうな顔をしているのを止めてやりたくなったのだろうか。


『貴方みたいに軟派な男は絶対に御免だ、なんて言われたと思うんだがな』

『うっさい、エディスのバカ。……如何にもジョックみたいな感じで口説きにきたエディスは、嫌いってだけ』

『……じゃあ、今は?』

『……うっさい』


 ベッドで腕の中に広がった豊かな銀色の髪を撫でて、また、幾度目かのキスをした。

 何度も――何度でも。肌を重ねて。体を交えて。

 戦況が進む。

 ジャスパー・スポイラーという訓練生だった一人が、全く無傷のまま敵軍に投降したためにアーセナル・コマンドの解析が急速に進められてしまっていた。


 アルテミスに幾度と言い寄っていたその爬虫類のような眼鏡の青年の顔を思い出すと、幾ら殺しても殺し足りない気分になる。

 アレを受け入れていれば――とか、自分のせいで――と気に病んでいく彼女の口を塞いで、互いに肉を貪る獣のように黙らせる日もあった。

 避妊具を着ける行為は――と衛星軌道都市サテライトでは過激な意味になると知ったのも、そんなときだったか。


 そして、誤爆を受けた空中浮游都市ステーションの救助に向かった猟犬が一人を残して死に、やがて、プロジェクトは解散。

 

 その高すぎる接続率のせいで出撃できないエディスと、出身地のせいで出撃が許されないアルテミス。

 決して嫌がらせなどではなく、軍は、二人に、教官としての役割を期待していたのだろう。

 ついには教え子が、軍人だけでなく年若い民間人登用の少年少女にまで変わっていった。


 そんなときだったか――エディスが出撃して撃墜されたのは。


 我慢の限界だったのか。

 それとも、まさに送り出したばかりの訓練生たちを守りたかったのか。

 或いは、軍が、兵士たちの撃墜数を集約する形で偽りの撃墜王を作るという人倫に反した計画を立ち上げ、それにエディスが選ばれたことへの反発だったのか。

 三分を超える接続に及び、どうしようもなく酩酊し、敵地上空で撃ち落とされた。

 なんとか敵勢力圏を横断する形で帰還したそのときには――――かの鉄鎚は振り下ろされ、そして、戦場という金床によって本物の英雄が生まれていた。



 ああ、人よ。

 そらを、仰ぎ見ろ。


 あれこそが、星の造り給うた聖剣。そして無二の英傑なり。


 その中には――ヘイゼル・ホーリーホック、ロビン・ダンスフィード、そしてハンス・グリム・グッドフェローという三名の猟犬の名があった。


 その時点で生き残った猟犬は、そこにサイファー・"ロード"・スパロウとライオネル・"バッカニア"・フォックスともう二名を加えて、たった七人だけだった。

 それが、彼らが育てた猟犬の果てだ。

 その頃になると、アルテミスは、変わっていた。

 手塩にかけた作品のように――――いいや、或いは、元より彼らがという境地に達していたのかもしれない。

 どこかうっとりと、彼女は、その、揺らがぬ猟犬たちの戦果に微笑を浮かべていた。


 それから数えることもバカらしいほどにアルテミスと幾度と体を重ね、そして、その分だけ互いの心は遠ざかってしまって――――。


『君が、エディス・ゴールズヘアかね。かの猟犬の育成者と聞いているが――』


 やがて、いつしか、戦争も終わって。

 一人になったエディスの下に、気品を感じさせる物腰の白スーツの美丈夫が現れた。

 一人の銀髪の少女を伴って。

 基地のフェンス近くの芝生の上で航空機を見上げている暑い日のことだった。


 もう乗ることもない航空機たちが滑走路から巣立っていく。キィンと、甲高いエンジン音が響く。


 ああ――――と、エディスは回想する。

 その少女には覚えがあった。

 軍の広報紙か何か。確か、奇跡の目覚めだと……そんなふうに言われていた筈の少女。十代のあるときに父母と共に向かった衛星軌道都市サテライト旅行の中で資源小惑星――B7Rの破片との衝突事故で一人生き残り、十年近くの昏睡状態に陥ったという少女。

 二十代にも達しているであろうに、十代そこそこにしか見えない銀髪と眼帯の彼女は、大仰なハンドガンとスクラップ解体器具めいた斧剣を携えてコンラッド・アルジャーノン・マウスの傍に侍っていた。

 彼女も両親の跡を継いで、軍人になったのだろうか。


『なんだ? 雑誌の取材だってんならお断りだぜ? ……あの戦争について俺から語れることはねえよ』

――か』


 エディスの心を見透かすような微笑を浮かべた癖家の偉丈夫は、ゆっくりとその銀髪の少女を手で示した。


『語りたいのは、私ではなく彼女だ。彼女ならば、を理解できる』

『な、に――――?』

『君と同じ……いや、方向性は異なるが、彼女もを持った一人だ』


 ぼんやりと――此処ではない何処かを見るような金色の瞳。

 その銀髪ツインテールの少女は、言った。


『何回も自己紹介するつもりはないから、ごめんなさい』

『いや、初対面――』

『だからわたしは何度でも、いえ、初めてアナタに質問するわ。……ええ、そう。聞きたくないとは言わないのね。そう。……あと、ランチにはビーフを選んだ方がいいわ。ポークの方には、魚の骨が混じってる。アナタは口を切って、わたしは喉が破けて死ぬ』

『な、いや、お前は――一体……!?』

『わたしはエコー。アナタの残響音エコー。わたしの言葉は、未来の残響音エコー


 後に――昏睡から目覚めたあとには既にその力を得ていたという少女が、エディスを見詰めながら問いかけた。


?』


 戦闘機の音が、空高く、響いていた。



 ◇ ◆ ◇



 雪の舞う都市の上空に、奇妙な人型があった。

 それは、暗き空に輝く銀の煌めき。

 悍ましくも神々しい――静謐な湖面めいた表層を持つ装甲。


「なんだ……銀色の……巨人……?」


 ヘイゼルは、変形を起こした機体を呆然と見る。

 所々から赤銅色の尾ビレや背ビレめいた装甲を生じさせた銀色のアーセナル・コマンド。

 本来、その強固さを成り立たせるための複合装甲の一部を自らパージしてしまった。一見、そうとしか思えなかった。

 だが、歴戦のヘイゼルの感覚は警鐘を鳴らしていた。

 己から身に纏う鎧を剥がして終わりなど――――そんなことがある筈がない。

 そして、すぐに、答えは齎された。


「光っ――――――――」


 日中にあって夜間のように暗雲に翳らされた都市上空が、眩い光に包まれる。

 光だ。

 光の巨人だ。

 その銀色の流体装甲が力場により圧縮され、高温のプラズマの肉体に変貌する。


 そして――――そこでヘイゼルは、気付いた。


 あれ自体が、炉なのだ。

 

 瞬間、光の巨人の背部の大剣めいたプラズマカノンが裂けた。

 充填される主砲。余剰放電が周囲の大気をイオン化させ、その絶縁を破壊し唸るような音を立てる。暗雲の下に生じた太陽が、雷を纏う。

 蓄電装置キャパシタの電力すべてを用いて一度起動させた全身を用いたプラズマ核融合は、電磁誘導によって膨大な電力を吐き出しながらその力場の出力を高め、電力由来の全兵装の破壊力を上昇させるのだ。


「上等だねぇ、クソッタレ。だが――――それがプラズマ、流体だってんなら」


 充填を行う光の巨人に、古狩人がショットガンの銃口を向ける。

 精密に操ることまでは彼にもできなくなっているが……それでも、撃ち込んで散らせることならできる。

 そして、二発の銃声が木霊し――――


「チッ、対策済みかよ……! 人気者は辛いじゃねえか、ド畜生!」


 それは、変動する力場に敢えなく弾き飛ばされた。

 おそらくは、力場の二重三重構造。

 ミリ単位で各部の力場発生周期を異ならせることで周波数の切れ目を狙うヘイゼルの攻撃に対して継ぎ目なく力場を作り続け、或いは銃撃に応じて変動させた力場によって弾丸を防ぐ。

