アゼリア&カイの章 ㉒ また…会えたね(アゼリアside)<完>
私は150年前の事を思い出していた。
この世を去ることになった最期のあの日…。
その日は朝からあまり体調は良くなかった。
いつもよりも身体がふわふわする感じがあったけれども、久しぶりに私の大好きな人達に会えるのだから、口には出さないでいた。
それに今の私はいつ心臓が止ってもおかしくない状態なのだから、この世に生きて居られる限り…大好きな人たちと幸せな時間を過ごしたかった。
いつもの様にカイに抱き上げられながらアゼリアの丘に登る。私はここから見える景色が本当に大好きだった。
そして次々と私の大切な人たちが丘の上に集まって来る。
「アゼリア様は座っていて下さい。私が今日はランチの準備をしますから」
ランチの準備をしようとしているとケリーが笑顔で話しかけて来た。
「そう?ありがとう。そうしてくれると助かるわ。何だか今日は身体がフワフワして少し眠いのよ。昨夜は今日の集まりが嬉しくてあまり眠れなかったから」
そう…きっと身体がだるいのは…寝不足のせいよ。
「そうなのかい?それならこの木に寄りかかっているといいよ」
カイが私を抱き上げた。
「カイ…」
カイの胸に顔を擦り付け、大好きな彼の匂いを鼻に吸い込む。そう…この匂いを決して忘れないように…。
「どうだい?」
カイが大きな木の下で私を下してくれた。
「ええ。丁度背もたれになって具合がいいわ」
カイを見上げて笑みを浮かべた。さっきよりも身体がけだるくなってきている。
「それじゃ、僕もケリーを手伝ってくるからここで待っていてくれるかい?」
「ええ、待ってるわ」
その言葉を聞いたカイはケリーの元へ向かって行った。
カイ…何だかもう…これで貴方に会えるのが最期のような気がするわ…。
目を開けているのもおっくうになって来たので、私はそっと目を閉じた。
多分…私はもうここで駄目なのかもしれない…。
でもカイの温もりがまだ私に残されているから大丈夫…。
目を閉じていると、誰かが私の傍に来てくれたのが分った。
その人は私の髪に何か付けてくれた。目を開けて誰が来てくれたのか確認したくても、少しも身体は動かなかった。
「アゼリア様…眠っているのですか?」
いいえ…まだ…起きて…いるわ…。
「アゼリア様、とっても綺麗ですよ…」
ありがとう…ヤン…。私は貴方が大好きよ…。
そして、ヤンに見守られながら私の意識は完全に途絶えた―。
****
「あ…」
目を開けると、そこには私を心配そうな目で覗き込んでいるカイの姿があった。カイの目は赤くなっている。
身体を起こすと私は尋ねた。
「カ、カイ…?どうし…」
次の瞬間―。
「アゼリアッ!!」
カイが私を強く抱きしめてきた。
「良かった…突然、アゼリアが教会で意識を失って…慌てて連れ出したんだ。なのに少しも目を覚まさなくて…。でも息はしているし…脈も…せ、正常だったから…」
「そう言えば、カイは前世ではお医者様だったのだものね?」
「そう…だよ…」
カイは赤い目で頷く。
「ところで…ここは何所なの?」
良く見ればここは何処かの部屋だった。それに私はベッドの上に寝かされているようだったし、窓の外はすっかり薄暗くなっている。
「ここは…僕が泊まっているホテルだよ。あの教会の近くにあるんだよ。とりあえずアゼリアが目を覚まさなくて…連れて来たんだ」
「そうだったのね…ありがとう。ところで今何時なのかしら?」
「もうすぐ19時になるよ」
「えっ?!そ、そんなに…!」
どうしよう、折角カイとのデートだったのに…私があんな事になってしまったばかりに2人の時間が無くなってしまった。
けれど…その時、脳裏にケイトの声が蘇って来た。
『ねぇ、アゼリア。明日は…無理にここへ戻ってこなくていいからね?』
するとカイが言った。
「アゼリア…もし…もし僕が今夜は帰らないで欲しいと言ったら…君はここに…残ってくれるのかな…?」
「カイ…」
勿論私の返事は決まっている。
「私…今夜は貴方と一緒に…過ごしたい…」
だって、私は全ての記憶を取り戻した。そして…ずっと後悔していたことがある…。
「アゼリア…僕は前世で叶えられなかった事があるんだ」
カイはじっと私を見つめて来る。
「私も…多分貴方と同じ事を考えていると思うわ…」
もう、ここから先は…言葉はいらなかった。
「アゼリア…愛してるよ…」
カイは言うと、私にキスをし…そのまま、私達はベッドに倒れ込んだ。
そして150年経ってこの日、初めて私とカイは本当の意味で結ばれた―。
****
翌日―
カイと2人で一緒に部屋を出た私達は何とも気まずい思いをする。
驚いたことに…ラルフとケイトも前日、2人で隣の部屋で一晩一緒に過ごしていたのだ。話を聞いてみると、ラルフはケイトにヨハン先生の話をした後、生まれ変わって運転手として仕事をしている彼の所へ会いに行ったそうだ。でも特にケイトも、今はレオンと名乗るかつてのヨハン先生も互いに思うところは無かったそうだ。
別れ際、レオンさんはラルフとケイトに話したそうだ。
『僕は最初、ケリーはマルセルさんの事を好きだと思っていたんだよ』
その言葉がきっかけとなり、ラルフとケイトは急激に互いの事を意識する事になったのだと、2人はしどろもどろになりながら私とカイに説明した。
まさにラルフとケイトの新しいカップルの誕生の瞬間だった―。
****
翌日―
私達のお別れの時がやって来た。私達は『リンデン』の空港に来ていた。
「ごめんなさい、カイ。本当はもっと貴方と一緒にいたかったのに、『キーナ』行のチケットが今日だったから…」
「いいんだよ。アゼリア。今は距離なんか関係ない。僕が住んでいる『ハイネ』とは飛行機で片道3時間で行けるんだから」
「でも…」
するとカイが突然抱きしめてきた。
「アゼリア…今はかつての僕たちが暮らしていた150年前とは違うんだよ。電話でだって話が出来るし、テレビ電話だって使える。距離なんか関係ないよ。だって僕たちはそれよりも長い時間…150年も離れ離れだったのだから」
「そうよね。私達に距離なんか…関係ないわよね?」
「愛してるよ。アゼリア。僕が卒業したら…『キーナ』へ行くよ。そして結婚しよう?」
結婚…その言葉が私の胸に染み入って来る。
「ええ…今度こそ、末永く貴方と夫婦として暮らしていきたいわ」
するとカイが言った。
「ほら、アゼリア。あの2人…見てごらん?」
「え?」
カイの視線の先を見ると、そこには抱き合ってキスをして別れを惜しむケイトとラルフの姿があった。
「あの2人も…運命の相手だったんだね」
「ええ、そうね」
そしてカイの顔が近付いて来たので私は目を閉じた。
私達は『キーナ』行の飛行機の搭乗アナウンスが流れるまで飽きることなくキスを交わした。
次の再会を待ちわびながら―。
<完>
本編を持って、完全完結です。
最期までお付き合い頂き、ありがとうございました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜 結城芙由奈@12/27電子書籍配信中 @fu-minn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます