【短編】コミュ障で何を考えているのか分からないヤンデレ幼馴染がスマホを持ったら考えてることをめちゃくちゃ伝えてきて俺を好きすぎてとてもかわいい
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
スマホ
「陽菜(ひな)、これやるよ」
「……」
陽菜にスマホを箱ごと渡すと、恐る恐る受け取る陽菜。
首を傾げ、あまり分かっていない様子。
まあ、いいのだけど。
この1台のスマホが、俺、筒井琉斗(つついりゅうと)と藤乃井陽菜(ふじのいひな)の関係を大きく変えていった。
■俺の幼馴染はコミュ障で何を考えているか分からない
俺には、隣の家に住む幼馴染がいる。
小さい時から隣同士で、親同士が仲が良いというテンプレ・パターン。
小・中・高と同じ学校で、今なんて1年、2年と同じクラスになった。
ただ、幼馴染と言えば、無条件に自分のことを好きになってくれる学園のアイドルみたいな存在をイメージするかもしれないが、うちの幼馴染は困ったやつだ。
髪はボサボサだし、ほとんど喋らない。
表情もほとんどない。
コミュ障過ぎて、なにを考えているか分からない。
俺も時々怖いくらいだ。
朝、家の前で待ち伏せされたり……
学校では昼休みに俺の周りをうろうろしたり……
友達と話していると遠くから見ていたり……
残念ながら、俺の友達からの評判も芳しくない。
俺が捨てたお菓子の包み紙をごみ箱から拾っていったとか、使った後のストローを持って行ったのを見たとか、目撃例もあった。
ストーカーとか、ヤンデレとか、ヤンデルとか言われてる。
幼馴染の女の子と同じクラスといえば、キャッキャウフフな高校生ライフを期待するもんだが、陽菜に関してはそれはなさそうだった。
■スマホで分かった陽菜の考えていること
陽菜にやったスマホは、懸賞で当たったやつだ。
まさかの俺が持っている機種と同じものが当たるとは。
元々いいなと思っていたので、発売と同時に買ったのだけれど、懸賞で当たるとは思っていなかった。
同じものが2台あっても面白くない。
新しい方を使うには設定をやり直す必要があるのでめんどくさい。
新しい方の1台を誰かにもらってもらうことにした。
親などを考えても、スマホは比較的新しいものを持っている。
兄妹はいない。
消去法で陽菜が思いついた。
確か、あいつはまだガラケーだった。
しかも、ほとんど使っているのを見たことがない。
まさに『電話機』だな。
ちなみに、俺はスマホでもほとんど電話はしない。
ほとんど、ゲーム機として使っていた。
とりあえず、陽菜の家に行ってWifiにつなげてやった。
気に入らないかもしれないので、ガラケーはそのまま。
スマホは家の中のWifiにつながった時だけ使える感じ。
ネット(ブラウザ)とメッセージアプリだけ入れて、使い方を知らせてみた。
「ほら、ここにメッセージを入力して送信」
もうね、おばあちゃんに知らせるのと同じくらい簡単なことから教えた。
「そしたら、陽菜のスマホから送ったメッセージが、俺のスマホに届いているだろ?」
「!」
陽菜はあまり表情が変わらないが、驚いたらしい。
「夜中は俺のスマホ音が出ないようにしてるから、気付かない時もあると思うけど、メッセージはいつでも送って大丈夫だから」
陽菜がスマホを操作している。
(ポン)『りゅうちゃん、よろしく!』
メッセージがきた。
お前、俺のこと『りゅうちゃん』って呼んでるの!?
普段、ほとんど会話しないから初耳(初目?)なんだけど!
『よろしくな』
目の前でメッセージを送り返すと、すぐに陽菜のスマホに『ポン』と受信音がした。
「!」
陽菜がスマホを持ったまま、わなわなしている。
「大丈夫か!?」
なにか不都合があったのだろうか!?
