【資料】企業支配体制における『株式戦争』の成立及び諸構造について

●戦争株

 《統一企業協会キャピタリア》に要請することで、『戦争株』の発行を決定。

 『戦争株』のトレーディングは、『戦争のための資源』と『戦争によって得られる資源』によって行われる。

 『戦争のための資源』とは武器供与や戦力提供、資金提供。ここでは金銭のみならず物品、サービスでの支払いを受け付ける。つまり、実際に戦力を持ち寄ることで『戦争株』の獲得を行うことも可能である。

 『戦争によって得られる資源』とは、土地・地下資源・成果物・人的資源など。


 これらの『獲得可能な資源』を査定し、『戦争株』の発行数を決定する。なお便宜上、そのトレーディングのレートとしては資金提供=通貨によるもので提示される。

 (仮にその時点で1戦争株が100ドル相当の価値とした戦場に10万ドル相当の戦力を持ち込めば、それは1000戦争株の保有として数えられる。その後の戦況によって『利益確定可能性が大になる』と判断されれば株価は変動するが、特に売買を行わない限り、参加時点の保有株数が低下することはない)


 なお戦争株の獲得によって戦争株主が得られる利益としては、以下の三点。


・株式の比率を全体で総合した後に、『戦争によって得られる資源』を分配する――――配当(インカムゲイン)。

・戦争株の売買による利益(キャピタルゲイン)。

・戦争株主に対しての、終結後のその土地の利用に関する『株主優待』。


 発行側については、


・不足する戦力の充実。

・配当や株主優待を希望する人々、また彼らの需要に対するサービスなどに応じた復興発展への手助け。

・《統一企業協会キャピタリア》に保証されたその地域への支配者としての正当性。


 の利益が存在する。



 より戦争を円滑に、簡易に、そして何よりも安全で損失の少ないものに。誰にでも開かれたものとする。

 配当や株主優待など『経済的な関係者』となることで各人への当事者意識を醸成し、その地域の戦後の復興発展への強い期待や人的資源・文化的資源の不当な喪失への抑制を図るものである。

 これは、戦争という大いなる損失――――そこで生まれてしまう損失を食い止め、失われてしまう尊い価値を守るための人道的な措置なのだ。




「我々は、今やこの世界で逃れられない戦争というものとの、より繁栄的な共存を実現します」





●免争符

 個人や企業、国家からでも『免争符』の購入が可能。購入した『免争符』に応じて、対象人物や施設の『破壊禁止度』が定められる。

 これはその戦闘領域における『免争符の総和』に対する割合にて算出。

 つまり、誰も『免争符』を持っていない状況で一人で所持すれば自動的に『第一級破壊禁止施設』として登録を受け、『株式戦争』の参加者はこれを破壊することに強いペナルティを負わせられることとなるが……。

 周囲全員が一枚所持している状態で所持しても、それは『全体が均一』であるために何ら破壊禁止施設の登録がされない――――ということを意味する。


 誰もが買ってしまったならば、その分余計に買わねば優待を受けられないものとなってしまう。

 ゲーム理論に基づき、購入が進めばそれは加速度的な売上となっていくだろう。


 戦争によって(そして死によって)失われてしまうその地域の資本回収の役割も担っている。

 なお個人から各企業に対して、これらの『融資』を受けることも可能である。自己の職務経歴や保有技能によって査定が行われ、それに応じて『免争符』の発行を得られることもある。




「より代替不能な人材に。より貢献的な人材に。

 社会は、貴方の成長を心より歓迎します」





●ドミナント・フォース・システム

 アーセナル・コマンドの管制AIに装備されたシステム。

 機体間での連携や共同を円滑とするためのシステムであるが、これを利用してリアルタイムで『免争符』の状況を共有。当該施設や人員に対する『破壊禁止級数』を表示する。

 また、戦闘終了後のトリガーロック措置などによって、アーセナル・コマンドを利用した当該領域での破壊活動などを禁ずるシステムである。戦闘終結後の、可及的速やかなる地域の安定を実現する。

