売れない地下アイドルの私ですが、唯一のファンが神様でした

長埜 恵(ながのけい)

第1話

 私の目の前には、神々しい神様。ゆったりとした真っ白な服に身を包んで、後光を携えて。まるで絵に描いたような秀麗眉目のオジサマが、私に向けて微笑んでいる。

 ――何故か、ひざまづいて。

「ああ……本当に存在している……!」

 手を組んで、涙を浮かべて、声を震わせて。

「そ、その、我、ずっと『もちもち☆ふぇすTバル』のえむりんのファンだったんです……! ふへっ、へっ、ひょお、本物ぁっ……!」

「……」

「あ、そのっ! ライブとかだけじゃなくて配信も見てました! あ、お布施もちゃんと払って……はい!」

「……」

 何故、こんなことになったのか。

 話は、少し前に遡る。




 私の名は、東山えむる。『もちもち☆ふぇすTバル』の“えむりん”として活動している地下アイドルだ。

 地下アイドル――それは夢と絶望の入り混じる混沌。

 だけどもそこで歌い踊るのは、目の前のお客さんを熱狂させたいから。いつかテレビ越しに、たくさんの人を夢中にさせたいからだ。

 けれど、同じように思う人など掃いて捨てるほどいる。私よりずっと実力がある人は勿論、上に行くためには手段を選ばない人も――。

「アンタがいると邪魔なのよ」

 ある日突然背後からそう言われたかと思うと、私は階段の踊り場から突き飛ばされていた。

「アンタさえいなけりゃ、アタシが選ばれていたのに……!」

 その言葉に驚き、最後の力を振り絞って自分を突き飛ばした人を見たのである。何故なら、恨まれる心当たりが一切無かったからだ。

 出るオーディション出るオーディション、片っ端から落ちまくる。固定ファンだと思ってた人も、後からきた新人ちゃんに持っていかれる始末。ダンスと歌は人一倍練習している自信はあるけど、不思議と華やかさが伴わない。

 地下アイドルグループの隅っこで踊る女の子。そんなうだつの上がらないアイドルが、私だったのだ。

 なのにこんな私が、まさか誰かの目の上のたんこぶになれていたなんて……!

 と、いっそ嬉しかったというのに。

 両腕を突き出した女は、私の顔を確認するなり目をパチクリとさせたのである。


「あ、間違えたわ」


 嘘やーーーーーーーーーん!!!!

 私は階段から転げ落ちた。




 で、死んだと思ったらここにいたのだ。自称私のファンだという神様の前に。

「あ、あの、 へへへっ、じっ、実は我、CDとかも買わせてもらってまして……。そうだ! 人気投票とかもありましたよね!? 我本当は天界揺らぐぐらい買ってえむりんをトップにしたかったんですけど、以前ラジオでえむりんがファンに負担をかけてまで一位になりたくないって言ってたじゃないですか! だから我慢して二十枚しか買わなくて……! でも! 心だけはめちゃくちゃこめて投票しましたから!!」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「あーーーーーーっ!! 声っ!! お声がお可愛くてございます!! S、M、L、ビッグ! う〜〜っ、フルサイズ!!(※掛け声)」