陽菜がスマホを操作し始める。
最初だから、入力が遅いけど、ひたすら待つ。
(ポン)『す、すごいよこれ!話せなくても、りゅうちゃんとお話しできるよ!』
「ああ、そうだな。ただ、目の前にいるから、それくらい口で言ってくれ」
そんな感じで『チュートリアル』は終わったから、そのまま帰った。
■陽菜とのコミュニケーション
家に帰ると、メッセージが届いていることに気が付いた。
新しく使い始めた時って、いっぱいメッセしたくなるよね?
分かる。
『りゅうちゃん、ありがとうー!』
『いっぱいお話ししよう!』
『文明の進化は、ここまで来ていたんだねっっ!』
陽菜は見た目とメッセージで印象が全然違うタイプだった。
まあ、そういう人もいるし……
『はわわっ!もう1時だよ!寝ないと!明日学校だよ~!』
…何時まで続くんだ、このメッセージのやり取り。
家に帰ったら、食事や風呂の時以外は、ベッドの上で陽菜のメッセージに付き合っていた。
でも、さすがにもう疲れた。
俺が夜中の2時くらいに寝落ちした後、『もう寝た?』『もう寝たよね!?』などのメッセージを送り続け、陽菜は4時ごろまで起きていたらしい……
ログからわかった。
起きるまでに63個のメッセージがきていたので、内容はスルーした。
どうせ、そうたいした内容はないだろう……
朝、陽菜は家の前にいなかった。
玄関先で一緒になることがあれば一緒に行くこともあるけど、別に待ち合わせをしているわけではないので、一緒に学校に行くのは年に数回と言ったところ。
昨日あんなにメッセージを送ってきたから、今朝はいるかなと何となく思っていただけだ。
(ポン)『はわわっ!寝坊した!』
俺が学校に着くころに、陽菜のメッセが届いた。
「夜更かししすぎだ。もっと早く寝ろ!」
そう返したのだが、その後返事がない。
陽菜は遅刻ギリギリで教室に着いた。
その後、メッセがなかったので、口調が強すぎたかなぁと、よくある『活字の罠』について考えさせられた。
『!』がきつすぎたかな?
『早く寝ろ』と『早く寝ろ!』では後者の方がきつい感じか?
昼休み、弁当を食べ終わると、陽菜がおずおずと近づいてきて、俺の机の上にスマホを置いた。
「どうした?」
「……」
相変わらず、しゃべらない。
いたずらをして叱られた子供みたいに落ち込んでいる。
スマホを見ると、メッセージがたくさん送られていた。
ただ、それは俺のところに届いていない。
ああ、そうか、Wifi!
急いで、自分のスマホのテザリング機能をONにして、陽菜のスマホをつないだ。
(ポン・ポン・ポン・ポン)次々メッセージが届いた。
「陽菜の家の中じゃないとメッセージが送れないようになっていたんだ」
「!」
(カチャカチャ)
(ポン)『壊れてない?』
「壊れてないよ。俺が伝え忘れた。ごめん」
(カチャカチャ)
(ポン)『びっくりしたー!壊れてないなら全然大丈夫!』
勢いのいいメッセージが届くが、送り主は目の前の無表情な陽菜。
なんか、俺は面白くなっていた。
「今日帰りがけ、携帯ショップに寄って陽菜のガラケーからSIM作ってもらうか」
「?」
陽菜が胸の辺りに両手でスマホを持って首を傾げた。
「外でも学校でもメッセ送れるようにしよう、ってこと」
「(コクリ)」
(カチャカチャ)
(ポン)『嬉しー!しかも、りゅうちゃんと放課後デートだよ!感激しかない!』
すげえテンション高い。
でも、送り主は目の前の陽菜。
改めて顔を見てみても『すん…』としている。
普通だったらこれ絶対なに考えているか、伝わらないパターンだわ。
■陽菜が俺のことを好きすぎる
『明日朝、一緒に登校したら迷惑かな?迷惑だよね?一緒に行きたいと思ってるけど、りゅうちゃん何時に家を出るか分からないし、家まで行くのは恥ずかしいし…一緒に学校に行きたいけど、迷惑だよね!?』
長い!
メッセージ長い!
たまに家の前で待ち伏せしてたのって、一緒に学校行きたかったのか?