 未だに本調子ではなく――ある程度その複雑なアルゴリズムにも対応はできるかもしれないが、全く未知でありおまけに欺瞞のノイズと真空による音響遮断を行う敵機を前には、ホンの数秒や数十秒では流石のヘイゼルも応じきれない。

 故に、


「ヘイゼルさん!」

「あいよ、嬢ちゃん!」


 白銀のグラス・レオーネが、その右手に掲げた折り畳まれたノコギリ鉈めいたプラズマライフルにエネルギーの集中を開始させ、応じるようにヘイゼルの古狩人は飛び出した。


『それは――――させない』

「そうかい? なら、代わりにダンスと洒落込もうぜ。すぐに墜ちてくれるなよ、パートナー。タンゴってのは長いんだ!」


 獰猛な片笑い。

 足を止めた【ジ・オーガ】のカバーリングを行おうとする妖花騎士【ルースター】とその下僕たる大鴉たちを、一丁のショットガンと僅かな牽制射――銃身に捻りを加えて衝突させあった粒弾によって抑えかかる。

 雪華に散るマズルフラッシュ。

 流石にこの邂逅に【ルースター】本体を撃ち落とすことまではできずとも、ヘイゼルのショットガンはサムの行う力場変調に――――散弾を撃ち込まれたコマンド・レイヴンの内部から流体ガンジリウムを膨張・爆破させるように、その死人たちの機動力と装甲の大元を削っていく。

 古狩人と人妖花が、暗雲の元に踊る。

 ショットガンの一射ごとに子機の能力が削ぎ落とされていく【ルースター】。当然彼とて、鎖で繋いだ子機を用いた有機的なバトルブーストにてピンボールめいて跳ね回り、ヘイゼル相手に時間を稼いでいる。

 だが、


「オーライ、ダンスパートナー。……ビンゴだ。だぜ?」

『――――っ!?』


 見えぬ筈の、追えぬ筈のバトルブーストに先回りしたショットガンの銃口。

 咄嗟に本体の前に子機を庇いかからせたサム・トールマンを前に、ヘイゼルは

 それこそが、視覚的な隙なのだと。

 妨害なのだと。

 エディス・ゴールズヘアに対しての視覚的妨害の位置へと、彼は、サム・トールマンを動かした。


 そして、ヘイゼルの古狩人と一列に重なるように接近していた白銀の【グラス・レオーネ】が、銃口を構えながらその上へと身を翻す。

 折り畳まれたプラズマライフル/プラズマブレードの銃身。

 ソウ・クリーヴァⅡが充填を済ませたプラズマの光弾を一直線に光の巨人に目掛けて解き放った。


「これなら――――――!」


 プラズマブレードを遠隔から叩き込むに等しい致命の一撃。容赦のない射撃。

 しかし――――隻腕の【ジ・オーガ】はそれを


 否。

 掴み取った、では済まされない。

 眼の前の光景に――ヘイゼルもシンデレラも、思わず絶句していた。


 プラズマライフルの原理は、ガンジリウムをプラズマ化させたものの内なる弾核コアにプラズマ電磁誘導発電機を組み込み、それが周囲のプラズマから電力を取り出しながらもそのプラズマ化したガンジリウムに通電して力場を発生。生じさせた力場によってそのプラズマ自身を封じ込めるという手法をとっている。

 このプラズマは、誰の名前が書いてあるものでもない。

 力場で覆われて外界と区別されているにすぎない。

 ならば――――力場同士の衝突によって不可視の弾殻を引き剥がし、そこから噴出するプラズマ自体を収集することができるとしたら?

 更には、制御に用いられていた弾核も奪えるとしたら?


「おいおい、マジかよ……吸収してやがるのか……?」


 それが――――【ジ・オーガ】第二形態ギア・セカンド嵐の裁定者ストームルーラー】である。


 相手の用いる実体弾もプラズマ弾もその全てを無効化し、己自身の燃料として研ぎ澄ます不滅の刃。

 理論上はその力場全てを剥がす他なく、そして、機体内部の流体ガンジリウム全てをプラズマ電磁誘導発電として用いるというとも呼ぶべきそれが齎す力場の圧力は、通常の機体を遥かに凌駕する。

 まさしく攻防一体――――全ての攻撃を打ち砕く不毀なる剣そのものとも呼べる形態であった。


「バカの作ったバカの兵器か!? とんでもねえことしやがって!」


 即座にそちらへもショットガンを向け直すヘイゼルは、思わず零れそうになる舌打ちを噛み殺す。

 明確に、あてつけのように黒衣の七人ブラックパレードを殺すための機体だ。

 ヘイゼルの力場無視の銃撃を弾き飛ばし、メイジーのショットガンとプラズマライフルによる削りの戦法を封じ、マーガレットのブレードを受け付けずに刃を奪い取り、リーゼのクラッキングドローンをそも寄せ付けず、アシュレイのレーザーによる精密破壊も通じない。

 唯一これをどうにかできるとしたら、火力的な面制圧に優れるロビンぐらいだろう。

 そして――


『……ああ、クソ。気分が悪いな』


 そう、酷い酩酊にうんざりしたように零されたエディスの声。

 接続酔いリンカードランクの一種か。

 つまりは、ここまではまだ、

 本当に、ただ、アイドリングやチャージに過ぎないのだ。

 そして――――


『――消し飛べ』


 充填と圧縮を繰り返した二門の大型プラズマカノンが、都市上空に解き放たれた。

 空振。

 閃光。

 強烈な――――熱波。

 その発露が生み出す高熱の上昇気流が降り注ぐ雪を消し飛ばし、機体大以上に膨れ上がったプラズマの奔流が空間を横断する。


 それは、さながら死の槍だ。死の光の槍だ。

 それでも、ヘイゼル・ホーリーホックとシンデレラ・グレイマンほどの技量ともなれば、ただ撃たれたそれを回避することは然程難しいことではなかった。

 ――否。


「嬢ちゃん! !」

「――ッ」


 ヘイゼルの呼びかけに呼応し、二機は大げさに分かたれるような航路を取った。

 突発的な暴風と共に、ビルが

 不可視の巨人の手に捻り潰されたように、その外装が剥がれて無残にも千千に砕かれ圧縮されていく。


 力場の破砕空間。


 本流たるプラズマの大規模砲撃に混ぜる形で、その余剰力場が空間に投射されていた。

 高密度の海底圧力じみて空気を歪め、それが無数の子機として降り注ぐ。いずれも触れれば、それだけで死は免れまい。これだけの電力を背景にすれば、そんな殺戮空間な形成される。

 その吸引力に装甲を剥がされつつも冷や汗と共にヘイゼルはそれを回避し――同じくシンデレラも、次世代機故の出力を全開にした力場同士の反発でかろうじてその吹き荒れる透明の嵐から免れる。

 対して――――――煌々と暗雲に灯る光の巨人は、二射目の充填を開始していた。


(クソッタレ――――大袈裟に躱させて、近付けさせねえままにそっから後は一方的に殴って終わりってか!?)