 この書き換えに関しては強い罰則が存在している。


 より――――暴力を『制御されたもの』へ。


 まさしく、武力フォース支配するドミネイトシステムである。

 一説にはかつて猛威を振るった【フィッチャーの鳥】という組織での開発が行われていたらしい。




「我々は、これまでの人類が育んできた技術を正しく受け継ぎ、次世代のために活用します」





●【産女石クライベイビー

 背負子のように、後頚椎部に接続する赤子型の機械。

 アーセナル・コマンドとの脊椎接続機能を逆利用した『人体機能制御装置』。

 企業都市における罪人などに装着される。彼らに科された禁止行為への抵触に応じて人体機能への干渉を実行し、様々な制限を行う。


 これを装着することで、彼らのその活動においての一定の身体的な自由を提供した上で、各種禁止行為を定めることが可能である。

 拘束等を行う必要なく、その場所を用意する必要もなく、より効率的に社会への労働力を提供する。

 個人は大切な社会の構成員であり、限りない資源なのだ。




「我々は、貴方がたの健全な社会貢献機会の創出に向けて努力します」





要塞企業都市アーク・フォートシティ

 旧大戦で用いられた移動式前線要塞アーク・フォートレスのシステムを利用した自衛型の移動式企業都市。

 旧大戦やその後の戦乱で拡散してしまったアーセナル・コマンドによる都市部への単身強襲を防止するための、『個人によって焼き尽くされない都市』。

 旧大戦においても限られた兵士しかこれの破壊を行うことはできず、そのような一部の例外を除けば、大隊規模のアーセナル・コマンドの使用によっても揺るがされることのない防衛都市である。


 また、大規模な気候変動などにも対応可能であるほか、何らかの流通不安に対しても都市そのものを移動させることで新たに流通ルートを作成し、紛争による輸送障害などを防ぐ役割も見込める。


 企業構成員の内、一定の役職や部署はここへの入植が叶うようになっており、その安全で保証された生活によって経済活動への集中を図るための都市である。

 反面、非常に高価であるために十分な建造は実現していない。

 そのためにも、さらなる経済発展が必要である。




「我々は、貴方がたの生存を保証します。この戦乱の世にあっても、貴方がたは健全で文化的な生活を送る権利があります」





◆「戦争の経済的な価値及び【株式戦争】の提唱について 〜新機軸の経済的な戦争とは〜」◆



【序論】


 まず、戦争や紛争は何故起こるのか。

 →その原因は大別して以下の五つ。


 A①『資源確保』

 A②『民族間の対立』

 A③『支配構造に対する対立』

 A④『宗教による対立』

 A⑤『政治主張による対立』


 となっており、現在においてはこれらの要因が重複して戦争が起こる場合も多い。(例えばある国内での主流派の宗教と少数民族の宗教が異なる、少数民族が支配階級に入ることができないなど)



 そしてこれらの紛争・戦争の要因について『外部からの介入』によって明確な利益を確保できるのは、

 A①『資源確保』

 に関してである。


 その利益の確保に関しても、外部からの介入――つまり『当事者として侵攻を行わない場合』は武器供与や戦力供与ほかによって優勢勢力(或いはそれらによって優勢に『変える』勢力)と結び付きを強め、

 『戦争の代金としてそれらを受け取る』か『戦闘終結後に二国間の協力によってそれらの資源を優先的に取引するか』という形となる。

 前者の場合においては『戦闘が持続すること』が望ましいが、後者の場合においては安定した採掘や供給のためにはその国の情勢安定が不可欠であり、戦闘が長引くことは『この利益を損ねること』と同じである。


 そして後者を行う場合、何もそれは『戦争による関係性の構築』の必要はない。

 つまり、レンドアンドリースやサブスクリプションのような形でその国の持たない技術や生活インフラを提供し、その料金をそれら資源という形で受け取ることである。

 直接的な侵攻や征服を行う当事者以外にとっては、この、資源獲得のための戦争への介入というのも『戦争以外での協力が望ましい』ものであるのだ。


 ここで戦争を元に関係構築を図った場合、以下の危険が考えられる。


 ・既にその資源がその国から世界経済の流通ルートに乗っている場合の資源価格の高騰。

 ・上記資源によって生み出される『製品』に関連する事業の価格上昇。それに伴った消費者の購買欲の後退及び需要の減少に伴う供給(開発など)の後退

 ・情勢不安や先行き不安による世界的な景気の低迷(当然ながら自国や自社も影響を受ける)