『朝、8時ごろ迎えに行くから家で待ってろ』
よし、メッセージを送ってみた。
(ポン)『ほんとー!?嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!』
怖い怖い怖い!
(ポン)『りゅうちゃんのお弁当作っていきたいんだけど、迷惑だよね!?それはないよね!?ちょっと私ごときが調子に乗りすぎだよね!?すいませんでした。調子に乗りすぎました。さすがにそれはないよね!?』
長い!
メッセージ長いよ!
後半ほとんど要らないし!
もしかして、昼休み陽菜が俺の机の周りをうろうろしていたのって、一緒に弁当食べたかったのかな?
それでも言い出せなかったとか……
『弁当作ってくれるなら嬉しいよ。母さんの分は断っておくからよろしく。明日は一緒に食べるか?』
(ポン)『きゃびーーーっ!ほんとー!?嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!食べる食べる食べる食べる!りゅうちゃんといっしょにお弁当食べる!』
だから、怖いよ!
『きゃびー』ってなんだよ。
どんな、おどろきの言葉だよ。
(ポン)『いつもいつも竹田くんと川上くんがりゅうちゃんと一緒に食べていて、羨ましかった!呪いだけで人が殺せたら!あいつら私のりゅうちゃんと馴れ馴れしくご飯を食べて!』
うん・・・あいつ、ヤンデレの要素もあるな。
新発見だ。
もしかしたら、友達と話してるとき、陽菜が遠くから見てたのって、羨ましがっていたのか?
やきもちなのか?
いや、それは俺の自意識過剰ってもんだろ。
そこまではないだろうな。
そして、この考えは、翌日完全に裏切られることになる。
(ピンポーン)「おはようございまーす。陽菜と一緒に…」
陽菜の家に行って、チャイムを鳴らすと1秒で陽菜が出てきた。
待っててくれたのか……
いつからだよ!?
ちょっと怖いよ!
思い出したけど、陽菜のお父さんって、ちょっと頑固そうで怖い感じなんだよな。
陽菜のことを溺愛してるし。
お父さんできたらどうしようかと思ったわ。
「行こうか」
「(コクリ)」
無言で頷いた。
いつもの様に無表情。
(カチャカチャ)
(ポン)『嬉しい!りゅうりゃんと一緒に学校!嬉しい!いつ以来!?感動!嬉しい!』
『嬉しい』3回でてきたよ。
この、目の前の表情とまるで違うテンションの高さが面白い。
(ポン)『ドキドキドキドキ…て、手をつなごうと思って狙ったらおかしいよね!?手はさすがにおかしいよね!?いいの、ちょっと妄想しただけだから。りゅうちゃんと一緒に手をつないで学校に行くのがずっと私の夢だったから!!』
だから長いって!
「手、つないで行くか?」
俺が手を出すと(コクリ)と頷いて、手をつないだ。
まあ、手をつなぐとメッセージが打てないから静かになるんだけど。
片方手をつないで、もう片方は鞄があるからな。
ただ、顔は赤くなっているから表情は読み取りやすい。
ハアハアいってるし、興奮気味なのかもしれない。
昼休み、いつもの様に竹田と川上が弁当を持ってこっちに来た。
なんとなく、いつも一緒に食べるメンツだ。
「あ、今日はもう一人いいか?」
「え?別にいいけど誰?」
竹田が答えた。
川上も特に問題ないという表情。
「おーい!陽菜!こっち!」
手招きをして陽菜を読んだ。
大小2個の包みを持ってこちらに歩いてきた。
明らかにおどおどしているし、左右をきょろきょろしている。
それでも、心の中では、竹田と川上を呪っていると思ったら、面白いな。
陽菜は何も言わずに、2つの包みを机の上に置いた。
恐らく大きい方が俺の弁当だろう。
昨日作ってくれるって言ってたから、母さんが作ってくれる分は辞退していた。
陽菜は俺が促して、机を付けて、隣の席に座った。
前方に竹田と川上が座っているので、机は4つ付けた状態。
今まで3人だったから、なんかバランスわるかったんだよ。
「なに!?藤ノ井さんの手作り弁当!?」
「俺らに幼馴染の弁当を見せびらかす感じ!?」
二人が揶揄い始めた。
陽菜は下を向いて真っ赤になってしまっている。
きっと彼女の想像の中では、竹田と川上はもう何回か死んだはず。
「ちょっとね」
そういって、弁当を開けると、想像以上にちゃんとした弁当だった。
半分はご飯、おかずは唐揚げ、ミニハンバーグ、アスパラ・ベーコン、エノキの肉巻き…
かなり手が込んでいる。
「すごい!羨ましいかも」
「え?筒井と藤ノ井さん付き合い始めたの?」
「え、いやまあ……」
何と言っていいのか微妙な感じだった。
陽菜は自分の弁当に目もくれず、スマホにメッセージを打ち込んでいる。
(ポン)『竹田!川上!幼馴染との格の違いを見たか!ぽっと出の友達とは格が違うのよ!格が!』
(ぶふっ!)何考えてるんだ、陽菜!