 そう。

 それは、裁定者ルーラーだ。

 その攻撃という刃の天秤が定まれば、あとの命運は決する。運良く一撃で死なずとて、必ず死ぬ。それは、そんな形態だった。

 そして、


『サム。……できねえってんなら、離れてな』


 どこか人間味を失った口調で、その操縦者は語る。

 兄貴分や先達のようにしていた鷹揚なエディス・ゴールズヘアの声はない。ハンス・グリム・グッドフェローが、部隊の長となるにあたって手本としていた男の姿はない。

 剥き出しに。

 剥がされて。

 その人間性は、彼の内なる決意以外を削ぎ落としつつあった。

 それでも部下を――――教え子を案じるのは、彼という男がこれまで積み重ねてきた人生の残滓か。


『きょ、教官殿……』

『不調なんざ誰にでもある。……おまけに、自軍同士で殺し合ってるようなもんだからな。ただ、相手が前大戦の英雄だろうと……所属不明機として、今のこの街で空を飛ぶってんなら撃ち落とすだけだ。我らが総司令官がそうお求めなんでな』

『……』


 それは、建前。

 あくまでも大統領――――七軍の長からの要請により、法的な権限の下で戦闘を行っているという建前。

 その高すぎる接続率が故にアーセナル・コマンドという兵器の担い手になれなかった始まりの駆動者リンカーは、頭部に埋め込まれた装置の制御と最適化によってかろうじて人間性と理性と外宇宙的発狂の狭間に立てていた。

 灰色の目で酷薄にコックピットに映る空域を眺めたエディス・ゴールズヘアは、サム・トールマンの離脱と対する二機の接近を認識して皮肉げに笑った。


『そうだ。離れてろ。……今の万全じゃねえお前じゃ、


 言いながら、彼は、失われた自機の左腕を見た。

 あのシンデレラの一太刀を受けていなければ、電力供給量も増し、より高い出力と密度の破砕の嵐で二機を葬れていただろう。

 ままならない――そんなことばかりだ。そんなことばかりのクソッタレの人生だ。唯一違ったのは、あの月女神を射止められたその瞬間だったろう。


『さて。……あと何秒だ? 決着は――それよりも早く付く。邪魔をするなら、俺も容赦はしねえ』


 先程のシンデレラからの銃撃にて、掴み取ったその弾核を己自身の左腕に組み込んだ。

 プラズマが伸びる。

 光の腕が形成される。

 五体を保った巨人が、輝ける光の剣が駆動する。

 暗雲の下を――――獲物目掛けて。


 既に――――――必殺の策は済んだ。


 あとは、振り下ろすだけだ。

 光の剣は、空間を跳ね跳んだ。


「ッ、こいつ――――!」


 絶影のあの歩法の、再びの再現。

 ただ一つ差異があるとすれば、それは空域全てに及んでいるということ。そして、駆動するそれ自体が破壊的な力場の嵐を伴っているということ。

 プラズマ砲撃に合わせて都市上空に散布されたガンジリウムが、空域を満たすそれが【ジ・オーガ】の駆動に合わせて――――弾ける紫電に合わせて力を持つ。

 結果、空間に無色透明の嵐が吹き荒れる。

 目にも止まらない跳躍の連続と、降り注ぐプラズマの弾雨と、不可視の蒼嵐による破壊空間。


「ッ――――――」


 古狩人が、かろうじて機体を左右に振る。

 聖騎士が、なんとかその不可視の集中力場で弾を払う。

 さながら、一つの花火だ。流星群だ。乱気流だ。雷だ。

 砲撃手の姿は現れぬまま、全方位からのプラズマの奔流と力場の破壊渦が空域を制圧していた。

 最早、殺意というのも烏滸がましいほど都市上空を詰め尽くす光の流星と掘削の嵐を身に纏った絶影の高速機体。


 それが、今やこの世界でも頂点に属するであろう二機を翻弄していた。

 これが――――――【嵐の裁定者ストームルーラー】。

 戦闘時間が増せば増すだけ、彼の領域は広がっていく。縦横無尽に。果てどなく。殺戮空間が広げられていく。満たされていく。

 

「……チッ。まだ、グリムから答えを聞いてねえってのによ」


 苦々しく舌打ちをするヘイゼルは、どこまでも脂汗を流しながら機体の回避機動を行っていた。

 復帰戦だというのに、あまりにも、強敵すぎる相手。

 万全でもどうなるか判らないこの専用機と駆動者リンカーは、なるほど確かに黒衣の七人ブラックパレードをも狩り尽くせる狩人狩りの狩人だろう。

 一瞬でも、次の瞬間に躯になるのはヘイゼルたちに間違いあるまい。


(専用機がどれほどのモンかと思えば――……クソッタレ。機体性能で、こんなにも変わるのかよ……!)


 空間から生ずるように四方八方から湧き出るプラズマの光弾。

 それは、攻撃であると同時に空域のガンジリウムを熱し続けるためのものだ。ヘイゼルが以前面倒を見ていたフィアのそれを――より洗練させたと言うべき戦い方。或いはその大元である戦闘法。

 更にそれ自体が炉である機体と、その外鰭そとびれめいた装甲板から弾ける電流が空間のガンジリウムを自在に操作する。そうして、その周囲と軌跡に不可視にして不可避の致死領域を作り出す。

 二人は回避に専念をしているから、即死していない。

 もしも近付かれたなら、その瞬間に周辺の空域ごと圧殺される。今は、その未来を遠ざけているにすぎない。

 つまり、ヘイゼルたちには……何一つ決定打も有効打もないということだ。


(救いは、あのノッポの方が加わってねえことだが――この分じゃ、こっちが墜ちるのもそう遠くねえ……!)


 紙一重で不可視の力場渦を免れ、迫るプラズマの炎になんとか応射する。

 フィア・ムラマサが落伍者になる集団がどれほどかと思えば――――これほどまでとは。

 単機での戦場の掌握を逆にやり返されるのが、こんなにも嫌なことだったとは、流石のヘイゼルも今の今まで知らなかった。

 圧倒的な死の予感。

 絶望的な戦闘力。

 なるほど――――……黒衣の七人ブラックパレードなどと謳われ、国家からも警戒されるのがこういうこととは。これは確かに、アーセナル・コマンドの全生産機数に伍すると呼ばれていたのも頷ける。あまりにも出鱈目だ。


 見えもしない敵と、止まりもしない砲撃。

 そして、一手でも誤って足を止めたなら、その本体からの直接的な死の一撃が待っている。

 一瞬も緩められない緊張の糸の手綱を握ったまま、ヘイゼルは小さく呟いた。


「シンデレラの嬢ちゃん――――?」

「っ、ヘイゼルさん?」


 加速の重圧に身を苛まれる中、一度、深く息を入れる。


「何とか俺があれを削りきってやる。そこから、どうにかできるか?」


 最も恐るべきなのは、この状況で、あの機体はなおも厚い力場に覆われていることだ。

 狂った防御力の機体が、目にも留まらぬ歩法で機動しながら、対応を誤れば即死する暴力を振り翳している。

 よしんばその動きに対応できたとしても、まず平常な手段ではその装甲を貫くことができない。一つできるとしたら……完全に周囲への放電に機体出力を回して、逆に空域のガンジリウムを利用する手段しかない。

 だが――


「逆です、ヘイゼルさん。わたしが大尉の役目なんでしょう! わたしがアレを削り切るから――必ず仕留めてください。やるのは、貴方です!」

「――――」

「駄目ですよ。そうやって、いいところを譲る――みたいにするのは。貴方が決めるんです。だから、貴方も生き残らなきゃいけないんです。……!」


 こんな状況でも懸命に前を向こうとする彼女の言葉にヘイゼルは僅かに目を見開き、


「……ハッ、言われるまでもねえさ」


 小さく、自嘲するように片頬を上げる。

 何故、守りたかった妹を失ってもまだこんな場所にいるのか。

 騎士の王たる少女が流星に変わり、黒衣の仲間たちが散り散りになり、あの戦争が終わってもこんな場所にいるのか。

 相手は忘れているかも知れない他愛もない約束と――ただ、ちっぽけな想い入れにすぎない。

 と言ったあの星の乙女の言葉に、何故こうまでも、しがみついていたのか。


(……ああ、そうだな。今日を待ってたんだ。本当に請け負いたいことが来るまで――……ずっと待ってたんだよ、俺は。ここで。それが来るのを、待ってたんだ)


 それは、他人が聞いたら、馬鹿らしいと笑うだろうか?