 ・戦闘終了後の情勢不安による当該資源の制限――流通量の減少、価格の高騰。

 ・戦闘による当該資源の採掘施設などの破壊。


 いずれに関しても『短期的』や『ごく小規模』での利益の発生はあり得るかもしれないが、全体的にはマイナスの方が大きい。


 戦争は儲からない、と近年語られるのはこれらの要因による。



 そして資源確保のための戦争の当事者となれば、資源の獲得は叶うものの……以下の問題が発生する。


 ・国際的な信用の喪失に伴う資本価値の下落や経済制裁。関連して流通の制限。

 ・戦闘に伴った自国民の購買欲や消費の低迷

 ・自国民という経済主体の戦闘による損失

 ・帰還兵や負傷兵への補償


 勿論、『上手く』やればこのうちの問題については逃れることも可能であるが、戦闘が長引くことによってこれらの損害は増加していくことはデータ※1としても示されている。



 このようにまず『儲けられる間口が狭い』。

 となれば広げるべきであり、方法としては『①の戦争以外についても利益を得られる構造の創出』――『戦争そのもの』が儲かるものとする必要があるだろう。


 さて、では戦争そのものでの儲けを考えた場合に、既存の概念の中で挙げられる項目は以下である。


 B①武器の生産や売買による利益。

 B②新技術の開発による性能向上ほかの利益

 B③また、関連する道具や人的サービスによる利益の獲得。


 いわゆる軍事費の内の『装備費』における分野での利益の獲得である。

 

 しかしながら、A②〜⑤の戦争や紛争が発生する国家や地域に関しては、『そもそもの社会情勢が不安定』である傾向がある。

 社会情勢不安によって経済成長が思うように進まず、経済的な価値が低く、また今後の成長もあまり期待できないという状態だ。

 A①のように地下資源などが存在している場合はそれらを担保として利益を得ることは可能であるが、そうでない場合、これらの地域に対して武器やサービスを輸出することによっての利益の獲得は難しい。


 如何にしてそこにある資源の枠組みを広げるか、そしてここでも『如何に早くその情勢を安定させるか』が、戦争による利益の獲得の鍵となることは自明だろう。



 またB②について、戦争を利用した兵器技術の革新ということも視野には入れられるが、まず以下の問題がある。


 一点目『当該新型兵器の使用方法の伝達や整備、データフィードバックに関する人員・資材の配置』。

 二点目『当該兵器やその残骸の鹵獲による先進技術の流出』。


 まず、ここで得られる利益に関しては、あくまでもその場で直接的に生まれる利益ではなく、その兵器技術によって『将来的に生まれる利益』への投資の側面が大きい。

 調整のための人員、整備のための人員、その資材については当該国や地域から用意することが非常に困難であり、整備技術に関してはそれらの研修を行うにせよ、その機会を用意せねばならないという問題がある。

 現地の人材利用ではそこで得た情報などの流出が懸念され、合わせて二点目の当該兵器が破壊や喪失・鹵獲されて開発中の兵器についての技術流出の懸念がある。


 いずれにせよ、それ自体で大きな利益に繋がるとまでは言い難い状況であることは間違いないだろう。



 このように、戦争そのもので得られる利益は少なく限られており、全体的に明らかに経済的な不利益しか発生させ得ない。

 ただし予期される戦争に備えることにおいて――所謂『冷戦構造』――は、国家資本の大規模投入による研究開発などが期待される上に、対立国の軍事力増強と競うようにそれらへのさらなる資金投入が期待できるものであるが、現に発生してしまう戦争は余りにも不経済な存在だ。