考えが面白過ぎる。
そして、本人を見ると、いつもの無表情でスマホをタップし続けている。
(ポン)『りゅうちゃん!お弁当食べてー!朝4時に起きて作ったの!』
重い重い重い!
朝4時って早すぎるだろ!
「ありがたくいただきます」
俺は手を合わせて食べ始めた。
陽菜は終始無言で黙々と弁当を食べて、食べ終わるとまたスマホを操作し始めた。
(ポン)『どうだった!?どうだった!?力作はミニハンバーグだったんだけど?』
「ハンバーグうまかった」
(ポン)『きゃー!!うれしいーー!!もう死んでもいい!でも死にたくない!エノキの肉巻きは!?薄切り肉がなかったから、ブロック肉から切り出したの!』
朝から何やってるんだよ!?
「エノキの肉巻きもおいしかった」
(ポン)『か・ん・げ・き!!』
「なあ、お前らなんなの?」
「ん?」
「藤ノ井さんはずっとスマホいじってるし、筒井は一方的に弁当の感想言ってるし!仲悪いの!?」
いや、こうして会話しているのだが……
画面を見ていないと変な風に見られるらしい。
難しいもんだ。
■徹底的に構ってみる
改めて考えてみると、陽菜は変わったやつだ。
今まで、陽菜は何を考えているか分からないやつだった。
行動もちょっと怖いし、避けていた。
色々変わった感じだとヤンデレの気もあるみたいだけど、俺が真っ向から構ったら、どうなるのか?
なにより、ともかく、このもっさりした見た目は気になる。
俺は、お小遣いをはたいて、一方的に、独断と偏見で、陽菜をカスタマイズしてみることにした。
●カット
美容院に連れて行って、髪をカットさせた上に徹底的にトリートメントしてもらった。
●肌
コスメショップに行って、徹底的にスキンケアについて教えてもらった。
流行りのスキンケア・コスメも買ってやった。
●服
ちょっとだけ小洒落た店のマネキンが着ている服を中心に、陽菜の服を上から下まで一式買ってプレゼントしてみた。
なん……だと!?
陽菜が可愛いだと!?
元が良かったのか、それぞれの職人の腕が良かったのか、とにかく陽菜はかわいくなった。
ただ、この瞬間、かわいいだけで、それを維持するのは本人次第となる。
「陽菜……鏡で全身見てみろよ!すごくかわいいと思うぞ」
洋服店の姿見の前に陽菜を立たせて、俺が後ろから覗き込む形で言ってみた。
陽菜はすぐにスマホを操作し始めた。
(ポン)『りゅうちゃんとのデート!しかも、服を買ってくれた!幸せ過ぎてちょっと心が着いて行かない!』
「服もいいけど、顔も見てみろよ!髪も!」
(ポン)『自分じゃないみたい……私がこうだと、りゅうちゃん嬉しい!?』
「そりゃあ、幼馴染がかわいいと俺は鼻が高いな」
(ポン)『りゅうちゃんのために、頑張って維持します!』
朝、ストーカーしなくていいように俺が迎えに行った。
行く時間も予め知らせていたので、陽菜は身だしなみを整えた状態で俺が来るのを待つようになった。
そして、俺を待たせないために、早く寝るようになった。
弁当は作ってくれるらしいけど、朝4時よりは遅く起きていいように工夫するらしい。
こうして1週間徹底的に構った結果……
■変わった評価
「なあ、筒井、最近、藤ノ井さん変わりすぎじゃね!?」
「なんか、かわいいよね。相変わらず喋んないけど」
よっしゃー!