「えむりん、えむえむっ! ちょうどのサイズ☆(条件反射)」

「あああああああああああーーーーーっ!!!!(幸福な死)」

 後方にのけぞる自称神様の不審者。けれどファンだと言ってくれるなら、蔑ろにしちゃいけないなと思い始めた私である。

 ……うん、いつか他の子の元へ行ってしまうとしても、今は私のファンでいてくれるのだ。だったら、せめてその一瞬だけでも大切にできたらと思う。

「えずっ、うぐっ、ひっく……!」

 そして謎のオジサマは、絶賛男泣き中だった。黙って様子を見守っていると何やらごそごそやり始め、両手であるものを差し出してくる。

 持っていたのは、ボロボロのペンライト。それを見た瞬間、私は驚きで目を見開いた。

「わっ、すごい! これ私が初めてステージに立った時のペンラですよね!?」

「ああああっ、はははははい! その、初めてステージを見た時に、こんな健気で可愛い女の子がいるのかと感動して……! 堪らず買ってしまって!」

「わー、わー、残ってたんだ! あ、まだ光る!」

「はい! あ、も、もっと綺麗なのも見ます? 保管用にしようと同じの十個買ったんですが……」

「あの時の売り上げ、全部あなただったんですか!」

「いつ壊れてしまうかと思うと気が気じゃなく……! そっちは神力を使って劣化を抑えてます!」

「私のペンラ神器になってる!!」

「でも、これだけは……! このペンラだけは、えむりんに出会ってからの時間を感じたくて神力を使ってないんです! この使い込みっぷりが、我とえむりんの過ごした時間なんだって思えるので……!」

「神様ともなると感性が独特になるんですね……!」

 よくわからないけど、とても熱心なファンであることには間違いないようだ。嬉しい反面、今までそんな人に出会ったことが無かったので、なんだかくすぐったい。

 何かお礼をしたいけれど……。

「……あ、そうだ」

「はい!」

「その……もし良かったら、何か歌いましょうか? 最近新曲もリリースされたんですが、それとか」

「………………」

 自称神様が、完全にフリーズした。かと思うと、両手で顔を覆いそのままゆっくりと後ろに倒れ始めた。

「…………これ以上好きにさせて、どうする気…………?」

 何か聞こえた。

「嘘じゃん……推しが目の前に現れて我の為だけに歌ってくれるとか完全夢じゃん……夢神様に落ちちゃう……」

「大丈夫ですか?」

「『南のとろぴかるっ!? 水着でまーち!』でお願いします!」

「わーっ! 新曲までチェックしてくださってるんですね! ありがとうございます!」

「ふうううううん当然です! もちのロンです!!」

 何はともあれ、生まれて初めていただいたリクエストだ。全身全霊で応えなければならない。たった一人のファンの前で、私はビシリといつものポーズを取った。

 当然、今はステージに立つ時のような音楽も演出もあるわけがない。けれど、練習の量だけは誰にも負けない自信があるのだ。ひとたび踊れば、音楽は勝手に頭の中でついてくる。

「♪フ・リ・ルーのーふりっふりっ」

「フゥッ!」

「♪波のようーに揺れ揺れてっ!」

「えむりんっ!」

「♪世界まるごとぱっくんなーのっ!」

「なーのっ!」

 合いの手は、完璧だった。嘘でしょ、この曲発表されたのおとといなのに。

「ぐううっ……! もう、もう、感無量です……!」

 ぼたぼた落ちる涙をゆったりとした白い服で拭い、神様は言う。

「こんなに間近でえむりんを見られるなんて……しかも我の為だけに歌ってくれるなんて! いや、それより何より……!」

「なんですか?」

「……えむりんが、我の想像したままのえむりんだったことがあまりにも尊くてっ……!!」

 我の想像したままのえむりん?

 首を傾げる私に、彼はポツポツとこぼす。

「アイドルとはいえ、一人の人間であることに変わりはありません。愚痴や陰口を言うこともあれば、誰かを憎んだり恋したりすることもあるでしょう。いえ、それが悪いとは言わないのです! 人として生きる以上、そういった面があるのは当然ですから。けれど……そうは分かっていたとしても、やはりどこか割り切れない部分があるのもまた事実」

 神様は、しょんぼりとする。

「勝手とは知りながら、我は推しに理想を抱くことをやめられなかった。えむりんには、犯罪やスキャンダルとは無縁のキラキラした場所にいてほしい……そう思い続けていたのです」

 そう話す彼は、罪悪感に苛まれているようだった。けれど、私にだってその気持ちはよく分かったのである。

 私の周りでも、スキャンダルの発覚で大バッシングの中やめてしまった女の子がいる。アイドルという言葉は、元は偶像崇拝の意味だ。ファンはアイドルに夢を重ね、理想を求め、自らのイメージと違ったと知ると幻滅してしまう。とうとうアンチにまでなった人の話だって聞いたことがあった。その顛末をアイドルの怠慢だと言う人もいれば、ファンの我儘と言う人もいたけれど。

