白いフワフワ、白いモコモコ、赤いモコモコ

黒猫虎

短編



       1



 深夜0時。


 同棲中の彼女にゴミ捨てを頼まれた。


 非常階段を降り、ゴミ捨て場まで出陣する。




       2



 ゴミ捨て場にゴミ袋を捨てていると、近所のオス猫が、


「う゛ぁーおん、う゛ぁーおん」


 と鳴きながら歩いている。



 それをなんとなく目で追ってしまう俺。


 すると、その後を白い子猫のような、いや風に吹かれたレジ袋のようなものが、ふぁさーと後をついていく。


 小さな白いフワフワだ。



 なんとなく見ていたら、その白いフワフワが一瞬で巨大化し、そのままオス猫を飲み込んでしまった。



「ふぎゃお゛ぉぉ゛!」



 一瞬、オス猫の叫び声が上がったが、すぐに静かになる。


 俺は瞬間的に感情のスイッチをオフにした。





       3



 超危険察知能力が働いたのだろう。

 全身の鳥肌は強制的に静めた。



「俺は何も見ていない」



 自分にそう言い聞かせながら、アパートの自分の部屋に戻ろうとすると、エレベーター前に白いフワフワが先回りして待ち伏せている。


 どうやって先回りできたのか。

 瞬間移動か。


 とにかく、気づいた素振り自体、向こうに感づかれたくない。



「俺は何も見ていない」



 エレベーター前をスルーし、階段で上ることにする。

 4階なので、足腰が鍛えられた。

 良いことだ。



 しかし、自分の階にたどり着くと自分の部屋の前に、また白いフワフワが待ち受けていた。





       4



 白いフワフワは至近距離だと、モコモコの毛が生えているのがわかった。


 俺は、白いフワフワから白いモコモコに認識を改める。



 このまま部屋に入るのは危険だ。

 部屋の中には同棲中の彼女が待っている。

 自分だけでなく彼女の身に危険があってはいけない。




「俺は何も見ていない」




 俺は白いモコモコに気づいてないフリをしながら、夜中の散歩に出かけることにした。




「そういえば、日課の散歩忘れてたわ」




 白いモコモコにも聞かせるつもりで、独り言を口ずさむ。




       5



 俺は、予定外の散歩に出かけた。


 しかし、その行く先々に白いモコモコが待ち受けているので、度々の方向変更を余儀なくされていた。

 


 直進すると白いモコモコが待ち伏せている。

 右に曲がれば白いモコモコが待ち伏せている。

 引き返すと白いモコモコがフワフワとついてくる。




「ふー、けっこう歩いたな」



 かなり歩かされて疲れた俺は、明るい光を見つけ、フラフラと吸い寄せられるようにコンビニに入った。



  ――ぴろりろりろりろん、ぴろりろりん♪



 来店の音楽と共に、コンビニの中に避難する。

 コンビニの中には俺以外に1人の客が雑誌を立ち読みしていた。

 その他にも買い物中の客が1人にレジに店員が1人の合計3人。



「俺も……しばらく立ち読みして、アイツ丶丶丶をやり過ごすか」




 雑誌を手に取ろうとしたその時、




  ――ぴろりろりろりろん、ぴろりろりん♪




 俺に続けての来客を知らせる音。




 何気なく店の入り口を振り返って確認すると、白いモコモコがそこにいた。





 俺の全身をゾワっと鳥肌が襲う。







       6



 ある意味、コンビニにあっても不思議ではない、



 白いレジ袋のような白いモコモコが、



 フワフワと店内を滑るように、



 俺に向かってきている。



 それはまるで、



 スローモーション。







 近所のオス猫を襲ったように、




 一瞬で巨大化し、




 俺を飲み込もうと広がるのが見えた。









 俺の視界を覆い尽くす、白いモコモコ。




 その中はまるで、清潔な白いシーツ。




 包み込まれたら、気持ち良さそうだ。












 俺はとっさに、






 立ち読みしていた大学生風の男を身代わりにした。







「うわっ、なんですか、あなた、うわっ


 う

  ぎ

   ゃ

    あ゛

      あ゛

        あ゛

         あ゛

          あ゛

          お゛

          ぉ゛

          お゛

           あ゛

            ぁ゛

             ぁ゛


              ぁ゛


              ぁ゛

              !゛



              !゛


              !゛



              !゛



             !゛


              !゛


              !゛


               !゛」







 今まで聞いた事のない、恐ろしい大学生の悲鳴があがった。




 しかし、俺は後ろをいっさいかえりみることなく、




 他の買い物客とコンビニ店員も一切無視して、




 そのコンビニを後にする。




 まるで直接見なければ、何事も問題は起こっていないかのように。








 最後にちらっと視界に映った白いモコモコは、




 少しピンク色に変化していた。




 その意味を深く考えてはいけない。















       7



 早歩きで帰路きろにつく俺。



 さっきまでと違い白いモコモコが先回りすることはない。





 今の内に家に帰ろう。



 コンビニの3名が犠牲になってくれている間に。



 俺は胸の内で手を合わせた。





       8



  カチャッ



「ただいまー」


 家についた俺は、極力、何事も無かったような自然な声色こわいろで、彼女に帰宅の合図をする。


 俺のいとしい、あいしている、とびきり自慢な彼女。


「おかえりー。けっこう遅くなかった?」

「あ、うん。ちょっと散歩しようと思って」


 彼女のいつもの可愛らしいボイスを聞けたことで、ようやく助かったんだと実感がわいてきた。



 ああ、俺は助かったんだ。


 少しあがった息を整える。



「もう。ちゃんとスマホ持って、出てよ。鳴らしたら部屋の中で音鳴るんだもん」

「あ、ごめんごめん。急に運動不足を解消したくなって、



 さ、、、」














 彼女の方に振り返った俺の目の前に、







 赤いモコモコが、





 フワフワと漂っていた。





 真っ赤に染まった赤いモコモコが。







 赤いモコモコの上には、





 首だけになった彼女があった丶丶丶





 俺の自慢の超美少女な彼女の顔が。





 彼女の目が、俺を見つめている。










「もう。助けて欲しかったのに。肝心な時に連絡つかないんだから」



 首だけになった彼女は、どうやって声を出しているのか。




 そして彼女のカラダは、

 内臓が、

 手足が床に散乱していて、



 その上を赤いモコモコが、

 クラゲのように、

 フワフワユラユラと揺らめいている。




 赤いフワフワが。



 フワフワモゾモゾとうごめいている。








 彼女はまだ喋っているけど、

 もう手遅れ?

 死んでいる?





 俺は逃げた方がいい、のか?



 まだ逃げる意味は、ある、のか?








 もう、俺も、



 俺も、もう?

    











 ~fin~










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