 ただ、それでも、待っていたのだ。

 あらゆることを請け負って、待っていたのだ。


「ここでお兄さんが死んだら、? アイツは――――アイツは奇跡的な馬鹿野郎だ。とんでもねえ堅物で、自分がなだけだと心から思い込もうとしてる馬鹿野郎だ」


 素朴な気持ちだけでは何一つ救えないと理解しているから、誰よりも真摯に真剣に考えているから、あんな領域まで己の理性を磨き上げてしまった青年だ。

 きっとアイツは、一人で生きていくだろう。

 それでいいと思う。そうしたいならそうするのが、アイツにとっていいと思う。


 そこに、お互い、口なんて挟めない。


 だけどそれでも――――せめてその背中の一つ分の空きくらいは、守ってやってもいいだろう?

 アイツが誰かを守るというなら、自分が、そんなアイツを守ってやってもいいだろう?

 もし、どこかであんな彼からそう求められる日が来るなら――――何を捨てても請け負ってやろうと、そう思っていたのだ。

 そう思って、此処に、居たのだ。


「……だから、死んでやるつもりなんざねえさ。なあ?」


 不屈の青年の頼みを聞く。

 理由なんて、本当は、それだけで良かった。

 

「そうですね。まあ、わたしは一度ヘイゼルさんって死神から逃げてますから大丈夫でしょうし――」

「う……」


 バトルブースト。回避をしながら、口を開く。

 それは互いに余裕の表れか。

 いいや――……次の瞬間には、この狂った力場と砲撃の雨の内に散ってもおかしくないから、最後まで話すのだ。

 金糸の髪を持つどこか幼げな少女は――


「死の女神になんて、絶対に大尉を譲ってやるつもりなんてありません。あの人が見るのは、わたしです。他の女になんて、口付け一つ目線一つもやらせませんから!」

「ヒューっ、言うねえ。……条例には気を付けろよな」

「知りませんよ。だったら法だって変えてやります。法の女神も死の女神もまとめてわたしが追い払ってやる! どこの誰にも――――あの人を渡さない!」


 両手のショットガンでかろうじて迫るプラズマを弾け飛ばしながら、臨死の緊張感にどこか狂っていくように訪れる高揚の中で――相棒はとんでもねえ恋を手に入れたな、と笑う。

 自分の半分くらいしか生きてないような少女からの、熱烈なラブコール。世界だって敵に回してやれる若気の至りと、本当にそれをできてしまうだろう実力の少女からの一直線なラブコール。

 まあ、それぐらいでいいかもしれない。あの鋼鉄の石頭野郎の胸倉を掴むには、それぐらいの情熱が必要だろう。

 二人が平常に顔を合わせたら、シンデレラの勢いに彼がたじたじにやられるかもしれないし、逆に酷く直情的に口説きにかかる彼にシンデレラが負けっぱなしかもしれない。そんな場面を想像すれば、自然と顔が綻んでしまう。


(……ははっ。死んでなんざやるつもりはさらさらねえがな……まあ、お前さんたちのためになら死んじまっても惜しくねえとは思ってるぜ)


 きっと、彼は、立つ。立ち続ける。

 その旗の下に。

 何が潰えても、何が壊れても、絶対に立ち続ける。

 その旗は折れぬのだと。滅びを前にも折れぬのだと。

 その旗に守られるべき人々のために立ち続ける。その旗が滅ばなければ、崩れなければ、折れなければ、たとえどれだけの果てなき道の先であろうと――――いつかが救われるのだと、そう己を奮い立たせて。


 あれは、祈りを持たない。

 その五体が、歩みが、全てが、祈りなのだ。

 誰かの祈りに対する、答えなのだ。

 になろうとしているのだ。


 いつか、誰かが。

 どこかで、誰かが。

 と祈ったそのときに――その声に応えられるように。

 その悲しみと苦しみを見逃さないために。

 ただそれだけのために、あの青年は、己を一振りの刃として鍛え上げている。どこかの――――顔を知れないのために。

 自分と変わらぬ誰かのために。

 旗を見上げる誰かのために。

 立ち向かえない悲しみに包まれた、声無き声を上げる誰かのために。


 その旗の下の人々には、きっと、死んでしまったヘイゼルの妹も含まれていたのだ。

 どこかの誰か。

 名も知らない、見えもしないどこかの誰か。

 そんな人間たちのために――少しでも彼らが生きていけることを心から願って、真剣に考えて、ただ歯を食いしばって茨だらけの荒野の道を独りで進める青年に、敬意以外の一体何を抱けばいい?


 人の世の醜さをどこまでも見て、それでも人々を愛せる青年を前に何を思えばいい?

 あの、どうしようもなく煮え切らないお人好しの相棒をなんと労ってやればいい?


 お前は、星だ。

 煌々と輝く孤星だ。

 マーガレット・ワイズマンでも、メイジー・ブランシェットでもない。

 ハンス・グリム・グッドフェローこそが、ヘイゼル・ホーリーホックにとっての星なのだ。


 他の誰かではない。

 お前がそうする男だから、俺は、お前のためになら死んでやれるのだ。

 ハンス・グリム・グッドフェローがハンス・グリム・グッドフェローだからこそ、ヘイゼル・ホーリーホックは命を懸けてやれるのだ。

 そのことに、理由なんていらない。

 お前さんがなら、俺がする。ただそれだけだ。二人の間には、それでよかった。


「……んじゃあ、お兄さんもグリムに倣うとするかね」


 降り注ぐプラズマと力場の弾丸を前に、小さな笑みと共に、ホログラム・コンソールをタップする。

 警告表示――【使用者の処理能力に多大なる負荷が予期されます】【通常想定されない非推奨な動作です】【本当に実行しますか?】――承認。

 警告/要求――【最終確認です。実行の場合、パスコードの提示を要請します】。


 そう告げる機械の声へ、ヘイゼルは片頬を吊り上げた。


 いつか聞いた。

 切り札にもならない切り札。

 機能の不正利用にも近い、あの青年が操るその札。

 どんな後遺症や悪影響が出るかも判らない、接続率の初期設定のための初期化コード。

 最大値の接続率から、徐々に最適値へと落としていく初期設定の悪用。

 その札を――――切る。


Dulce et decorum甘美にして名誉 est proなるかな amicitiae無二の友の amore mori愛のために死せるとは.」


 ああ、害なる者よ――――


「――――――Fatum運命よ, cedite viam其処を退け.」


 接続率が、強制的に【一〇〇%】まで引き上げられる。

 古狩人という鋼の巨人が、ヘイゼル・ホーリーホックそのものとなる。

 生身にてアーセナル・コマンドを撃破し、【四十%】にまでその追随性と操作性が制限されてなおもこの都市全ての巨人の持つ武器を破壊した男が。

 まさしく、巨人大の戦力としてこの世に顕現する。

 そしてその巨人の心臓に居る、あまりにもちっぽけな人間は僅かに口角を上げた。


「……泣きそうなお前さんの顔なんて、初めて見たな」


 ――――〈……あの娘を、助けてあげてくれ。今の俺ではできないから――……〉。

 ――――〈俺の代わりに、シンデレラを、どうか……助けてあげてくれ〉。

 ――――〈頼むよ、ヘイゼル。お願いだ……〉。


「……ああ、任せときな。相棒」


 十分だ。

 それだけで――――あまりにも十分過ぎる。

 男が男のために命を張ってやるのには、その一言だけで後は要らない。

 故に、今のヘイゼル・ホーリーホックは、あらゆる鋼の巨人より――――――


「《指令コード》:《最大通電オーバーロード》――――――《例外処理エクストラ》:《出力最大限界持続フルバースト》ッ!」


 そして暗雲の下、嵐の裁定者ストームルーラー波動の調律者エクセレクターが衝突する。

 空間に不可視の波紋を残して。

 二つの狩人が、加速する。



 ◇ ◆ ◇



 この世で初めての脊椎接続アーセナルリンクを行ったエディスが見たものは、言葉にできなかった。

 否、見たという表現は明確なる誤りかもしれない。厳密には視覚で捉えた訳ではない。ただ、そうとしか表現できなかった。

 そして、言葉に出来ないというのも比喩ではなかった。

 本当に、のだ。


 理解してはならない。

 理解しようとしても、ならない。

 その視点を作ってはならない。

 