 また、国家の支配能力がそんな状態まで取り戻される可能性は現在においては低くなっているため、これを期待することは難しい。


 その点を加味した上で、次章にては『より経済的な戦争』の枠組みを提起していく。


 なお他に、軍事的には『現に発生してしまった戦争』から得られる利益も存在する。

 新たに打ち出したドクトリンや実装した新兵器が本当に役立つものであるのか、効果通りに働くのかなどの検証の場として使うことが可能であるのだ。

 とはいえこれは国家――つまり『消費者』であり『依頼者』側の視点の話であり、生産者にとってはあまり利益に繋がらないということも付記しておく。




【本論】


 序論を踏まえた上で、戦争を経済活動に組み込む上で求められるものとしては、


 C①事後の安定化を図るための『暴力の効率的な支配』。

 C②当該戦闘領域の速やかなる戦後復興。

 C③『戦争そのもの』への価値の付与。利益の増大。


 が挙げられるだろう。


 C①に関しては、指紋認証などによる個人携行火器の使用の制限。また、ドミナント・フォース・システムを利用したアーセナル・コマンドの火力制限が挙げられるだろう。

 無論ながらこれらは万能ではない。

 個人携行火器については、登録者情報の改竄や内部の識別情報の改竄が想定されるものであり、アーセナル・コマンドに関しては、ドミナント・フォース・システムの登場以前のアーセナル・コマンドの管制AIへの置き換えやダウングレードによって対応が可能となってしまう。


 しかしながら、これらは、ある点によっての暫定的な対処が可能だ。


 即ち、それらの改竄稼業に関わることへのマイナス――格差の発生。その格差が重く、改竄稼業そのものに利益が生まれないためにあまり多くの人間が携わらないという仕組みの構築が必要である。

 そのために求められることは、『企業の正式な構成員についての特権化』及び『正式な構成員への昇格機会の増加』だ。


 現時点で、世界は、国家支配秩序の崩壊に伴う情勢不安を抱えている。更に後述する『戦争株』の発行によって、戦争の発生件数自体の増加が見込まれる。

 この地上のどの場所においても、如何なる資産を持とうとも、そこが戦闘によって吹き飛ばされかねない懸念があるだろう。

 ここにおける特権とは、つまり、安心と安全を保証することだ。


 旧戦争にて用いられた『アーク・フォートレス』という移動式の武装要塞を転用した自衛可能な企業都市の建造。


 この兵器は、アーセナル・コマンドを用いたとしても到底個人によっての破壊は困難である兵器である。

 かつての大戦において、単身でその撃破を可能とするという想像を絶する駆動者リンカーも存在したものの、その大半は既に死亡しており、今やアーク・フォートレスの優位性については疑いがない。

 企業の優良構成員からこれらの武装都市への入居を行うことで、この世界においての何よりも確実な安全な生活を保証するのだ。


 旧世紀のゲーテッドコミュニティ思想のような企業都市とそれ以外の物理的な安全格差こそが、これらの諸問題への対応策となり得るだろう。


 また同時に、それらの行為に対しての厳罰化や監視体制の強化は必要である。



 C②に関して、これは旧世紀から論ぜられてきたことではあるが、如何なる人道的な支援や倫理観も実際の復興を強く手助けするものではない。

 人倫に反する物事に対して人は強い忌避感を示し、それは例えば企業に対しての不買運動や世論の後押しによる制限法の制定などにも繋がるために注意が必要であるが、これを刺激することだけによる復興支援というのは些か確実性にかけている。

 より直接的にそこに『利害関係』を持ち込むことが、復興支援においての最大の手助けとなるだろう。


 つまりは、当事者化。

 その点において本論は『戦争株』の発行――【株式戦争】の導入について提起を行う。

 これは同時にC③の『戦争そのもの』に対する経済的な価値の付与という、そんな要求を満たすものである。


 まず、戦争株のシステムについてであるが――



(中略)



 戦争株によって、期待される効果としては『非正規戦の減少』『当事者化による復興要求の高まり』『地域安定化・発展要求の高まり』である。


 非正規戦は戦闘当事者間の戦力差によって引き起こされ、これが大規模戦闘の終了後も多発するテロリズムなどの政情不安の要因となる。

 これに対して株式を利用した戦力投入によって不均衡の是正を図り、また、ドミナント・フォース・システムほかによる破壊コントロール技術を用いて、それらの政情不安の要因を取り除く効果が見込まれる。