 キラキラした世界で、キラキラと輝く女の子。どうかその心も太陽のようだったらと願う気持ちは、私も持っていた。

 ……。

 いや、私の場合は追いかけてくれる週刊誌の人もいなかったんだけどね。

「ですが!」

 神様は、パッと顔を上げる。

「お会いしたえむりんは、私の理想としたえむりんそのものでした! 努力家で、ファンのことを一番に考えてくれて、どんな時にも一生懸命で……! 私が理想としたアイドルの全てを詰め込んだようなアイドル! それがえむりんだったのです!」

「うわぁー、そんな褒めてくれるなんてえへへへへ」

「真実を述べているまでです! あなたは素晴らしいアイドルで……! 本当に……理想的な……!」

 が、突然神様の空気が不穏になる。ただの雰囲気だけではない、マジの暗雲が立ち込め始めたのだ。何なら、ちっちゃい雷までバリバリと落ちている。

「……ですが下界の者は、あろうことかそんなパーフェクトアイドル・えむりんを排除しました。えむりんという名の地上の星によりかろうじてマシであった世界は、今や愚鈍蒙昧なる二足歩行の巣箱に堕ちてしまった」

「……ん? え? うどん?」

「えむりんがいない世界にどんな存在意義があろうものか。そういうわけで、急遽『ノアの方舟セカンド』を始動することにしたのです。あと十分ほどで申し訳程度に終末の鐘が鳴り響き、えむりんを追い出したあの世界の屑どもは全員滅殺されるでしょう。ご安心めされよ」

「いや……ちょっと待ってちょっと待って!」

 何一つ安心できる要素の無い発言に慌てる。――ヤバい、この人の言っていることは真実だ。神通力なのか私の動物的直感がここで開花したのかは分からないけれど、本気だということだけは理解できる。マジだ。マジの目だ。マジで彼は世界を滅ぼそうとしている。

 止めなければ! 私は、がしりと神様の両肩を掴んだ。

「ふわーーーーーっ!!!!???」

「落ち着いてください、神様!」

「あああああえむりんが! えむりんが我に触ってこんなことならもっといい服着てくるんだったもう一生洗えないいぃぃぃん!」

「確かに、私は一人の人間に殺されました。しかも、人違いという大変不本意な理由で」

「はい! 滅ぼそうと思います!」

「落ち着いてください! ……でも、あの世界には私を育ててくれたお父さんやお母さん、応援してくれた友達が生きてるんです。きっと、あなたのようなファンの人だって」

「……!」

 神様は、パチパチと睫毛の長い目を瞬かせた。……うん。私もあなた以外にファンがいるかは分からないけどね。でも握手会とかで来てくれた人も数人はいるわけだし、そこは流れ的なやつで察してほしいと思う。

「そんな人たちを、私一人のために全員無かったことにするなんてできません。それに私、あなたが手を汚すことだって嫌なんです」

「えむりん……」

「殺されてよかったとは思わないけど、死んじゃったからこそあなたとこうやって話すこともできました。私、あなたが応援してくれてるって知れて嬉しかった。あなたがいると知れて、本当に良かったと思ってるんです」

「え゛む゛り゛ん゛!!!!」

 神様が泣き崩れた。両手で顔を覆い、地に突っ伏して声を上げている。……正直、こんな間近でオジサマが泣いてるのなんて見たことない。どうしていいか分からずしばらく肩に手を乗せていたけれど、方舟計画の阻止が先決と気がついた。

「あの、神様。例の方舟計画は……」

「あ、はい! やめます! 止めます!」ピッ

「そんな懐のスイッチ一つで止まるものなんですね」

「まあ滅んだ所で、一から作ればいいだけですからね。また何億年かかければ、ヒトに近いものが作れると思いますし」

「神規模が故のガバガバ倫理観……」

 ――ああ、だけど私にも、ここまで本気で怒って泣いてくれるファンの人がいたんだなぁ。情緒が安定しないオジサマには申し訳ないけど、私はしみじみと感慨深い気持ちになっていた。

 ずっと願っていた。たった一人だけでいい。世界にたった一人だけでいいから、私が舞台に立つことで笑顔になれる人がいたらいいと。歌うことで、踊ることで、その人が抱えるだろう苦しみやしんどさから一瞬だけでも引き上げられたらと。