 生命する鉱物。

 無機なる生物。

 母を持たずに増殖する仔。

 群体であり単体。無意志にて有意思。観測者にして被観測者――――外宇宙からの来訪者。


『……あんなもの、どうにかできるのか?』


 故に、ただ、彼はそうとだけ返した。

 暗い室内にて映写されたガンジリウムの構造ヴィジョンと、その研究レポート。

 それらを齎したコンラッド・アルジャーノン・マウス大佐から妖星の破壊計画を打ち明けられ――……一頻りの説明を聞いた後、それでも言えることはそれしかなかった。


『ふむ?』

『蟻だ。例えば――地面にいる蟻にとって俺たちは、床にある靴の分しか判らねえだろ。だが、俺たちは実際にはそれより上の軸を――高さを持ってる。アイツらは高さが不十分な分しか判らねえ。だからアイツらにとっての俺たちは、それしか見えてねえ』

『……』

『その高さを時間に置き換えればいい。蟻は――俺たち人間は、不完全にしか高さを――時間を認識できない。だがアレはそんな時間の中に完全にいる』


 小惑星として在る以上の質量――――いや、質量と呼んで良いものか。奴の実体は、本当は、そんな分まで存在している。

 ただ、人間には、ここまでしか見えない。

 単なる月面規模の小惑星としか思えない。それしか、判らない。


『俺たちが一歩前に出る。蟻からすれば、急に靴が湧いたふうにしか見えんだろう。だが、があるならそれは歩くという当然の一連の行為だ。……急に地球に接近したふうに思えたのもそれだ。アイツは。俺たちに見えてるのは、一部だけだ』


 そして、それが単に時間に横たわるようにしているだけではないとエディスはいた。


『二十六次元に跨がるダイソン球……か』

『あ?』


 だというのにコンラッド・アルジャーノン・マウスは、動じることなく逆に問いかけてきた。


『君は何故、アーセナル・コマンドの《仮想装甲ゴーテル》――力場が発生するか知っているかな?』

『いや……周波数の話、って訳じゃあないよな』


 ガンジリウムを通じて、電磁気力が別のエネルギーに変換されるとは聞いていた。

 重力子ではない。重力というのは、弱すぎる力だ。弾丸を反らせるほどの強力な重力が発生するには明らかにアーセナル・コマンドは質量が足りず、あの大きさで局地的にそんな重力が発生する事態があれば、それこそその時に人類の文明は崩壊するだろう。

 まことしやかには、宇宙が膨張するためのエネルギー――虚空発散子ファントムエーテルではないかと仮説されていたが……。


『これは彼らが溜め込んだエネルギーだ。我々から回収して、彼らが貯蓄しているだ。我々の肉体にも宿るエネルギーだ』

『……』

『おそらくは《仮想装甲ゴーテル》を展開するためのあの周波数は、なのだよ。溜め込んだその力を放出しろ――と。それとも、本当にその周波数によって何らかの干渉が起きて彼らが物理的に貯蓄不可能な構造に変化したり……或いはそのエネルギーに対してこちらから干渉するのに最適の周波数なのかもしれないがね。特定周波数帯に反応するスキルミオンのように、ね……』


 専門的な話になってしまうと、軍人であるエディスにはお手上げだ。

 いや、正しくは両名とも軍人ではあるが……エディスはハイスクールを卒業してそのまま軍に入隊した。内部で士官候補生プログラムに進みパイロットになったが、勉学というのには未だ苦手意識があった。

 エディスの肩を竦めるジェスチャーに小さく笑ったコンラッドが、ふと頬を吊り上げた。


『……君は、毒には二種類あると知っているかな?』

『……?』

『一つはその物質そのものに有害性があるもの。もう一つは、その物質が人体の持つ正常なシステムの一部を狂わせることで自家中毒めいて人体を損傷させるもの』


 神経毒とそれ以外――か。その程度のことはエディスも判っていたが……


『何が言いたいんだ?』

『つまり――力場を使って自己崩壊を命じさせれば、

『……』

『空間軸にも時間軸にも確率軸にも意味軸にも跨がる本体――それら角度に、我々では到達不可能な角度にいる分まで破壊ができよう。壊すのは我々ではなく、相手自身の力と法則が故だ。


 それは或いは、別の何かを指すような口調のまま――。


?』


 波打つ髪の美丈夫は、そう、酷薄な笑みを浮かべた。

 少なくとも勝算はあるのだと、目の前の優雅な美丈夫は微笑を絶やさない。

 だが、その目が問いかけてくる。

 ――お前はどうする、と。

 本気だ。戦時中、幾度も目にした本気の男の目だった。


 エコー・シュミットという少女は、欠伸を浮かべて退屈そうにしている。

 エディスの返答に興味がないのか、大佐の理念に興味がないのか、その両方か。

 そんな少女が何故この場に居るのか――――それもエディスよりも先に計画にスカウトされているのか判らないまま、彼はおもむろに口を開いた。


『……アンタがさっき言ったように……このレポートに載ってるように、遺伝するんだよ。銀髪ってのは。何一つ遺伝子が傷付けられてねえし置き換えられていねえってのに、

『奥方のことだね』

『……元嫁だ』


 終戦後、色々とあって離婚していた。

 あちらから頼まれでもしない限りは、復縁もすまい。既にそんな関係になっている。

 だけれども――――


『とんでもねえバカ女だ。クールそうに見えるのはツラだけで、性格は全然ガキのまま。いつまでも白馬の王子様を夢見てるようなアホ女で、料理も家事も碌にできねえで殆どこっちに任せる。レース以外の何から何までまともに手を出してねえ上に、おまけにもう二度とレースにも出られねえ道を選んだ馬鹿な女だ。……自分の国を捨ててまで、放っておけなくてこっちに来ちまった馬鹿だ』


 そして、その保護高地都市の心無い市民によって車両で撥ね付けられ、肉体的にもレースへの復帰が叶わなくなってしまった女だ。

 今更、思い入れはない。

 スタイルがいいだけで、嫁としては本当に欠点が目立ったし、人としても随分な気性難で共同生活にも苦労した。もう一度プロポーズを今度はあちらからされない限りは、もうヨリを戻しもしなければ家庭を持ちもしないだろう。

 そんな関係だ。

 そんな程度の関係しかない。

 だが――――


『あんな女が――あんな目にあってまで、そんなものの仮宿のように使われるのは


 錆び付きかけていた身体に、熱が灯る。

 三分だけ。

 三分だけなら、あの時点のどんな駆動者リンカーにも負けない自身はあった。撃墜スコアの水増しを依頼されたが、それ以前に、そもそもその三分でエディスが撃墜スコアを重ねてきたからという理由がある。