昼休み、弁当を食べ終わった後、竹田と川上の会話にそんな話が出た。
『陽菜、みんなが可愛くなったってよ』
目の前を歩いている陽菜にメッセージを送った。
内容を確認すると、すぐに操作して、返事が帰ってきた。
(ポン)『りゅうちゃんはどう思う!?』
『すごくかわいくなったと思う』
陽菜が近くの机に手をついて、ハアハアしてる。
嬉しかったみたいだ。
徹底的に一緒にいるから、ストーカー的行為もできないし、誰にも何も言わないので、ヤンデレはバレない。
メッセージの量は異常に多いが、俺しか登録していないので、他の誰にも迷惑はかけてない。
ここで改めて、ヤンデレの特徴を調べてみた。
『彼氏中心の言動』→ずっと俺といるので普通の言動にしか見えない。
『嫉妬心が強い』→無表情で誰にも言わないので、誰にも分からない。
『独占的』→独占させているので満足してる。
『周囲の人と彼氏の前で性格が変わる』→ずっと俺といるのでいつも通常運転。
『メッセージが長い』→特に問題ない。ひどい時はスルー。
『彼氏の行動に異常に詳しい』→ずっと一緒だから、調べる必要がない。
『彼が使ったものを収集する』→本人が常に一緒なので集めない。
どうだ!
俺のヤンデレ封じは!?
髪もきれいで、肌もきれいで、毎日弁当を作ってくれて、朝、俺が迎えに行くのを楽しみに待っている、少しやきもち焼きの可愛い幼馴染になってしまった。
俺もいいと思っていたし、陽菜も喜んでいるように見えた。
クラスのみんなも褒めてくれていた。
なし崩し的に陽菜と付き合っているみたいになっているのはちょっと気になったけど、本人もその気みたいだし、このままの流れに任せていいやと思った。
陽菜もスマホを益々使いこなしていて、入力も速くなったし、写真や動画も取り入れるようになった。
全てが順調に見えたある日、ピタリと陽菜からのメッセージが止まった。
■送られなくなったメッセージ
ちょうど週末で、学校は休み。
会いに行かないと陽菜には会えないし、状況も分からない。
メッセージを送っても既読が付かない。
別にケンカなどもしていないし、むしろ仲は良くなったと思うくらいだった。
しかし、週末ともなれば一晩で200件くらい来ていたメッセージが1件もきていない。
たまたまとかあり得ないくらいの変化は、何かがあったことを伝えていた。
俺は、意を決して陽菜の家に乗り込むことにした。
行くのは簡単だが、週末の藤ノ井家には、両親がいる。
そう、あの頑固そうな怖いお父さんもいるのだ。
できれば会いたくない。
でも、そういう訳にも行かない。
(ピンポーン)俺は藤ノ井家のチャイムを鳴らした。
(ガチャ)程なくしてドアが開けられた。
そこには陽菜が立っていた。
陽菜は目に涙を浮かべて一言だけ言った。
「お父さんが……」
普段、ほとんどしゃべらない陽菜がしゃべった。
それだけで俺は大体を察した。
急に変わった娘。
彼氏の存在を疑い見たスマホ。
そこには、俺との大量のやり取り。
俺を『危険人物』だと断定して、陽菜からスマホを取り上げた。
だから、陽菜はあんなに楽しんでいたメッセージも送れずに、涙ぐんでいる。
そんなところだろう。
俺ができることは、こっそり付き合う様な『みなし彼氏』ではなく、『きちんと許可をもらえる彼氏になること』!
「陽菜、お父さんいるか!?」
「(コクリ)」
不安そうな表情の陽菜。
ちゃんとした彼氏なら、彼女にこんな顔をさせてはいけない!
