--Love me do--
一生のうちに出会える人の中で、運命と呼べる相手はどのくらいだろう。
今夜は大通りが
冬の浮かれた人波の中、私達は街で一番大きな教会の裏手で、手指を何度もさすりながらアコースティックギターの弦をチューニングしていた。
〇 〇 〇 〇
私は音楽が好きな3人の友達と一緒に、バンドを組んでいる。リードギター、ベース、ドラムス、そして私が担当するボーカルとリズムギター。最近始めたばかりだけど、同好の士というのもあってか意気投合は早かった。
バンド活動を続けると
〇 ○ ○ 〇
ライブまであと1時間に差しかかったタイミングで、シスターの友達が白い息を切らしながらこちらへ駆け寄ってくる。
「ライカ!」
名前を呼ばれたので、軽くギターを
「なに?」
「サティが、来れなくなったって」
思わず「あぁ……」としゃがれたため息が
「体調が悪化したから無理だって」
そんなぁ、と落胆の相槌を打ちつつも、私は演奏で使うハーモニカの手入れをする。内心ではどうにかしてベース分を
「エリナ、ベース弾ける?」
「無理無理! 弾けるのってピアノだけだし」
「じゃあ、私がギターとベースを両方弾くしかないか」
「そんなことできるの?」
「いつか」
ガックシの擬音が似合いそうなほどの
サティが来れなくなったという事件をバンド全員が知った後、とりあえず私達はベース抜きでのリハーサルを初めてみた。正直、楽曲の
何度か軽く演奏してみたけど、違和感を感じずにはいられない。いっその事、アコースティックギターとハーモニカだけで完結するカントリーで時間いっぱい持たせようとも考えたけれど、それは私達の作りたい音楽じゃない。
どことなくバンド内に
○ ○ ○ ○
その時、何となく移した視線の先に一組の男女を見つけた。
私と同じ十代半ばに見える容姿、特に女の子の方は顔立ちが幼いながらも、服が
「こんにちは。もしよかったら、見学させてもらえませんか」
男子の方が、人当たりのいい声と仕草で話しかけてくる。断る理由もないので私達は了承するけど、これが普段の形だと思われたくないから、私は食い気味に注意を入れる。
「でもごめんなさい。今ベースがいなくって、ちゃんとした演奏はできないの」
すると、男は奇跡を目撃したかのように驚き
「本当ですか! 奇遇ですね。実はこいつ、ベースが弾けるんですよ。よかったら一緒にどうです?」
そして男に
正直に言えば、空いた凹を埋めてくれる凸が現れた巡り合わせは感謝しかない。だけど私はどうもこの少女が、流れのままに人前に出てパフォーマンスを出来るようなハートを持っているのかという不安の方が勝っていた。
少女は用意してあったサティのベースギターを
その出で立ちに一瞬で心を引きずり込まれる。
衝撃だったのは、彼女は右利き用のベースを左手で
興が乗った彼女は一呼吸吸い込むと、次にエディ・コクランの『Twenty Flight Rock』を演奏しながら歌いだした。今度、私は彼女のシャウト混じりの歌声に惚れ惚れした。叫ぶとすぐ
彼女の歌唱が終わると、いつの間にか私含むバンドメンバーは拍手を彼女に送っていた。通りがかった人も同様に拍手と指笛で喝采を
私は即座にギターを肩にかけていた。時間はまだ一曲分ある。リハーサルも兼ねて、何より私は目の前の彼女とセッションがしたくなって、
「ねぇ! ジーン・ヴィンセント弾ける?」
「『Be-Bop-A-Lula』?」
「そう!」
リードを取って、彼女のベースと合わせる形で弾きはじめる。曲自体はバンドで何回も弾いたけど、今宵のジーン・ヴィンセントはいつにもまして気分がアガっていた。凹と凸、右足と左足、私が元とは違うアレンジを入れてみると、彼女もちょっと奇をてらったフレーズで返してきた。
いつしか、私は人生で初めて「この人の傍にいたい」と願っていた。
○ ○ ○ ○
経過は早くも後5分で本番が始まってしまう瀬戸際まできていた。私はダメ元で彼女に、「今から出るステージにベーシストで出てくれない?」と持ちかける。
しばしの静寂が周りを包んだ。
それから彼女は右利き用ベースを左に構えると「フレーズを教えて」とだけ返してきた。
ドラムセットがステージへ運ばれる中、私は彼女に演奏する曲のベースフレーズを教える。彼女はみるみる曲の全容を理解し、ものの数十秒で一曲分に適応して
きた。元から音楽の素養が高いのだろうか。
本番1分前、私は最後の確認を彼女にする。
「貴方をお客様へ紹介をしたいから、名前を教えて!」
彼女は二三度瞬きを挟んだ後、確かめるように自らの名前を発した。
「ジュード」
「——それではご登場です、どうぞ!」
前説の男性が高らかに声を張り上げる。
冬空の下、私はジュードの手を取りまばらな観客の待つステージへ一緒に駆けだした。
愛しきライカの殺戮歌 私誰 待文 @Tsugomori3-0
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