 人造の英雄に仕立て上げられるからには、そも、エディスにはその素質があった。

 だからこそ――――たったその程度でも、何かの役に立てるというのであれば。

 いつの日か、あのアルテミス・ハンツマンが、何の憂いもなく子供を抱き上げられる日が来るというのであれば。


『俺の理由はそれで十分だ。……やらせてくれ、ボス。今日からアンタが俺のボスだ』


 エディス・ゴールズヘアは、コンラッド・アルジャーノン・マウスに右手を差し出した。

 それは、或いは悪魔の契約だったかもしれない。

 それでもこの力と想いの行き場を与えてくれた恩人には、違いなかった。



 ◇ ◆ ◇



 それは、言うなれば、神域の戦いだった。


 片や光の巨人と化した強襲騎士は、その類まれなる頑健な肉体と高すぎる接続率を元に、常に絶やさぬバトルブーストを元に全く不可視の破壊の嵐として、余剰放電とプラズマの雨を伴って都市の上空を吹き抜ける。

 片や黒き古狩人は、両手のショットガンだけを携えて紫電を纏いながら泳ぐように空域を移動する。

 そしていずれにも、空振を伴った。


 まず――――揺るがされたのは、位置を外したサム・トールマンだった。


「え……あ……?」


 目と鼻から、血が垂れる。

 何かの疫病にでも感染したかのごとく、機体内部にいる筈の彼の肉体に損傷が発生した。

 それがヘイゼル・ホーリーホックによる音響破壊と気付く程度には、彼もデータを持っていた。鋼鉄の巨人の有する頑健な装甲すらも無視して、不可視の力場という鎧すら無視して、内部の駆動者リンカーを攻撃する。

 音という波に乗って病が広がるかの如く、操縦者に負傷を与える第八位の潜伏者ダブルオーエイトの神域の技だ。


 これを防ぐには、空気そのものを遮断するしかない。

 故にサムはその機体の力場を全開に真空を生み出したが――考えたのは、何故ということだ。

 ヘイゼル・ホーリーホックの古狩人は、まだ、発砲の一つすらしていない。

 撃たれてサムの機体装甲に音が響いた訳でも、何かが彼の装甲に衝突した訳でも、彼の弾丸が他の弾丸にぶつかった訳でもない。何の予兆もない。

 流石のヘイゼル・ホーリーホックといえども、無作為に生み出される機体の駆動音やエンジン音を攻撃に転用はできない。綿密なる計算と感性の末に、彼が手ずから音を生み出すからこその殺人音波だった。


 ――――否。


「てめえ、空振を――」

「無制限にガンジリウムをバラ撒いたのが仇だったな、教官どの!」


 纏った紫電。

 周辺への過剰放電を行いながらも飛ぶ古狩人。

 その周囲の大気が波打ち、ただ、古狩人が動くだけで音が生み出される。避けようのない――――真実避けようのない波動として、彼の一挙手一投足が必殺の意味合いを帯びる。

 古狩人が空を蹴り、迫るプラズマの雨を躱す。

 同時、空振が空間を伝わる。衝撃波が、彼の綿密なる計算と感覚を持って繰り出され、その波紋同士が衝突する点が破壊的エネルギーの発生点に変わる。


 そして、何たることか――――サムの従える鎖付きの大鴉の、その手足が崩れ始めた。


 突如として――。

 不可視の神の手が精密に玩具を弄ぶするように、ただそこにいるだけで指先から次々に機構を解体されて、都市目掛けて落下していく。

 それに、歯止めがかけられない。

 魔術を解かれた石人形めいて、アーセナル・コマンドが不可思議な空中分解を起こしていた。


(途方もない――……これが、ヘイゼル・ホーリーホックの真の実力か――――――)


 ――――

 ヘイゼル・ホーリーホックの絶技は、そんな限度に留まらない。

 更にその崩れ落ちたパーツたちが道路に衝突して鳴らす音が、街で暴れる暴徒の三半規管を揺らして次々に昏倒させていく。

 音響鎮圧。

 彼が機体の手足を動かすだけで敵機が崩壊し、踊るように回避するだけで地上の争いが収束を見せる。

 神憑り的なヘイゼル・ホーリーホックの計算能力が、機体そのものの演算装置を利用して――拡大していた。ロビン・ダンスフィードのように、今や彼自身の武装だけではなくさえもヘイゼルの指揮下に収まっているのだ。


 一体どれだけ――――どれだけの並列処理と計算能力があれば、そんなことが可能なのだ?


 汎拡張的人間イグゼンプトでさえ不可能に思える神業。

 全知全能の神の権能の一部をくすねる魔技。

 究極的な指揮者、音楽神の化身とも言うべき振動と波動を司る絶技。


 初めて疫病というものを知った人間は、きっと、こんな感想を抱いたであろう。

 目に見えず。

 触れられず。

 しかしそこで巻き起こる――――圧倒的な制圧。


「嘘……」


 シンデレラ・グレイマンは、呆然とした。

 今やその実力は、この世界でも十指に入るだろう。

 だが――機体の戦闘のみならず、まさに大地で巻き起こる争いさえも鎮圧していくというそんな技量には、彼女がどこまで進もうとも至れないという確信がある。

 それが、黒衣の七人ブラックパレード

 滅びに瀕した大地が生み出した七人の星の英雄。

 人類史の汎ゆる先端にして、最新の神話伝承。

 現代に生まれた伝説。七騎の究極の兵士。神の権能に等しい力を持つ――――最強の幻想。


 たとえ外敵を遠ざける力場を持とうとも。

 未知のエネルギーの、不可視なる装甲を纏おうとも。

 その姿が表されずとも。発砲に至る機会がなかろうとも。破壊の渦と共に飛び回ろうとも。


 一切関係なく――――――ただ、壊す。


 それが、ヘイゼル・ホーリーホックだ。

 それが、第八位の潜伏者ダブルオーエイトだ。

 これが、九人の撃墜数上位陣ダブルオーナンバーズだった。



 エディスよりも広域に、エディスよりも攻撃的に、エディスよりも濃密に、ヘイゼルの操る衝撃波による空間制圧が吹き荒れる。

 最早、どちらが攻め立てているのかは不明だった。

 プラズマの雨が古狩人を目指して撃ち込まれながら、空を蹴って飛び回るだけでそれらの光弾が自壊していく。

 プラズマへのさらなる振動付与によって、力場で捕らえきれないように乱しているのだ。

 そして高温のプラズマを纏った光の巨人では、通常の武器は掌握できない。アサルトライフルという武装を失ったエディスでは、もう許されるのは力場の破壊渦の投射と機体接近による直接の力場攻撃しかなかった。


 更には――大気があればそれでいいという、超広域に伝播する波紋による攻撃。


 無論、そこには、音波の集中点でなければ破壊が起こせないという誓約がある。

 それでも、不可視である筈の強襲騎士の航路に、その致死点は設置されていく。

 敵機の到達時間、音波の到達時間、極超音速で動く敵機の挙動と攻撃と、敵への迎撃と自己の思考から自機の挙動までの隙間をヘイゼル・ホーリーホックは全て計算しつくし――――対するエディスは、ヘイゼルがどこで仕掛けて来るのかを計算仕返し、そして、その空気を乱すために破壊渦を生み出す。


 最早それは、速度と破壊力に任せた機体戦闘ではない。

 ただ高度な――高度なチェスの盤面じみた読み合い。

 それに、肉体を苛むバトルブーストと、超高速での機体機動が合わさったという神域の戦場だ。


(クソ、化け物め……俺が、汎拡張的人間イグゼンプトまで至ってたなら――――)


 シンデレラ・グレイマン。

 メイジー・ブランシェット。

 そんな人間たちならば、この魔技は再現できずとも応じられる。攻撃の意思を読み、未来を読み、或いはそれを読み返したヘイゼルの神算すらも後出しで読み返して行動できる。

 逆に言うなら。

 そうでなければ、この男に読み勝つことなど不可能だろう。弾丸で弾丸を撃墜できるほどの機体操縦能力と、未来予知にも近い読心と演算がなければ――――彼を倒すことはできない。