 この人にとって、私はそういうアイドルでいられたのだろうか。とても気になるし、尋ねるのは簡単だけど……。

(聞いたらまた、世界滅ぼしちゃいそうだしな……)

 なんせスマートフォンを持つノリで、人類滅亡スイッチを手にしていたのである。下手なことを言えば、勢いに任せてボタンを押下してしまいそうだ。もっと厳重に扱って欲しいと思う。

 そういうわけで神様を見守っていると、ようやく泣き止む兆しが見え始めた。

「ううっ……ぐすっ……」

「大丈夫ですか?」

「優しい言葉はどうか胸にお納めください……。今の我にえむりんの優しさは沁みすぎる……」

「そうですか……ままなりませんね……」

「……そういえばえむりん、あなたはこれからどうするおつもりなのですか?」

「え?」

 それ私に聞くの? 逆にこちらからオーダーできるシステムなの?

「……むしろ何ができるか分からないので、ざっとした流れを教えてもらっても構いませんか?」

「ええ、わかりました。通常の魂であれば、生前の罪の重さを測った上で、該当する生命の泉にご自身の魂を溶かすことになります。こうすることで、また魂は様々な形にリサイク……転生することができますので」

「今リサイクルって言いかけましたね?」

「資源は有限ですから。新しいものを使うより、こうして転生させたほうがエネルギーの節約ができていいのですよ」

「魂ってそんなペットボトルみたいな扱いなんですか……」

「ですが、えむりんの魂はあまりに尊過ぎるのが問題です。それこそ泉にぶち込もうものなら、浄化作用により泉自体が蒸発しかねないほどに」

「そんなことないですよ」

「故に、我は考えたのです」

 神様は立ち上がり、絵画と見紛うばかりの神々しさで両腕を広げた。

「えむりんには、単独天界ツアーをやっていただこう――と」

「……」

 次の瞬間、どっと私の全身から冷や汗が噴き出た。

「な、な、な、な……なんて? 今なんておっしゃいました?」

「はい! えむりん単独天界ツアーです! 勿論えむりんが『もちもち☆ふぇすTバル』でのツアーを望まれるお気持ちもわかりますが、流石に全員ここに引っ張ってくるわけにはいかないので!」

「そりゃそうですよ! 私死んだからここにいるのに!」

「なのでえむりんのみでのツアーとなります! 大丈夫、既に前売り券は完売しました!」

「前売り!? 完売!!?」

 何故私の知らないツアーの前売り券が完売してるの!? 混乱で言葉を失う私に、神様は得意げに鼻の下を擦って言った。

「そりゃあもう、我は以前より昼夜を問わずえむりん、及び『もちもち☆ふぇすTバル』を天界の連中に布教しておりましたので!」

「布教!? 神様が!!?」

「よって、今えむりんはこの天界においてトップアイドルと呼んでも差し支えない存在です! 我以外にも魂の追っかけがいるくらいで……まあえむりんなら当然ですがね!」

「魂の追っかけって何!!?」

「そんなえむりんが亡くなってしまったと知った時、我はもうショックにショックを受けました。そうしてすっかり我を失った我は、気づけば敏腕マネージャーの手腕であっという間にえむりん追悼天界ツアーを企画していたのです」

「今追悼って言った。絶対言った」

「舞台演出、バックダンサー、照明諸々……全て手配し、前売り券も完売しました。しかしここで一つの悲劇が起きたのです。同時発売したえむりん特別ステッカーが、現在天界オークションで破格の高騰を見せています。しかもここに転売ヤーなどという不届きを行う者はいないので、手に入らなかった者は血涙を流すばかり……」

「今すぐ再生産してあげてください! お願いだから!」

 とんでもないことになっている。知らぬ間にトップアイドルになっていて、単独ツアーが開催される予定で、オリジナルグッズは高騰し、前売り券は完売していた。中心人物なのにこんなに蚊帳の外ってことある?