 そして第二第三については、これが所謂投資であるために投資者はその後の利益の獲得を願うことは想像に固くない。この需要が大きくなれば、それに対するビジネスというものも必然的に生まれてくる。


 国家支配体制の崩壊と、統一国家に対する反動によって全世界規模での紛争の多発は最早疑いがない。

 如何にしてそれらによる経済損失を防ぐか、そして経済発展を行うかということにおいて【株式戦争】の導入を提起するところである。



 そしてC③において、【株式戦争】は以下のような価値の創造によって対処する。


 D①資源という枠組みの拡大

 D②市場の拡大

 D③新たな利益発生の枠組み



 D①に関しては地下資源や地上資源や領土のみならず、よりもっと単純に戦争を行えば得られるもの――つまり、戦争を行う以上はそこに絶対に存在するもの。

 人的資源の確保を行うことである。

 太古の昔から行われた、『戦闘による奴隷の確保』と『奴隷による労役』だ。


 とは言っても、奴隷制度は現代では否定されているために、その直接運用はできない(企業イメージの悪化、各種人権団体からのロビー運動、国際的な枠組みからの批難など)。

 そのため、形式としては以下の手順を取る。


 (1)『配当』によって『土地』を分配。

 (2)その土地を『企業の所有地』に変更。

 (3)当該地域に住まう人間に対して『立ち退き要求』。

 (4)一定時間内(配当手続きの終了)に立ち退かれない場合に、『企業の所有地への不法侵入者』としての罪科を与える。

 (5)罪科に対しての『労役』を割り当てる。


 または、


 (1)戦闘推移中に『配当』によって分配される『土地』の決定。

 (2)当該地の住人に対して『戦闘中の保護』を提示。

 (3)住人との保護契約により、社員としての取り扱いを約束。

 (4)その後、事業に従事させる。


 また、後述する『免争符』の発行や購入に伴って、個人規模で企業等に対しての『融資要請』を行うことを可能とする。

 この際、要求者は自分の社会経歴、業務経歴、スキルなどによって企業に対しての『免争符』の発行を願い出る。

 その『融資』に対する返済義務が生ずるために、その返済としての『労働』を求めるというものだ。


 これによって得られることが何かと言えば、『本来なら戦争で失われてしまう筈だった人的資源』を確保可能なこと。つまり、人類全体規模での損失の消滅である。

 更に本来ならば応募や面接や双方の条件合致などの必要があった雇用に対して、よりスムーズかつ企業側のニーズに合わせた対応が可能であること。

 そして個人としても、戦闘による死亡が免れるという利益も存在する。

 更にはその事実の共有によって『社会的な価値の上昇は物理的な生存確率の上昇を招く』との認識を共有。社会全体において、個人へとそれらの成長方向性への強い向上心が見込めるものである。


 ……とは言ってもこれについては共産主義や社会主義に付きものである『評価者の絶対権力化』『評価者による虚偽情報や虚飾及び賄賂などの横行』も考えられるために、《統一企業協会キャピタリア》においては【ガラス瓶の魔メルクリウス】という演算シミュレーターによる評価システムを採用するところである。



 ここで事実上の奴隷制度であるものが成り立つのか。それとも初めからそんな手間をかけずに『奴隷制度』そのものを復活させればよいのではないか、という反証も浮かぶだろう。


 まず一点。


 現代では基本的な価値観として奴隷に対しての否定的な感情が存在しており、これの運用は強い反発を招く。価値観が完全に切り替わらない限りは難しく、そして既に存在している世代(つまり技術などを有している世代)は以前の国家支配時代からの観念を引きずっているために、直接的に奴隷制度を認めることは現状では難しい。

 無論、既に地域によっては国家支配に代わり罪科や警察機能を持つ企業は、反発を直接的な武力行使などによって収めることも可能である。

 しかしながらそれは『情勢不安』――――つまり、やはり、経済的な損失を伴う。


 二点目。


 人間は名目さえあればある種の事実上の奴隷制度を受け入れる余地がある、ということだ。

 例えば『経済的徴兵』という言葉がある。

 軍などに従事することで一定の学費を免除する制度があり、そのため、家庭の金銭事情によって進学できない者が本来の職の望みとは異なりながらも一定期間の軍務に就役するという事案がある。