 人類史の頂点。

 技量の最高点。

 汎ゆる英傑を超えた先。


 それが、この男なのだ――――――。


「ク、ソ……!」


 不可視の殺戮というエディスの機体へと返される、不可視の広域殺戮。

 機体管制AIと共に演算したとしても、彼の脳の方が保たない。或いは、機体のコンピュータが先に焼ききれるか。

 映像で確認した海の都市でのロビン・ダンスフィードとヘイゼル・ホーリーホックの衝突は、あれ自体が奇跡に等しい。こんな駆動者リンカーを前に凌ぎ切れるのは、きっとその二人自身を除いて他にはいない。

 そんな怪物との読み合いを、エディスは捨てた。

 光の巨人である強襲騎士――――【ジ・オーガ】が、再び空域へと帰還する。人間の視野に、再臨する。


「よぉ。……どっちが速いか勝負したい、って奴かね?」

「抜かせ。今ので仕留められなかった、テメーの負けだ」


 睨み合うように、光の巨人と古狩人が向き合った。

 エディスには――――必勝法がある。

 単純な必勝法だ。まさにサムが実行したそのように、真空を以って機体と大気を遠ざければいい。

 問題があるとすれば、一点。

 機体の装甲圧を、力場の圧力を集中して高めてしまったら今までのような移動ができなくなることと――それを機にシンデレラ・グレイマンが戦闘に完全参戦すること。


 そしてまさに、ヘイゼルの古狩人を庇うように聖騎士が舞台に登る。


 チラと、サムを見た。

 そして、エディスは首を振った。

 サム自身はまだ生存しているが、その機体は既に全力を発揮できる状況にない。【ルースター】自身は人妖花としてそこにあるが、それと鎖で繋がれた子機の大鴉たちは全て四肢を崩壊させ、胴体だけで浮いているにすぎない。

 これでは、【ルースター】に遠距離攻撃は不可能だ。

 そして、真空防御に電力を回している彼では――【ジ・オーガ】に出力で劣っている彼の機体の機動では、シンデレラ・グレイマンとヘイゼル・ホーリーホックの通常の攻撃を捌ききれまい。


(……教え子を前に出させるってのは、もうやめたんだ)


 そのために――ラッド・マウス大佐の手を借りた。

 かつての日々のような、ただ拳を握るしかない屈辱の日を超えるために。

 だから――仮にここでエディスが敗れるとしても、せめて【狩人連盟ハンターリメインズ】の存続価値を示し、ラッド・マウス大佐の計画を遂行可能な時間と支援を確保する。

 そのためにも、ヘイゼル・ホーリーホックという超常戦力を撃ち落として狩人としての意義を示す。

 それしか――――今のエディスにできることは、なかった。そしてそれが、すべきことだった。


(お前も、そう長くは続けてられねえだろう。それは)


 その【接続率:一〇〇%】というのは鬼門だ。

 汎拡張的人間イグゼンプト以外には耐えられない。他ならぬエディス自身が知っている。

 できて、精々が三分――【一八〇秒】。

 最大でそうだ。それ以前の攻撃で消耗させた、そしてこれが数ヶ月ぶりの戦線復帰であるヘイゼルではそこまで持つまい。

 そこまでの出力を保ち続けるのは、常日頃からそんな状態に慣れているエディスと――――そしてデータで知る限りではあのハンス・グリム・グッドフェローだけだ。


 故に――――覚悟を決めた。


 光の巨人と化した【ジ・オーガ】の背部二門のプラズマカノンが稼働し、充填を進める。

 紫電が弾け、裂けた大剣めいたそれに電力が集中していく。砲撃で択を迫る。ヘイゼルが、例の空振を用いてプラズマを乱せばその機動直後の隙を刈り取り――そうでないならプラズマの出力によって機体を焼き切る。或いはそれを隠れ蓑に近接戦闘を仕掛ける。

 腹は据わった。

 暗雲の下、煌々たる【ジ・オーガ】の《仮想装甲ゴーテル》が密度を増した。機体周囲の大気を押しのけ、真空の防壁を作る。


 この防壁を成す力場が破られればヘイゼルの音響攻撃によってエディスは負け、これが通じればエディスは勝つ。

 そこにシンデレラ・グレイマンが介入して来るならば彼女を撃ち落としても、【狩人連盟ハンターリメインズ】の役割は果たされる。

 そう、瞳を尖らせ――――


「……アルテミスさんを、迎えに行かないんですか?」

「――――――、な、に」


 少女の清涼な声が、そんな思考に割り込んだ。

 何故。

 何故、この少女が、アルテミスの名前を出す?


「言ってましたよ。……そんなに長く一緒に居たわけじゃないけど、アルテミスさんと。貴方が……アルテミスさんの旦那さんなんですよね?」

「――――」

「アルテミスさん、ずっと、あの街で待ってました。……連絡を取ろうとして、やめて。色々と言ってましたけど、一番は……エディスさんも『そう』じゃなかったら嫌だって。悲しいって。エディスさんに連絡をとって、『そう』思われてないと判っちゃうのが、嫌なんだって」

「――――――――――」

「……こんなところで、戦うのが貴方のやることなんですか? こんなふうに……こんな力があるのに。アルテミスさんを放ってまで、やりたいことなんですか?」


 そう。

 静かに問いかける少女の言葉に――――――


(言いやがったな、手前テメェ)


 ――――――――エディスは、臨界点に達した。

 何も知らない子供が。

 何も、真実を知らないものが。

 言うに事欠いて――――――自分の、最愛の妻を語るだと?


「お前」

「なんですか?」

「嫁と俺の話に、気軽に首を突っ込むんじゃねえよ。――

「――――っ」


 絶対零度の殺気に、空気が一瞬で凍り付いた。

 先程までシンデレラ・グレイマンに抱いていた、どこか負い目のような気持ちは完全に失せた。

 今まで見送ってきた民間人登用者たちのような年齢の少女を撃ち落とさねばならないことへの拒否感が、失せた。

 コイツは――――よりにもよって、自分とアルテミスの間の話に踏み込んだ。無遠慮に。あの女がどんな目に遭ってどんな境遇に遭って、それがどうしたら解決するかも知らないで。あの女が泣く顔も知らないで。

 こんな場で。

 殺し合いの引き合いに、アルテミスの名を出した。


(十度殺しても殺したりねえぞ、テメエ)


 臨界に至った殺意は脳を凍らせ、エディスを冷徹な計算式に叩き込む。

 激情のままに行動を乱すほど、兵士として乱心したつもりはない。今更、感情ぽっちで目的を見失わない。

 単に、ただ、何ひとつの遠慮もなくなっただけだ。


「――――――微塵に消えな、規格域外イレギュラーども!」


 そう呟くと同時、【ジ・オーガ】の背面プラズマカノンは再びの大規模砲撃を投射した。

 合わせて、機体が加速する。

 プラズマを堰き止める為に使われていた力場を、逃さずに機体加速に利用する。こうすれば、真空の鎧を纏ったまま彼は再びあの加速を手にする。

 力場渦の奔流とプラズマ照射で、二機は大規模に躱すしかできない。その分断の隙を突く。まず落とすのは、シンデレラから。ヘイゼルの音響攻撃は無視できる。ならば一番厄介なのは、プラズマライフルと超高速レールガンという力場破壊に長けた【グラス・レオーネ】だ。