「ですが……我ながら、先走り過ぎたとも自戒しております」

 ここまで来ると流石に神様にも自覚はあるようで、もじもじとして言った。

「お断りいただいても結構です。えむりんが望まぬことを、我が押し通すわけにもいきません」

「は、はあ」

「ですが、これだけは見て欲しいのです」

 神様がパチンと指を鳴らすと、ドサリと私の前に紙の山が現れた。その中の一枚を手に取って見てみる。「いつも明るいあなたから元気をもらっています」「応援しています」「あなたの歌い踊る姿を生で見てみたい」……。それは、紛れもなく私に対するファンレターだった。

「これは……」

「そう、えむりんを待ち望む天界の奴等の手紙です」

「さっきからちょいちょい天界の人々を見下してきますね」

「これほどまでに、皆えむりんの姿を楽しみにしているのです。なんせ今までは、映像や念力でしか見られなかったのですから……」

「念力……」

「ちなみにそのファンレター、五十枚ぐらいは我のです」

「ありがとうございます」

「なので……どうか、考えてくれませんか」

 そう言う神様の目はとても真剣で、まっすぐだった。……嘘をついている人の目には、見えない。でもこの際、彼が嘘をついていようとドッキリだろうと、なんでもよかった。

「こちらから、お願いしたいぐらいです」

 神様の手を取って、私は言った。

「私でよければ、歌わせてください。私はこの場所を知りませんが、やりたいことはずっと変わっていません。歌って、踊って、誰かを元気にしたい。私にはそれだけです」

「えむりん……」

「どこにだって行きます。私の歌を望んでくれる人がいるなら、そこが私のステージです」

「え゛む゛り゛ん゛!!!!」

 またしても神様の涙と鼻水が決壊した。嗚咽に混ざって、「推しが尊い」「神」「いや神我だったわ草」などと聞こえてくる。

 思えば、場末の地下アイドルからとんだ出世を果たしたものである。実感としては、出世というより早世だけど。そこは間違いないのだけど。

 でも、死んでもアイドルって上等じゃないかと思うのだ。今更失うものも無し、思う存分ステージで歌って踊ってやろうと思う。

「……あ。ちなみに今後は我、えむりんのファン、及びマネージャーとしてえむりんを支える所存ですので」

「え、だけどいいの? あなた神様なんでしょ?」

「ですがえむりんのマネージャーでもあります」

「もう就任してらっしゃったとは……」

「大丈夫ですよ! ちゃんとファンとマネージャーと神の線引きぐらいできます! 早速こちらに我が組んだステージのプログラムがあるのですが……」

「このトイレットペーパーばりに巻かれてる紙が!? 長くない!?」

「我が見たいえむりんを詰め込んだら、自ずとかような長さになりました」

「全然ファンとマネージャーの線引きできてませんよ! えっと、他にも演出担当の方はいますよね? その方から客観的な意見をいただいては?」

「しかし、彼女もまたえむりんの熱烈なファンです。一任させたらこの紙の五倍にはなるし、そんな彼女と我が打ち合わせようものなら一人が一生尻拭く紙に困らないぐらいのプログラムができるでしょう」

「わかりました。差し出がましいとは思いますが、私もプログラム構成に携わらせてください」

「はい! いけませんねぇ……悠久を生きる者として、どうしても時間感覚が人間とズレがちです」

「大丈夫です、私も神様の時間感覚は分かりませんから。これからお互いに知っていきましょう!」

「えむりんマジ後光!!!!」

「眩しい!」

 ――ああ、これから忙しくなりそうだ。私の胸は生きていた時と何ら変わらず、ドキドキと高鳴っている。相変わらず未来なんて一つも見えないし、不安は付き纏って離れやしないけど。

 私は、私だ。どこにいたって、前を向いて走り続けることができる。まだ見ぬ誰かのために、そして私自身のために。

 歌おう。踊ろう。笑おう。花びらのように、私を世界中にばらまいてしまおう。

「……本当に、尊い方です」

 最後に目尻に溜まった涙を拭い、神様は微笑む。

「あなたのような素晴らしいアイドルを推せることは、私の誇りです」

 そんな神様を振り返り、私はいつもの決めポーズを披露したのだった。

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売れない地下アイドルの私ですが、唯一のファンが神様でした 長埜 恵(ながのけい) @ohagida

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