 これは経済格差を利用した事実上の徴兵ではないか、という声が上がっているが、しかしその制度の存在している国では(予算上の問題がない限りは)これらの制度を廃止することもなく、また、これらを廃止した場合に最も被害を被るのはその『経済的徴兵』を受ける人間である。現実的に金銭の問題で進学ができない以上、彼らにとってはそれは間違いなくチャンスの創出なのだ。

 また同様に企業からの奨学金によるインターンシップ制度というものも存在する。これもやはり、貧困学生などに対して奨学金を支給する代わりにその就業の自由を一部制限するものだ。ある種の人身売買にも等しいが、これも行われている。


 つまり『本来なら存在しなかったチャンスを作ること』と『その制度を利用しない余地を儲けること』で、人は、奴隷制度に近似したシステムさえも受け入れることが可能であるのだ。

 無論一番は、価値観そのものを変えて『奴隷制度』への違和感を抱かせないことであろうが。

 


 D②に関しては、まず、軍事関連費用について考えることから始めたい。

 国家においては概ね平時、軍事費というのはGDP比率に対して先進国では1〜4%の割合を占めている。(冷戦状況などによっては10%などもあり得る ※2、※3)

 仮に全ての国や州が同一の軍事費を持っていたとするならば、世界経済のGDPに対しての1〜4%が軍事費の総量となる。

 そして無論のこと、ここには当該の兵士や関係者に対する賃金の支払いなども含まれてしまうために、『軍事関連物品の売上』や『開発費』はそれよりも下のものとなる。概ね研究によれば、冷戦状態にない平時において、それは50%を超えることはないと示されている。


 よって仮に装備費を50%とした場合でも、それは世界の総GDPに対して0.5〜2%。

 もし『軍事関連品の売上によって大規模な利益を生み出す会社』が存在するとしても、その少数社が利益を独占するよりも――むしろ『市場をより開かれたもの』として『より多くの人間が介入する市場規模』とした方が、そこで得られる利益は増えることとなる。


 つまり、『そもそも市場規模を拡大させた方が圧倒的に利益になる』のだ。

 その点においても金融商品及び建設・製造業の利用機会の創出としての戦争株は、これを補助する要素となるだろう。



 D③については、『免争符』の発行――破壊禁止対象の設定の売買という形での対応を提示する。


 この『免争符』のシステムは――



(後略)




【結論】


 以上のような状況から、【株式戦争】の概念――より経済的な戦争の成立ということは可能である。

 しかしながら、あくまでもこれは『持続可能な戦争経済社会』の到来を意味するものではない。

 むしろ、戦争というものは経済成長や世界の安定性や持続性の観点からはあくまでも避けられるべきものであるというのを忘れてはならない。


 これらの枠組みは、戦争を新たなる経済の主軸として売り出すものではない。


 B7Rの破壊から続く騒乱による国家秩序の崩壊によって、今後しばらくの間は世界的に戦争や紛争の発生が懸念される。

 そこで、戦争を通して生まれてしまう大いなる経済損失の低減――つまり我々の社会をより持続可能なものとするために、戦争を経済活動の一環として取り入れることで、そこで生まれる無秩序で混沌的な被害を抑えるための構造の確立である。


 戦争は、我々の全てではない。


 しかしそれが避けられないものであるならば、我々は戦争と向かい合わねばならない。


 経済的な視点を取り入れることによる無秩序破壊や過度の虐殺の防止。

 社会貢献度が高い貴重な人材の損失の抑制。

 戦争終了後の可及的速やかなる復興の樹立。


 そして、新たなる企業支配体制というものの堅固なる成立を願って行われるものだ。


 我々は、文明の火を存続させなければならない。

 国家という大いなる獣は、戦争という病によって持続不能なまでに衰弱し、我々はその王冠と火を受け継いだ。

 これ以上、この世界を壊さないために。


 あくまでもそれを第一義として、戦争を新たなる経済活動の枠組みに組み込まねばならないのだ。

 いずれ来たる、新たなる人類の夜明けのために。

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