 白銀の聖騎士と黒き古狩人へと、燦々と輝くプラズマの砲撃が迫る。

 あの日見た、海上都市を破壊した太陽神の槍じみて。

 完全に二機を焼失させるべく殺到するそれに合わせて、エディスは加速する。白銀の聖騎士を討ち倒すべく。

 だが――――彼女は、逃げも隠れもしなかった。


「貴方が戦うしかないなら……そうだと言うなら!」


 要因は――――単純だった。

 一度目の砲撃によって、広域にガンジリウムを散布してしまったこと。

 それだけが、何よりの理由だった。


 光の奔流を前にした聖騎士が、その手を掲げる。


 不可視の剣を掲げるように。

 不可侵の剣を翳すように。

 風が巻き起こる。力場を利用した風が。彼女の機体のその手元目掛けて、大気と銀煙が吸い寄せられる。

 ショルダーアーマーが展開し、高密度の力場の制御装置とも言える機構が紅き光を放射する。


 ああ。

 その光を――――一体、なんと呼べばいいのだろう。


 不可視ではなく、それは、輝いていた。

 それは、蒼銀に輝いていた。

 大気の奔流と共に銀血が収束され、集約され、集積され――白き騎士が掴み取った不可視の名剣/不可侵の聖剣。


 それが、編まれる。

 それが、伸びる。

 それが、迸る。


 輝ける星の聖剣は、再び、その真なる担い手の下で産声を上げた。


「どんな覚悟があっても……! 決意があっても……! この街の命を踏み躙ろうと言うなら……!」


 限界を超えた圧力に、その手の刃は煌々と燃え上がる。

 分子を維持ことさえもできず崩壊し、その崩壊が燐光として発露する。

 火なるものの、薪なるものの王があたかも世の炎にそう命ずるかの如く、それは、煌々と燃え盛った。

 星の懐きし聖剣が、数多の無辜の命の真上に顕現した。

 

 瞬間、吠えた。


 白銀の聖騎士が、吠えた。迫りくるプラズマ炎に目掛けて、吠えた。

 剣が、吠えた。

 放たれるプラズマの輝きすらをも塗り潰すような極光の刃が――――――両断する。


「わたしは――――――――その意志を断つッ!」


 ――一閃。


 プラズマすら断ち切る輝ける剣閃。

 全ての力場を収束させた大いなる刃が、吹き荒れるプラズマの火炎を真っ二つに断ち切り、そして力場の奔流が内部から顕現する。

 それは、完膚なきまでにエディスの算段を断ち切った。

 まずは、相手がこのプラズマに対処することを前提に策を組んでいた。なのに――それがよりにもよって叩き切られ、そのプラズマと力場の奔流は接近しつつあった【ジ・オーガ】の《仮想装甲ゴーテル》にまで干渉する始末だった。


 敵は健在。

 位置はそのまま。

 隙もない。

 音楽神への鎧が削られた。

 だが、


「俺、の……」


 エディスは、拳を握った。


「俺、たちの……」


 紫電が弾ける。

 光の巨人と化したそのプラズマの鎧ではない。

 機体そのもののジェネレーターが、限界を超えて稼働した。


「邪魔をするんじゃ……ねえ――――――――――――ッ!」


 《指令コード》――――《最大通電オーバーロード》。

 更に電力を上乗せした力場の精製で、ただ一直線に突っ込む。策も技もない。ただ意地だけで、強襲騎士は聖騎士目掛けて躍りかかる。

 あれだけの力場操作を行ったなら、何かしら、出力に影響がある。

 そう考え――――すべてを捨ててなお兵士の嗅覚として考え。

 一心に、狩人としての存在証明の為に強襲する。これだけを行ったシンデレラ相手ならば、間違いなく、撃ち落とせば箔は付く。【ハシバミの枝ヘーゼルアスト】を打ち砕けば、少なくともまだ【狩人連盟ハンターリメインズ】の存在意義は成立する。


 そう、奥歯を噛み締め――


「――――な、に?」


 エディスのその灰色の瞳と鼻から、血が垂れていた。

 唐突に、三半規管が乱れる。

 機体の方向が狂う。シンデレラの【グラス・レオーネ】を目指す筈だった強襲騎士が空を切り、無様に上空へと通り過ぎ、ふらつきながら錐揉み状態に落ち始める。

 これは、ヘイゼル・ホーリーホックの音響攻撃。


 ありえない。


 そう、反射的に見上げた先で――片手のショットガンをウェポンラックに戻して、何かを握り潰した古狩人。

 何かを。

 光る何かを。プラズマを。


「――――、って知ってるかい?」

「な、に?」

「音の速さじゃあどう考えても届かねえ場所や距離にまで音が届く……そういう現象だ。一説には、プラズマから発生した光の速さの電磁波が聴衆の耳元でで音になってるって話だが――――」


 つまり――――


真空それ、お兄さんの前じゃあ?」


 この土壇場で。

 シンデレラ・グレイマンを見せ札に使って。

 真空で隔絶された大気を飛び越えて、コックピットの中の空気を利用する形で。

 この男は、音による攻撃をエディスに叩き込んだのだ。


「……この、化け物どもが」


 粘膜から血を垂らしながら、落ち行くコックピットのエディスは呆然と呟いた。

 シミュレーター上は、【嵐の裁定者ストームルーラー】を用いずとも撃破可能な筈だった。

 だが、万全でないというのにヘイゼル・ホーリーホックは生き残り、シンデレラ・グレイマンに至っては数ヶ月前までそも警戒対象まで上がっていなかった筈だというのに、明確なる決定的戦力としてこの場にいる。

 そして実際に二機は――――エディスを打倒した。

 エディスの常識を裏切るような怪物たちを前に、彼は、幾度とない絶望の気持ちと共に吐き捨てる。


「って訳だ。詰みだぜ、教官どの?」

「武器を捨ててください! わたしたちは、こんなことをしてる場合じゃないでしょう!」


 頭上に君臨する、二人の超越者。

 これは本当に、彼らの言うところの詰み。絶体絶命なのだろう。

 本当に、その実力差は埋めがたいのだろう。

 だが――――諦観はなかった。

 ここで、諦めるという選択肢もなかった。

 諦められる筈がなかった。


 故に――――彼は、という道へと踏み出すことを決意する。


「……はっ。電磁波音ってことは、つまりは、お前からのしかできねえ訳だ。なら、まだ、俺の動きを読めはしねえよな」


 一つ、汎拡張的人間イグゼンプトの持つ特性がある。

 それは、機体や人間の状態に関わらず常に最高のパフォーマンスを発揮し続けること。

 だから、三半規管が破壊されていようが脳を揺らされていようが、関係ない。

 未だに汎拡張的人間イグゼンプトの領域には至れずとも、それに極めて漸近し――――そして類まれなる接続率を持つエディスだからこそ、本体へのダメージを踏み倒せた。

 そして、呟く。


全搭載兵装オールウェポン全弾薬回収ストックリターン――兵装全廃棄オールパージ


 彼の言葉に、機体システムAIが反応する。


第三臨界ギア:サードの必要兵装を満たしておりません】


 己自身の人格を鏡写しに削ぎ落としたそれとは別の、ただのシステムメッセージ。

 呼びかけても無意味なもの。

 だが――それがどこか心地よく、エディス・ゴールズヘアは笑った。


「……要塞狩りギア・サードじゃねえよ」


 言葉と共に、全店周囲モニター有するコックピット内に備え付けられた赤いボタンに指を伸ばす。

 本来なら、まだ、至れないもの。

 今のこの身では不足が過ぎるというもの。

 だが――――そのコンセプトたる【完全なる人格の電子化による死の踏破】は不可能だとしても、それでも振るえる剣がある。

 今の接続率なら。

 誰よりも深く繋がった――汎拡張的人間イグゼンプトには及ばぬ素質と対応性ながら、同様或いはそれ以上の接続率を持つエディスならば使える武器がある。


 其は――――――万物を経つ魔剣。


 上位者殺しの魔剣。

 天敵種への天敵。

 汎ゆる巨人を駆逐するための狩人。


 その名も――――


「コード――――【極光の魔剣アンサラー】。最終ギア……臨界フォース……!」


 周囲の空域が鳴動する。

 弾ける紫電。放電。

 不可視の嵐が巻き起こり、【ジ・オーガ】の腰部目掛けて銀煙を巻き込んだ気流が殺到した。



 ――――――――狩りの、時間だ。


 

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