(03)根回しの無駄


 通院当初、義姉の基本方針は「薬を減らせ(飲ますな)」「薬を(量や種類を)変えるな」「早く治せ」だった。

 最初に処方されたのは……記憶が曖昧で申し訳ないが、リスペリドンだったと思う。

 ともかく最初は最低量で、身体に影響がないか、副作用が出ないかを見ながら段階的に薬量を変更して、最適を見つけていきましょう。

 という説明だった。

 が、3週間後の受診で、先生が「拒否反応なさそうだから薬の量を増やしましょうか」の言葉に、義姉の「駄目!」が炸裂した。

「薬を減らして下さい!」

 今が最低ラインだよ無茶言うなし、と私は思った。たぶん先生も思った。

 でも義姉の拒否は強硬で、折れた先生が「ではこのまま、また3週間後に」となった。

 帰り道の途中、義姉に色々聞いてしまったのだが

「薬の量、なんで駄目なんですか?」

「多すぎる」

「今の量が最低ラインって説明でしたよ?」

「でも」

「最適の薬量を見つけましょう、って前回」

「だから多い」

「家で姪ちゃんに何か不都合があったんですか?」

「知らない」

「(知らない?)気分が悪くなったりとか、騒いだりとか」

「おかしなコト言ってる」

「どんなコト言ってるんですか?」

「おかしなコト言ってる」

「どんな言ってるんですか?」

「おかしなコト言ってる」

「?? 具体的には?」

「知らない!」

 途中で不機嫌になり、それ以上に聞けなかった。

 帰宅後に相変わらず受診内容の確認を実家が(義父が)してきたので、受診内容と、次回に薬量の変更があるはずだから了承と、姪っ子の家での様子に気を配って欲しいことと(何故か「オマエがやってくれ」と言われた。別世帯なのに無理)、帰り車内の会話を伝えて「どういう意味ですか?」聞いてみた。

「ああ、まあ、気にするな」

 義父は苦笑いだけで終わらせた。

 この当時、まだ猫を被っていた私は、曖昧モヤモヤだったが引き下がった。

 義実家と余計な波風立てるモノじゃない。

 ま、遠からず本性剥き出しで怒鳴り散らすハメになるのだが。


 んで3週間後。

「駄目!」

 相変わらず拒否炸裂。訳わからん。

 先生が言葉を尽くして「治療方針である」「治療が遅れていく」「この薬の危険性は低いこと」などを説明してくれたが、何を言っても諭しても「駄目」の拒絶。

「なぜ」駄目か、「どうして」駄目かも何も言わずに、とにかく「駄目!」

 後々知るが、どうやら義姉は薬を「毒」だと思っている。何かのTVで薬を飲んで死んだ人がいて、だから薬なしで治せ、と要求していた? らしい。

「それ本当に統合失調症の薬だったんですか? サスペンスとかじゃなく?」

 と聞いたら(不機嫌そうに)黙ったが。

 病院側としては最適な案を提示するが、最終決定は保護者の(義姉の)意思が優先される。ので結局「また3週間後に」現状維持のまま。

 無理。義姉主導では治療は一向に進展しない。

 帰りにまだ呼ばれてもいない実家へ乗り込んで、義父へ(かなりきつめに)薬量の変更を義姉へ了承させるようにネジ込んだ。次回が駄目だったら義父が受診へ同行して下さいと(怒鳴り散らしたいのを我慢して)宣言しておいた。


 んで3週間後。

「駄目!」

 この〇〇姉がぁ、〇ね!(←本気で叫びたかった)

 帰って速攻義実家、義父へ。

「次回はお義父さんも来て下さい!」

「いや、まぁ、なぁ?」

「来て下さい!」

「(へらり笑って)オマエに任せとけば大丈夫だろ?」

 大丈夫じゃないから招集かけてんだろうが、この〇〇ボケ!(←怒鳴らなかった自分褒めたい)


 んで3週間後。

「お義父さん、行きましょう」

「いや、これから出かけるから無理だ(にへら)」

「行きましょう(気分的には怒髪天)」

「いや、だから」

「私は3週間前からお願いしてます。そちらのご用件は以前からですか? 先約を教えて下さらなかったのは何故です? それとも3週間前からの約束を反故にしなければならないほどの急用ですか?」

「その……」

「問題ありますか? ないなら、行きましょう。ああ、先方へ礼を欠くご連絡は私がした方がいいですか?」

「いや、いい」

 病院へ着いてしまえば大人しい義父。そして「病院」「医師」の威光に弱いらしく、素直に説明聞いてウンウン納得し(たフリ)、あっさり増量承諾。義姉も義父には逆らわず(不機嫌そうだが)黙って同意。

 やっと少し治療が進展した。


 と、思った、の、だが。


 3週間後。

「薬を減らせ!」

「薬を減らせ!」

「薬を減らせ!」

「薬を減らせ!」

「薬を減らせ!」

 大連呼。

 元の木阿弥で、以後このループ。


 通院に毎回義父が同行するか、義姉を説き伏せておいてくれと頼むもスルー。

 一度義姉と大ゲンカして「先生の指示を聞けないなら治療に関わるな!」と取り決めたが、たったの1回守られただけで「保護者の私がなぜ関われない!?」の正論に撃沈。

 保護者なら先生の指示を聞けというと「わかった」同意したふりで、実際は「でもでもだって」で「薬を減らせ」しか言わない。

 へらへら逃げ回る義父をハラワタ煮えくり返りながら病院へ同行させ、やっとの思いで薬を変更させても義姉がブチ壊す。

 一度義母へ同行をお願いしたが「私わかんないから」無責任発言された。

 でも義母は下手に動くと義父に「おまえ馬鹿なんだから勝手に動くな!」言われるし、義姉も何故か義母の言いつけには素直に従わない。

 旦那様にももちろん相談していたが、弟の意見を父親や姉が聞くわけない。


 そんなこんなで当然、姪は悪化していった。


「姪ちゃんに治って欲しいのですよね?」

 こう聞けば、義実家全員口を揃えて「とうぜん」と答える。

 が、行動が結果へ伴なわない。


 姪は数年後、入院する。

 十年以上の長期入院となった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る