(06)超えられない壁は壊せない


「オマエは俺の娘をキチガイ扱いするのか!」


 義姉の言動を相談し、姪の保護者変更と、義姉の心療内科への受診などを義父へ勧めた時の反応が、これ。

 あー、どっかで見た反応だなぁ、と心内で溜息。

 今から考えれば作戦自体が失敗だった。義父は元から心療内科系のアレコレにネガティブで、初期のころ近所はもちろん頻繁に実家へ来てくれる親戚方々にも、姪の状況や病気のこと等を絶対秘密にしていた。

 たぶん、姪が発症時に裸足で逃げ出し数時間も見つからなかった(発見したのは幹線道路沿いの空き地だったそうだ)、なんて事態になってなければ、騒いで暴れさえしなければ家奥に閉じ込めて、表に、それこそ叔父である旦那様や外嫁である私にも知らせずにいただろう。

 そういう思考タイプの義父に、正面から包み隠さずド直球で問題提起をし、アレコレだから義姉には保護者責任能力がないと、かつ(大嫌いな)心療内科へ受診させろ、とアケッピロゲに明言してしまった。


 痛恨のミスです。

 自覚はあります。

 反省しても遅いですが。


 当時は、ともかく明確に説明し、理解してもらった上で同意して欲しかった。

 義姉が病院や家であれだけグダグダ言動していれば、義父も薄々は気付いているはず、という楽観的な予想もあった。

 そんなハズがなかった。

 長年同居していたはずの旦那様ですら「確かに意固地だけど、受診させるほど?」という認識だった。事例をあげ連ね「これが「正常な一般人」って認識なのか」と聞き返したら沈黙でしたが。

 最低ラインでも義父に「法制的な保護者」を変更してもらい、義姉を治療から外さなければ姪の病状は悪化するばかりだと、理解してもらいたかった。


 が、義父は以降一切「保護者の変更」に同意せず、姪に関しては「病院行ってるんだから治るはず」と信じ込み、どんなに「義姉が病院側の治療方針を妨害しかしない」と説明しても「病院の責任なんだから、ほっとけ」と、だから方針の提案はできるが「保護者」が同意しなければ治療できない、という現状を理解してくれなかった。

「オマエが行ってるんだから(へらへら笑いながら)、大丈夫だろ」

 私は姪の保護者じゃなく、血縁もなく、立場的にはまったくの第三者。横で何言ったって「保護者」の意向が優先される。


 義姉は「娘には治って欲しい」言いながら、実際の言動は治療妨害。その事実と弊害を訴えても「病気は病院で治る」と妄信し、対策その他は「オマエやれ」と丸投げな義父。

 出発点から矛盾パラドックスなのに、それが理解できない実家。

 これが某チャネラーのいう「膿家」か、と暴言は心内。


 ので、外堀を埋める努力をしてみた。

 最初にやったのは、定期的に実家へ来てくれる、幼い頃からの義姉や姪を知っている親戚に、姪の病状と義姉や義父の非協力を伝え広げた。

 隠すから悪い。当初は隠そうと必死になるあまり(10代にやったら児童相談所で警察案件になりそうな)幽閉や座敷牢マガイなことをやっていた。姪が泣きながら訴えてきて、実家に聞いたら本当にやってて(しかも罪悪感なし)、抗議しまくったら渋々やめた。

 とかキナ臭い案件が幾つもあり、隠そうと無駄な努力をするより、周知にしてしまった方が、実家も周囲も気が楽になる。

 ついでに親戚へも援助か義父への説得協力を求め、それとなく言ってはくれたみたいだが、義父は長男という立場で「俺様が一番偉い!」根性で、無理だった。


 次にやったのは病院への相談。

 病院側も義姉の状態を「できれば受診を勧める」レベルだと認識はあったが、ここで法律というか法制の壁があった。

 成人した大人は、明らかに異常があった場合でも、問題を起こさず(問題にならず)日常生活を行っていれば、病院や行政が強制的に個人を受診させたり入院させたりはできない。

 実際の暴力を他者へ、もしくは自己へ振るう場合のみ強制入院ができる。しかし通常は個人の自覚、また法制的保護者の同意によってしか受診させる方法はない。

 姪の法制的保護者が心療内科へ受診した場合は保護者責任が他者へ移るが、問題が(表面的に)ない場合は保護者のままである。


 行政の相談窓口へも問い合わせたが、結果は同じ。

 この壁は十数年間もジタバタあがいて抜け道を探し回ったが、チリひとつこぼれてこない頑迷な壁だった。


 つまり、義父が認めない限り、この話は1ミリも動かない。


 今となっては義父も高齢で入退院を繰り返し、義姉を受診させる話は消え失せたまま。

 実際に義姉がナンと診断されるは知りようもなく、当然の結果だけになった。


 姪は再度行方不明となり、入院した。

 十年もの長期入院となった。



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