「よし、任せとけ!」
俺は勢いに任せて、藤ノ井家に乗り込んだ。
「失礼します!」
リビングには、あの怖いお父さんがソファに座っていた。
「ほお、誰が来るかと思ったら、きみか。琉斗くん」
お父さんは、身体がでかい。
しかも身長がかなり高い。
目の前でソファに座っているだけで、かなりの威圧感がある。
「最近、陽菜がお世話になっているそうだが、きみが彼氏かね?」
「そうです!俺が陽菜の良さに改めて気づいたんです!」
陽菜は、リビングの隅でこっそりこちらを見ている。
「ふっ、今更かね。陽菜はずっとかわいいんだよ!」
「お父さん!」
「僕を『お父さん』と呼ぶかね」
「それは、言葉の綾です。おじさん!陽菜がメッセージを送れなくしたのはおじさんでしょう!」
「ふっ、何を言っている。僕がそんなことをするわけがないだろう?」
「実際、陽菜は俺にメッセージを送れなくなった!俺とのことが気に入らないんでしょう!?」
「確かに、気に入らないと言えば気に入らないな。陽菜は僕のことを一番好きでいてほしいからね」
「陽菜は娘でしょう!いつかは巣立っていくんです!」
「ほお、じゃあ、きみは陽菜をどう思っているんだね!?」
「大切に思ってます!巣立つ相手が俺じゃダメですか!?」
「うーん、琉斗くんならいいと思うよ、僕は」
「そんなこと言っても、選ぶのは陽菜・・・え!?今、いいって言いました?」
「ああ、どこの馬の骨とも分からないやつはダメだけど、琉斗くんならずっと昔から知ってるしね。最終的に選ぶのは陽菜だけど」
「あの…?」
「陽菜もずっと琉斗くんのことが好きみたいだし、琉斗くんに好かれるように本人もこのところ頑張っているみたいだし」
「ん?んん?」
いきなり、ちょっと話が見えなくなってきた。
「おじさんが陽菜からスマホを取り上げたんじゃないんですか?」
「もう、その『おじさん』っていうのはやめないか?いつも通り『お父さん』って呼んでくれよ」
「あ、はい。お父さん……」
あくまで『陽菜のお父さん』って意味だからね。
「スマホは、陽菜が持っているだろう?きみからのプレゼントだって言って、ひと時も手放さないよ」
陽菜の方を見た。
部屋の入り口から顔だけ出しているけど、手にはスマホを持っている!!
「どういうことですか!?なぜ、陽菜からメッセージは届かないんですか!?」
「あれだよ」
お父さんが、窓際を指さした。
そこには、白い機械が……
タワー型Wifiルーター!!
「ま、まさか……」
「そう、月極7GBまでのタワー型ルーターを使っていたのに、陽菜が画像やら動画やら重たいのを、きみにじゃんじゃん送るからいきなり制限がかかったんだよ……」
「なん…だと……!?」
「早速、無制限の光回線を契約したけれど、つながるのにあと1週間はかかるんだよ!」
俺はその場に膝から崩れ落ちた。
心配した陽菜が急いで近づいてくる。
陽菜が俺に肩を貸してくれた。
俺は何とか立ち上がる。
俺は陽菜に向き合って言った。
「陽菜……さっき、おとうさんが言ったこと理解している?」
「(ふるふるふる)」
「……」
■エンディング
暫定的に、陽菜の送信予定から、動画と画像を削除して、俺のスマホのテザリングにつないだ。
すると、約300件のメッセージが陽菜から届いた。
「琉斗くん?お昼一緒に食べていくでしょ?」
陽菜のお母さんからお昼に誘われた。
「あ、よろしくお願いします」
「琉斗くん、僕はきみが20歳になったら一緒にお酒を飲むのを楽しみにしているから」
「あざーす」
お父さんにも話しかけられた。
俺は、昼ご飯まで陽菜に今、藤ノ井家で起きているネット事情について分かりやすく説明した。
たった今できた、正式な彼女に。
【短編】コミュ障で何を考えているのか分からないヤンデレ幼馴染がスマホを持ったら考えてることをめちゃくちゃ伝えてきて俺を好きすぎてとてもかわいい 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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